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第21話 「マドナグ」

 到達した時点で、波状攻撃を仕掛けた結果。戦況は優勢で、次々にクレーターの縁に連なる基地を占拠。予定よりはるかに早く、母艦アルカナクラスが降下する地点へ、僕たちは到着した。


「着陸後、陸戦艇を降ろせ。対宙監視班ッ!! 敵が仕掛けて来るならここだ!! 絶対に油断するな!!」


「うぉおおおおおおおッ!!!」


「ちっ、マヌグス・フロルーか!?」


 先輩のフルアサルト・ウォカズに対して、実弾ライフル2丁と、肩の実弾ガトリングを撒き散らしている敵機を確認。


 傭兵ランカーエース離反者マヌグス。元ランク7、グリントの部下か。カニンガムさんと、スーズさんが前に出る。


「予定通り俺たちが対処する! お前たち二人は、陸戦艇と母艦アルカナクラスを守れ!!」


「了解!」


「もう数機、上から来ます。データを」


「お前が! お前が、グリントをぉおッ!!」


 リザイスから、データリンク。各部の走査波をアクティブ。17時の方向。部下を引き連れて、15メートルの赤いロールRフッドF。メンデウが、拡散するレーザー・ショットガンを乱射して、襲いかかってくる。


 離反者ピナマ。元ランク13。グリントと恋仲と噂されていた女か。


「対処する。援護と、警戒を続けて」


「はい、分かりました。アロー」


「小惑星帯で、星の巡りが良かっただけの輩がぁあ!!」


 レーザー・ガトリングシールドを、仁王立ちで照射。流石に動きが良いけど、付いてくる部下と連係が取れていない。即席の編成か。


「反撃も過度になれば、加害か、おかしな話だねぇ……!」


 弾幕に食いついた。艦砲射撃に巻き込まれて、二機。撃墜。残り三機。舌なめずりしながら、パルス・シールドを張って、赤熱剣ヒート・ソードを引き抜く。


「私の男をやったなら、機体の前に、並んで死ねやぁああッ!!」


「履き違えてんだよ。理由をさ!」


 フットペダルを、二つ。全力で基地の建物を蹴って、ブースターを吹かす。向こうは火器を手放して、両手でレーザー・ソードを抜いた。


 鍔迫り合う。右腕一本で、部下ごと巻き込んで、押し切る。


「うわっ……ここまで出力パワーが!?」


「ダンチだろう!! アールエ!」


「そこです」


 絞られたフルールのパルス波が、三機とも巻き込む。出力の落ちたレーザー・ソードを、根元から叩き折って、袈裟斬りにマニュピレーターごと、狙って切り裂く。


「ぎゃあああああああっ、くぅ……!」 


「ハハッ、仕掛けといて、部下を盾に逃げるか!!」


 左腕部、左脚部、腰パーツの一部を破損した敵機が、戦域を離脱していく。逃げても無駄だろうに。もう弾の無駄か。


「アロー。周辺に敵機、無しです。……来ます」


「ああ。さてっ……!」


「見つけました。アロー君!」


 クレーターの下、想定内の方向から、なんの前触れもなく。対宙域多段頭ミサイルが、母艦アルカナクラスに迫ってくる。


 更に、上空で激しい撃ち合いをしていた双方の五艦隊が、一筋の鮮やかな赤紫マゼンタの光に消えていく。


「アールエ!」


「はいっ…………!!」


 フルールと側頭部機関砲。レーザー・ガトリングシールドを投げつけて、迫る爆撃から母艦アルカナクラスを守る。大幅に防いだけど、手数が足りない。


「くっ……、ダメージ・コントロール!」


「格納庫の外壁破損ッ!! 空気の流出が、始まっています!」


「整備班は退避急げ! リアッ!!」


「もうやってる! みんな、こっち!!」


 防ぎきれなかったか。ここからでもバックリ壊れた格納庫の入り口と、緑色の球体が見える。飛び出した生体反応は無いけど、やってくれたな。


 今の攻撃はおそらく。各部の走査波を。18時方向、お前なら、そうするだろうな。


「援護は一応間に合ったか、戦友カーヴォン


「ちっ……邪魔されたか。一気に殲滅できれば、楽だった物を」


