最初よりも小さくなった青い光が一つ。尾を引いて遠ざかっていく。もっと小さい、星粒のような五つの光も、尾を引いて遠ざかっていく。
「潮時ですね。追って来るなら、死力を尽くします。……また、お会いましょう」
デブリを挟んで、僕たちと対峙していた
「追います!」
「止めておけ」
「カニンガムさん?」
「次も敵とは限らんだろう。それに、生かしておけば、慰謝料をぶんどれるかも知れん」
カニンガムさんのムクが、
「初陣で、エースだな」
「え、なんです……?」
「義勇軍では、五つ墜とせば
「スーズ。まだ愉快な遠足は終わって無いぞ。帰還するまでが、戦場だぜ」
カニンガムさんが、ぐるりとムクの頭部だけ、コミカルに敵が去った方向に向けて、強がるような冗談めかした声で言ってくれた。
もう、安全に離脱した
「すげえな、アロー。やっぱ先輩だわ……」
「何か、腑に落ちないようだな?」
「どうして、止まらなかったんでしょうか……?」
気になるのは敵艦の最後の行動だ。なんというか、まるで人が乗っていないような、冷たい圧迫感を感じる。
勝てないなら逃げるのは当然の行動だし、特攻するならするで、恨み言を広域通信で言い返してもおかしく無いのに。変だ。
「戦場ってのは、狂気の場所だ。正気を保てない奴から死んでく。理屈じゃねえのさ、と」
カニンガムさんのムクが、通信オペレーターとやり取りをして、丁寧な操作でアルカナクラスに着艦した。続いてスーズさんが、次に先輩が少し几帳面に。
艦内は、さっきの無茶なハンガー付きの旋回で荒れている。僕のマドナグは大きいので、ゆっくり何かにぶつけないように、最後はそっと歩いて、整備用のハンガーに彼を固定した。
「ふぅ……はぁああああああ……」
「全隊員の無事の帰還を祝す。よくやってくれた。一息ついてくれ」
イルマさんの声。開いていた格納庫が閉じていく。空気の減圧が通常に戻って、僕はヘルメットを外した。
お腹が盛大に鳴った。そう言えば目を覚ましてから、水だけで何も食べて無かった。
「お兄ちゃん!! マドナグ、開けなさい!!!」
勝手にロックが外れて、コックピットハッチが開いていく。やっぱり意識というか、高性能な判断ができるAIが搭載されているのかな。彼を作った連中は、ユーモアが大好きなのかも知れない。
「お兄ちゃん!!!」
「はいはい、生きてるぞ。あー……、悪い。何か片手で食べられる物、持ってきてくれないか。整備も手伝わなきゃだし」
「う、うん。ハンバーガー持って来るね!!」
腹が、減った……。抱きついて来たリアの顔を見て、ほっとしたのが余計に悪かったらしい。何か食べたくてたまらない。
本当はあまりよくないんだけど、座席裏で見つけた保存食の封を破って、一つだけ口に放り込んだ。チゲさんが入れてくれた物だろう。後で補充しないとな。それにしても。
「マドナグ……君は一体、どこから来たんだい……?」
僕が話しかけても、彼は反応してくれない。OSから立ち上げれば、会話式の応答もAIがしてくれるだけど、リアがしている事とは、根本的な何かが違う気がする。
チゲさんがコックピットに登って来るまで、何度か話しかけてみたけれど、結局、彼が反応を示してくれる事は無かった。
◇◇◇
統和国軍、第三師団艦隊所属重巡洋艦、つまり救援したドルムから、
統和国は
どんな人たちなんだろうか。専門用語とかで話されても、スラングがわかんない。ちょっとドキドキしてしまう。
──────────。
「あら、あなたが、あの流れ星さまでしょうか?」
美しい大輪の花が、言葉を喋っている。
違う、女性だ。
まるで勝負でも挑まれているように、スラッとしたタイツに包まれた美脚で、膝上のスカートが翻っている。あれ、見えちゃうんじゃ無かろうか。つい目で追ってしまう。
愛くるしい童顔に、少しいたずらっぽい不敵な表情を浮かべている。一度しか画像で見かけた事しか無いけれど、西洋絵画の油絵とか、こんな美人なのかもしれない。
優美、優雅、上品、上流。そして崇美。彼の国の要人か何かとしか、思えない高貴な女性。年頃は僕と同じ16か17。もっと上かもだけど、リアみたいに13って事は無いだろう。
