到達した時点で、波状攻撃を仕掛けた結果。戦況は優勢で、次々にクレーターの縁に連なる基地を占拠。予定よりはるかに早く、
「着陸後、陸戦艇を降ろせ。対宙監視班ッ!! 敵が仕掛けて来るならここだ!! 絶対に油断するな!!」
「うぉおおおおおおおッ!!!」
「ちっ、マヌグス・フロルーか!?」
先輩のフルアサルト・ウォカズに対して、実弾ライフル2丁と、肩の実弾ガトリングを撒き散らしている敵機を確認。
「予定通り俺たちが対処する! お前たち二人は、陸戦艇と
「了解!」
「もう数機、上から来ます。データを」
「お前が! お前が、グリントをぉおッ!!」
リザイスから、データリンク。各部の走査波をアクティブ。17時の方向。部下を引き連れて、15メートルの赤い
離反者ピナマ。元ランク13。グリントと恋仲と噂されていた女か。
「対処する。援護と、警戒を続けて」
「はい、分かりました。アロー」
「小惑星帯で、星の巡りが良かっただけの輩がぁあ!!」
レーザー・ガトリングシールドを、仁王立ちで照射。流石に動きが良いけど、付いてくる部下と連係が取れていない。即席の編成か。
「反撃も過度になれば、加害か、おかしな話だねぇ……!」
弾幕に食いついた。艦砲射撃に巻き込まれて、二機。撃墜。残り三機。舌なめずりしながら、パルス・シールドを張って、
「私の男をやったなら、機体の前に、並んで死ねやぁああッ!!」
「履き違えてんだよ。理由をさ!」
フットペダルを、二つ。全力で基地の建物を蹴って、ブースターを吹かす。向こうは火器を手放して、両手でレーザー・ソードを抜いた。
鍔迫り合う。右腕一本で、部下ごと巻き込んで、押し切る。
「うわっ……ここまで
「ダンチだろう!! アールエ!」
「そこです」
絞られたフルールのパルス波が、三機とも巻き込む。出力の落ちたレーザー・ソードを、根元から叩き折って、袈裟斬りにマニュピレーターごと、狙って切り裂く。
「ぎゃあああああああっ、くぅ……!」
「ハハッ、仕掛けといて、部下を盾に逃げるか!!」
左腕部、左脚部、腰パーツの一部を破損した敵機が、戦域を離脱していく。逃げても無駄だろうに。もう弾の無駄か。
「アロー。周辺に敵機、無しです。……来ます」
「ああ。さてっ……!」
「見つけました。アロー君!」
クレーターの下、想定内の方向から、なんの前触れもなく。対宙域多段頭ミサイルが、
更に、上空で激しい撃ち合いをしていた双方の五艦隊が、一筋の鮮やかな
「アールエ!」
「はいっ…………!!」
フルールと側頭部機関砲。レーザー・ガトリングシールドを投げつけて、迫る爆撃から
「くっ……、ダメージ・コントロール!」
「格納庫の外壁破損ッ!! 空気の流出が、始まっています!」
「整備班は退避急げ! リアッ!!」
「もうやってる! みんな、こっち!!」
防ぎきれなかったか。ここからでもバックリ壊れた格納庫の入り口と、緑色の球体が見える。飛び出した生体反応は無いけど、やってくれたな。
今の攻撃はおそらく。各部の走査波を。18時方向、お前なら、そうするだろうな。
「援護は一応間に合ったか、
「ちっ……邪魔されたか。一気に殲滅できれば、楽だった物を」
「毎度毎度不意打ちばかり。最強だった割にはずいぶん必死で、底が知れるじゃないか。グリント」
「まったくですね。別に正々堂々とは言いませんが、随分と落ちぶれた物ですよ」
イルマさんはグリントの奇襲に備えて、
それに、陸戦隊の破壊工作もある。落ち着こう。時間稼ぎに御託で煽るか。
「フン……獲物を前に舌なめずりか。良いだろう。乗ってやる」
姿を現したのは、三十メートルほどの赤黒い人型機体。
マドナグの