「毎度毎度不意打ちばかり。最強だった割にはずいぶん必死で、底が知れるじゃないか。グリント」


「まったくですね。別に正々堂々とは言いませんが、随分と落ちぶれた物ですよ」


  イルマさんはグリントの奇襲に備えて、戦友カーヴォンに隠れていてもらい、僕たちをいざという時、援護する任務ミッションを依頼していた。


 戦友カーヴォンは快く二つ返事で受けてくれて、完全では無いけど依頼達成してくれた。奴と戯れ合うなんて怖気が走るけど、リアやイルマさんに、銃を向けさせるわけにはいかない。


 それに、陸戦隊の破壊工作もある。落ち着こう。時間稼ぎに御託で煽るか。


「フン……獲物を前に舌なめずりか。良いだろう。乗ってやる」


 姿を現したのは、三十メートルほどの赤黒い人型機体。ロールRフッドFじゃ無い。手足が太く、ドッシリと力強い印象を受ける。両肩に大きな砲塔。片方の砲塔は煙を上げている。さっきの赤紫の光はそれか。


 マドナグの戦闘意欲感応器コンバットメンタル・センサーが、一気に150まで上昇。モニターも光っている。相当気に入らないのか、あるいは激怒しているのか、僕と同じか。


「ククッ……貴様らの情けない機体に轢き殺されるほど、今回の機体は甘く無いのでな」


「あ? 今お前、家のマドナグに、なんつった?」


「癇に触ったか。だいたいなんだあの演説は、青臭い。貴様も戦争屋で人狩りなのは変わらん。小綺麗な理想なぞ、吐き出しよって……!」


「そうだぞ。だから?」


「なに、貴様……?」


「戦争屋しか機能のない、粗製品の人モドキに言われる筋合いは無い。僕は他もたくさん出来るもの。どうせ女を抱く機能も、とっくに無いんだろう。種無し」


「殺す!」


 クレーターの下からアームレスが三機。崩れかけた基地から、こちらに向かってくる。威圧のつもりだろうけど、この程度でキレるのか。駆け引きも何もあったもんじゃ無い。


 本当に情けないな、お前。


「うっは。図星かぁ、下らない!」


「勝ち馬に乗ってきただけの小僧が!」


 照準波。アールエのパルス波と、グリントの大型レーザー・ガトリングが撃ち合う。出力そのものが高い。パルス波だけで決着は、やっぱり無理か。


「知ったような口をぉお!」


「散々勝ち馬に自分を改造した奴に、言われる筋合いも無い!」


 アールエとデータリンク。肩部プラズマミサイルポッドを、全弾発射。イルマさん直伝の目眩ましだ。


「たらればを!」


「たらればさぁあッ!!」


 接続エネルギーバイパス良好。常温核融合炉、臨界。出力良好。チャージは要らない。戦友カーヴォンと合わせて、確実に戦力を削ぐッ!!


「一斉射です、アロー君!!」


「いただくッ!!」


 三連射した荷電粒子プラズマと、肩部ホーミング・レーザーが、最も近いアームレスに殺到する。胴体と武装のほとんどを爆散させて、アームレスは月の重力に引かれて落下していく。


 撃墜。大型、一機。


「ちっ……安定物質セロトニン興奮物質アドレナリン、最大分泌。膜輸送体トランスポーター全解放ッ……!!」


「マァドナグッ!!」


 全安全装置解除オールリミッター・リリース。量子コンピューター、強制冷却開始。奴は、大型レーザー・ソードか。


 フットペダルを二つ。改良型かいりょうがた特大質量支柱実体剣斧マス・クリーバーと、赤熱剣ヒート・ソートでッ!!


 すれ違いざまに全力で、一合。大量のレーザー粒子、質量、溶断できる刃がぶつかり合い、放電現象サンダー・ボルト。S字を描いて、離れる。


「このコレクティヴィストを持ってしても、か「」


 パワー負けも、速度負けもしていない。けど。


「フン……だが、貴様の負けだ。生身である限り、肉体的限界マン・ポイントは、どう抗っても越えられん。どの道、敗北は必然という訳だ」


「理解したって、やめられるかよ……!」


「それに、クククッ……ここは戦場なのだぞ。小僧ッ!!!」


 動きが変わった。後方に照準波、僕じゃない、母艦アルカナクラスかッ!!