「えっと、僕は……」
「ふむ、失礼?」
白い手袋に包まれたたおやかな指が、僕の頬に触れて、ごく自然な仕草で、顔と顔を合わせられた。めっちゃドキドキする。つい腰に手を回してしまったけれど、びっくりするほど引き締まってて細い。
というか、たわわ、たわわが触れるか触れないの位置に。つい、視線をそらしてしまう。モデルとかと比べても、議論の余地が無いくらい美人で、ドキドキせざるおえない。
「え、えっと……?」
「ふふっ……愛らしいお顔。つい、お側に近づいてしまいそう」
「き、君は……イッタぁ!?」
ビリッと背中に痛みが走った。振り返るとリアが僕の背中に張り付いて、両手で背中をつねって。すっごい不機嫌そうな顔で、頬を膨らませている。
「お兄ちゃん、デレデレしちゃってキモい。信じらんないッッ!!!」
「いきなりなにしやがんだ、お前ッ!! あ、こら逃げるな!!」
「べーだ!!」
無重力エリアだから、一瞬で通路の向こう側に消えてしまう。リアは昔から僕が女の子と仲良くしてると、こういう時が良くある。まったく、後で叱らなければならない。
「はははっ、まあ、屑輪の
「ええ。ご救援頂き、誠に感謝に堪えません。かのご高名な
「ケンプファ?」
イルマさんがちょっと照れたように、僕から目をそらした。妙に可愛い無防備な仕草に、不覚にもドキッとしてしまう。
「わ、若い頃の話さ。傭兵業やってたって、教えた事あっただろ?」
「……そうだっけ?」
「いけません、申し遅れました。わたくし、アーキ・インセプト統和国。外交委員であるジョナサン・ザオ・インテリオルのひとり娘。ノアヤナフ・ドルム・インテリオルと申します。今後ともよしなに。よろしければ、エスコートして頂けますか。素敵な流れ星さま」
「は、はい。喜んで……」
腕をからめられて、また、たわわが当たりかけて、ドギマギしてしまう。重力ブロックに入った時に、何度か腕と足が一緒に出て歩いてしまって、彼女は弾むように笑ってくれていた。
◇◇◇
イルマさんの取りまとめで今回の襲撃について、目撃者全員で、各都市へ報告のために、作戦室でミーティングを行う事になった。
「先に詫びて置こう。連中が封鎖連盟と確証が無かったので、混乱させないために、意図的に情報は伏せていた。……少し、心を強めに身構えて、コイツを見てくれ」
いつになく真剣な表情で、いつも豪放なイルマさんが重々しく、部屋中央に備え付けられた、立体映像スクリーンを操作ている。
「コックピット……?」
機器の配列に見覚えはない。僕以外にも何人か心当たりがないのか、みんな顔に疑問を浮かべている。
「これは、証拠映像として、軍警が例のバイザー付き、ドルムのデータベースからの情報によると、エズと呼称があるらしい。……に、対して。アローが撃墜した直後に、撮影された映像だ」
周囲がざわめき出した。どういう事だろうか。実弾で穴だらけにされた機体はともかく、押しつぶした機体はパイロットの身体が残っているはずだ。意味が、分からない。
「落ち着いて聞いて欲しいのだが、機体内のパイロットスーツからは、人体と思われる痕跡は、何一つ回収できなかったんだよ……」
「む、無人機……?」
「いや、シデン。それはほぼ無い。私、アロー、カニンガム、スーズ、そしてリアも、この機体から人の声を聞いている。それに……」
「そう、ですね……ベテランの意見として言わせて貰えれば。余程高度で、高級なAIでないと……」
そう。僕もスーズさんと同意見だ。AIだけによる自動操縦なら、こっちの搭乗機AIが即座に判別して、対応や表示してくれるくらいに、動きがパターン化しているのが常識だ。
その場合、グローム技術による思考性補助も得られない。だから、人が乗った機体なら、免許だけの素人が操縦しても。相対距離を詰めて、ほぼ勝ててしまう事が多い。
利点がいくつか無いわけではないけど、すぐに判別できるパターン化した動きだけでは、純粋に勝てない。
思考性補助付きに近い行動をAIにさせるには、それだけ大幅に費用がかかるし、機体中枢の演算能力も大幅に食う。普通、理由が存在しない。できるとすればそれは……。
「ライアン艦長。インテリオル嬢。ご説明を頼む」