「貴様らを殺す為だけに、わざわざ編み出した新戦術コラプサー・マニューバーだ。この宇宙そらでまとめて溺れ死ぬが良いッ!!」


「いけないッ!!」


「くっ…………!?」


 残り二機のアームレスが、いきなり機敏に動いて弾幕を張って、下がるしか無い。前に出ればやられて、グリントから追撃を食らう。


 アールエが必死にフルールを舞わせてるけど、弾幕が厚すぎて、子機が飲まれて行く。


 巧妙だ、上手い。回避しても、まるでその先に火線が置かれるように、襲いかかってくる。悔しいけどコイツ。本当にセンスが桁外れだ。


「あれは、重金属共振砲リフェーザー・キャノン!? 完成していたんですかッ!!?」


「貴様らご自慢のパルス兵装でも、これだけは防げん。そのみすぼらしい船とまとめて、この銀河から完全消去してくれるッ!!」


 膨大なエネルギー反応。荷電粒子砲の五倍以上。マドナグからの予測威力、およそ月の貫通。コロニーレーザー以上クラス。せめて、少しでも盾に……!


「ぐううっ……!!」


「今度こそ、私の勝ちだ。アロー・イルマぁあああああああッ!!」


 不気味にきらめく重粒子が、赤紫マゼンタの光に。マドナグが、アールエが、戦友カーヴォンが、イルマさんが、ノアが、……リアが。


 眩しくて、目を閉じる事しか、できない。

 光に、飲まれていく。光だけが、広がっていく。



◇◇◇



「クックックッ……ハッハッハッ……ハーッハッハッハ!!」


 耳障りな笑い声が聞こえる。聞こえるということは、僕は生きている。でも、目が見えない。いや、真っ白で、分からない。認識できない。


 負けたくない、負けられない。煙しか、見えないままで良い。死んだままでも構わない。四肢を弾き、を立てる。


「勝った、勝ったぞぉお、語るに及ばずだったな塵芥ぁあ、……なぁああにぃいいっ!!!?」


 爆煙から飛び出してく。ロードから受け継いだ右手を、爪ごと振るう。声を出していた固い何かを砕いて、音が止まった。


 目元を擦る。まばたきをして、次第にちゃんと見えてきた。メインモニターに「インストールシステムコール・コンプリーテッド。グロームネイル」の表示。光って、光って、光っている。虹色の渦。


「紐……いや、髪。六指の爪……多数色の、光。

なんだ、なんなのだ、その姿は……!!?」


「緑色の球体が、無くなっている。アレが防いでくれたのか……アロー君!」


 マドナグの姿が、変わっている。サブモニターに表示された姿は、右腕に球体を形成していた子機が密集して、髪のように頭部から、光る粒子を排熱して繰り返している。


 分かる、感じる。みんな生きている。緑色だったコイツらが、マドナグも全部。僕に語って、その手を示して、感じさせてくれる!


「お兄ちゃん! マドナグッ!!」


「もう一回、ブンれぇえッ!! マドナグ!!!」


 フットペダルを、二つ。右腕に集まった六つの子機ごと、砕け散った頭部の装甲めがけて、猟犬のように、本能のまま飛びかかる。


「ケモノか貴様は!!?」


 ゴリゴリに頭部を押し付けていても、ひねり込まれる。まだだ、怯むな。野生はここにある。リアが以前やったように、両手で地面に引き込んで、右手一本で、押し潰すッ!!


「人はみんな、獣だよッ!!」


「ぐぅっ、異常警報……コックピット生体反応二万んん!!? な、なんだと言うのだ、なぜそんなに居る、入るぅ!!?」


 感じる。操縦に使う、手が、足が、単純に増えている。行ける。これならッ!!


「舐・め・るなぁあッ!!」


 強引に大型レーザー・ガトリングを分離させて、ブースターで距離を稼がれた。逃がさすかッ!!


 並走し、月の宇宙そらを、舞う。

 戦艦の残骸を蹴りつけてくる。

 構うか。右手の爪を高速回転、ブチ抜く。


「貴様、アロー・イルマぁあああああッ!!!」


 また、アームレス二機が機敏に追求して、こっちを邪魔しにくる。重金属共振砲リフェーザー・キャノンか。もう僕は、マドナグは恐れない。恐怖から、目をそらさない。


「マドナグ。踏み込みと、気迫と……!」


 ギィンッ


 複合センサー。光放熱素材のツインアイが、決意に応じて、虹色に強く、何より強く、輝きを増す。


 さぁ、行こう。マドナグ。コイツを倒して、君の銀河に。


「終われッ、終われぇえええええええッ!!!!」


退ッ!!!!」


 宇宙そらを駆ける。


 爆炎も、レーザーも、光も、刻も、怒りも、哀しみも、涙さえ。すべてを置き去りにして。


「ぶ・ち・ぬ・けぇええええええええッ!!!!」


 宇宙そらを駆ける。


「あ、あぁあ、ああああああああ!!?」


「マァアドナァァアアアグッッッ!!!!」


 マドナグの六爪が、厚い装甲を貫いて。

 マドナグの六爪が、熱交換器ラジエーターを貫いて。

 マドナグの六爪が、エネルギー回路を断ち切って。

 マドナグの六爪が、最終防壁を物ともせず。

 マドナグの六爪が、両肩の予備常温核融合炉サブジェネレーターを、虹色の光で、完全崩壊させていく。


「流れ星が……」


 今度は聞こえる、はっきりと。戦友カーヴォンも、アールエも、イルマさんも、ノアも、リアも、マドナグの声も、はっきり感じれる。


宇宙そらに、光っていく……」


 爆炎と閃光の向こう。音なき咆哮かちどきを繰り返すマドナグを感じて、僕たちは、勝利を「その手」に掴んでいた。



◇◇◇



 グリントを失ったアームレスは、駆けつけた先輩達と、戦友カーヴォンに破壊された。


 これで、この場に戦闘能力を持つ物は無くなった。後はグリントの乗っていたコレクティヴィストを、完全にレーザーで焼かないと。


「テストはまだだが、道連れだ」


「えっ、アロー……!!」


 アールエのリザイスが、指を指す向こう。

 残ったコレクティヴィストの胴体部が、赤紫に変色している。

 マドナグの異常警報も、今まで聞いたことが無いほど、何種類も鳴りひびている。


「何をする気だ!? グリント!!」


「なに、相転移爆弾という奴だ。失敗作だろうが、転用したのだよ」


「なに、なっ、なんつうもんを……!?」


「今の声は、イルマだったか? 私の本体は承知の通り、シェルターの下だ。巻き込まれる可能性もあるが、その時はその時だ」


 爆発規模予測範囲。エネルギー総量から推測して、月の崩壊と、それによる統和国のコロニーまで、だと。


「残念だったな。だから、絶対に負けんと言ったのだ。多くの戦いは、戦う前に勝敗が決まっている。ただの流儀一つで奇跡のように覆る事は、……あの忌々しい男くらい、だったな」


「負け惜しみかよ!!」


「ロード・ヴァイスか」


「肯定だ。……お前は、いや、お前たちは善戦した。だが無駄だ。もう私自身にも、貴様の機体でも止められん。この月は崩壊し、統和国も巻き込まれ、貴様らの小惑星帯アステロイドベルトも、この銀河全体が戦いの泥にまみれて、汚れ果てるわけだ。……案外、悪くはなかろう、戦い続けるのだから」


「なんだと?」


「人は、無意識に人の姿を求める。だから、人の顔に近い車が産まれ、人型機体が世に溢れた。その理由は絶滅寸前になっても、戦い続ける歓びを知る人類の獣性、そのものだ。……戦いは必須だとも、進化の為に。到達したお前がその体現者にして、弁論者だ。思想家だった、私でなく……な」