「了解です。イルマ様に引き継ぎまして、1週間前の本艦の状況から、ご説明させていただこう」
1週間前。ドルムは姉妹艦である重巡洋艦ガリルを中心とした艦隊と、いくつかの技術に関する調印や交渉のために、インテリオルさんの父親を含めた政府高官たち数名を乗せて、準惑星ケレスを目指して航行していた。
ところが
これを受けて、ガリル艦隊はドルムの搭載機半数を引き連れて防衛。敵の布陣から、ドルムはそのまま囮となって、直接ケレスを目指す事に。
辛くも離脱したが、ドルムは駆逐艦二隻に追いつかれて、交戦。勝利を収めるが、出撃した
「我が艦内の技術者すべてに、捕獲した
説明している壮年のライアン艦長も、堀の深い顔を歪めて、怪訝な顔を浮かべている。意味は理解できるけど、それじゃあまるで……。
「それじゃ何か? 撃墜されたらパイロットスーツだけ残して、
「現状。そう申し上げるしか無いのですよね……」
「意味わかんないよぉ……!」
僕の隣で黙って話を聞いていたリアが、涙目で痛いぐらい抱きついて来た。やっべ。彼女はこの手の話が大の苦手だ。イルマさんが今夜、トイレについて来て欲しいと言われてしまうかもしれない。
「何にしても不可解だからね。もうケレスも近い。そっちに顔出してアローが
全員がイルマさんの言葉に頷いた。だけど不可解極まりない。僕が撃墜したのは、本当に人が乗る船だったんだろうか。
「お、お兄ちゃん……」
関係ないか。この宇宙の時代に、幽霊だろうが亡霊だろうが、不気味だろうが守れば良い。それに、亡霊とやらなら、こっちにも居る。
「大丈夫だリア。僕と
安心させるために、彼女の顔を片手で胸元に引き寄せる。彼が居れば、生き残れる。そう、僕は自然に思えていた。
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今回のまとめ。
アロー君。偶発的な戦闘を含めて、6機撃墜し、名実ともに、
無事帰還。マドナグ君の正体不明っぷりに、アロー君は思いを馳せる。
新ヒロイン様ご来訪。美脚系お嬢様ですよお嬢様。
封鎖連盟。パイロットが敗北と共に消失。としか思えない現象が起きていると推測。真相は如何に。
リアちゃんを守ると宣言。リアコン……リアちゃんコンプレックスの鑑ですね。
計6機撃墜なので、アロー君はエースですね。普通のエースは5機撃墜すれば、十分以上にエースなんですよね。牛乳飲んで、部下の代わりに出撃して、勲章たくさんもらって、撃墜されても帰ってきたルーデウス閣下とかと比べてはいけない。
…………たまに、現実のほうがバグってるから戦史ってすごい。
最も、イルマ・コンツェルンのテストパイロットさん達は、みんなかなり腕前が良いので、小惑星帯最強のパラス軍に連なるほど評価されています。
なので、新人でもかなり腕はいい方なのです。
美脚で勝負。わが辞書に終生まで、綴りたい言葉です。元ネタはもちろんスーパーでロボットで、幽霊な機種の必殺技です。ショウト・ナウッ!!!
あと1分だけお時間を下さい。面白かったと思ったり、続きに期待ができると思った方は、フォロー&★★★レビューで応援をお願いします!
以下その方法と、いつもの主人公「アロー」君と今回はヒロインである「インテリオル」さん、「マドナグ」の一言と、次回予告です。
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アロー「インテリオルさんって、ロールフッドの免許は持っていますか?」
インテ「あ、いえ、所持しておりませんが、通信オペレーター資格と、大学ではOSプログラムを少し、勉学させて頂いておりました」
アロー「そうなんですね。すごい。では、今回も応援よろしくお願いしますね〜👋(ふりふり)」
インテ「よしなに。で、ございます。うふふ。👋(ふりふり)」
マドナグ「👋(なぜか無言のツインアイノイズ)」
次回は、ものすごい訓練シーンからスタート。どこがものすごいかは、サプライズ的にヒミツで。
アロー君も正式な入隊手続きへ。そこで目にしたものとは。
次回「入隊」……輝く嵐は、愛にこそ気づくために、吹いている。