「世迷言、を……」


 否定しきれなかった。戦いを人類に必須だと断じたのは僕自身だ。事実。僕とマドナグは、獣性でグリントを倒したのだから。


「マドナグ……え?」


 メインモニターに、濃い緑の文字で、大きく。


『搭乗者ノ幸福ヲ最優先トスル』


「やめろ……マドナグッ!!?」


「お兄ちゃん!!?」


 外に。コックピットが勝手に開いて、ジェルごと強制排出されたのか。月面から離れて、あっという間にマドナグが、どんどん小さくなっていく。


「おい、どうなってんだ、みんな月から離されていくぞ!?」


「だめ、ブースターが動かない!?」


「艦船もか、一体、何がどうなって……!」


 マドナグは、赤紫に変色しているコレクティヴィストの胴体部を抱えて。僕に、マニュピレーターを平らにして、ツインアイの前に。まるで、敬礼みたいに。


「マドナグ! だめだ!! 戻れ、戻るんだ、マドナァグッ!!!」


 背を向けて、クレーターの下へ。


「行くなぁあああああああああああああッ!!!」


「光の渦……」


「離れて、離れてく……」


「なぜ、なぜひとりでに動く。貴様もただの、使われるだけの機械だろうに!」


 グリントの、声。


「答えろ、なぜ、データリンク? 写真……動画……SNS!? これが一体、何だというのだ!?」


 あふれるものを、抑えきれない。もう、彼の姿は、見えない。


「……飛んでいく、星。ああ、ああ。綺麗だ。どうして、俺は、僕は。こんなところにまで……」


「マドナグっ……」


 膨大な光の奔流だけが、ただすべてを避けて、月面から飛び散っていく。

 誰も彼も、引き金から指を離して。

 すべての戦いは、終わりを告げた。



◇◇◇



 何も無い宇宙を、漂う。

 何も、思い浮かばない。

 透明なジェルに足掻こうとすら、思えない。


 膝を抱えて泣きじゃくる。子供のように。

 マドナグは、マドナグは。僕の夢そのものだった。こんな所に、連れて来るんじゃなかった。死ぬのは僕だけで良かったのに。


 僕だ。僕が自身が、彼を、僕自身の星を、夢を、殺した。


 自殺もできないらしい。パイロットスーツを脱ごうとしても無駄だった。どれくらい、時間が経ったんだろう。


「お兄ちゃんッ!!」


 リアの声、僕のムクか。そうだ、リアが居る。まだ、まだ、死ぬわけには行かない。


 ごめんな、マドナグ。僕はまだ、死んでしまうわけには行かない。帰れる場所が、君の居てくれた場所が、まだ、あるんだから……。


 辛くても、死ねない。


 「これ!!」


 カメラアイから、立体映像……今さら何を。写真。見たこと無い場所と銀河。SNSの…………っ!


 もがく、もがく、もがきまくる。目が覚めた。マニュピレーターが触れた瞬間に、全力で蹴って、ムクのコックピットに飛び込む。


「リア! 場所は!?」


「だめ、わかんないし、聞こえないっ!!」


「なにか、なにか無いか、なにか……!」


 月が下で、太陽が12時上方。光は主に上に。思い出せ思い出せ、データリンクが来てるなら、そう遠くには。


「聞こえない……聞こえないようっ……!」


「思い出せ……、思い出すんだ。僕は、何を彼に置いてきた……!」


 何でも良い、何でも良いんだ。魂だろうが、グローム感応だろうが、残留思念だろうが。超感覚だろうが、知らない力だろうが、カミだろうが、戦いだって構わいやしない。僕の夢だ、僕のマドナグだ、僕とマドナグなんだぞッ!!


 花びら。アールエの、フルール……?


「お兄ちゃんッ!!!」


「っ……そうに、決まってくれ!!」


 追いかける……マニュピレーターで、掴む。走査波をマドナグに限定。痛いほどに無音で、……何も、反応は。


「歌……」


「歌……?」


 鼻歌が、聞こえる。

 リアはここに居るのに、確かに聞こえる。

 太陽の端、天の川。闇の彼方。


「マド……ナグ!!」


 熱い瞳で、君を見つめて。

 張り裂けそうな胸の奥から、名を呼んで、叫ぶ。


 巡る星屑と宇宙そら最中さなか。幾奥のいのちが、彷徨い征く、宇宙そらで。

 僕は、彼の鼓動おもいを、確かに。感じていた。


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