「ククッ……貴様らの情けない機体に轢き殺されるほど、今回の機体は甘く無いのでな」
「あ? 今お前、家のマドナグに、なんつった?」
「癇に触ったか。だいたいなんだあの演説は、青臭い。貴様も戦争屋で人狩りなのは変わらん。小綺麗な理想なぞ、吐き出しよって……!」
「そうだぞ。だから?」
「なに、貴様……?」
「戦争屋しか機能のない、粗製品の人モドキに言われる筋合いは無い。僕は他もたくさん出来るもの。どうせ女を抱く機能も、とっくに無いんだろう。種無し」
「殺す!」
クレーターの下からアームレスが三機。崩れかけた基地から、こちらに向かってくる。威圧のつもりだろうけど、この程度でキレるのか。駆け引きも何もあったもんじゃ無い。
本当に情けないな、お前。
「うっは。図星かぁ、下らない!」
「勝ち馬に乗ってきただけの小僧が!」
照準波。アールエのパルス波と、グリントの大型レーザー・ガトリングが撃ち合う。出力そのものが高い。パルス波だけで決着は、やっぱり無理か。
「知ったような口をぉお!」
「散々勝ち馬に自分を改造した奴に、言われる筋合いも無い!」
アールエとデータリンク。肩部プラズマミサイルポッドを、全弾発射。イルマさん直伝の目眩ましだ。
「たらればを!」
「たらればさぁあッ!!」
接続エネルギーバイパス良好。常温核融合炉、臨界。出力良好。チャージは要らない。
「一斉射です、アロー君!!」
「いただくッ!!」
三連射した
撃墜。大型、一機。
「ちっ……
「マァドナグッ!!」
フットペダルを二つ。
すれ違いざまに全力で、一合。大量のレーザー粒子、質量、溶断できる刃がぶつかり合い、
「このコレクティヴィストを持ってしても、か「」
パワー負けも、速度負けもしていない。けど。
「フン……だが、貴様の負けだ。生身である限り、
「理解したって、やめられるかよ……!」
「それに、クククッ……ここは戦場なのだぞ。小僧ッ!!!」
動きが変わった。後方に照準波、僕じゃない、
「貴様らを殺す為だけに、わざわざ編み出した
「いけないッ!!」
「くっ…………!?」
残り二機のアームレスが、いきなり機敏に動いて弾幕を張って、下がるしか無い。前に出ればやられて、グリントから追撃を食らう。
アールエが必死にフルールを舞わせてるけど、弾幕が厚すぎて、子機が飲まれて行く。
巧妙だ、上手い。回避しても、まるでその先に火線が置かれるように、襲いかかってくる。悔しいけどコイツ。本当にセンスが桁外れだ。
「あれは、
「貴様らご自慢のパルス兵装でも、これだけは防げん。そのみすぼらしい船とまとめて、この銀河から完全消去してくれるッ!!」
膨大なエネルギー反応。荷電粒子砲の五倍以上。マドナグからの予測威力、およそ月の貫通。コロニーレーザー以上クラス。せめて、少しでも盾に……!
「ぐううっ……!!」
「今度こそ、私の勝ちだ。アロー・イルマぁあああああああッ!!」
不気味にきらめく重粒子が、
眩しくて、目を閉じる事しか、できない。
光に、飲まれていく。光だけが、広がっていく。
◇◇◇
「クックックッ……ハッハッハッ……ハーッハッハッハ!!」
耳障りな笑い声が聞こえる。聞こえるということは、僕は生きている。でも、目が見えない。いや、真っ白で、分からない。認識できない。
負けたくない、負けられない。煙しか、見えないままで良い。死んだままでも構わない。四肢を弾き、
「勝った、勝ったぞぉお、語るに及ばずだったな塵芥ぁあ、……なぁああにぃいいっ!!!?」
爆煙から飛び出してく。ロードから受け継いだ右手を、爪ごと振るう。声を出していた固い何かを砕いて、音が止まった。
目元を擦る。まばたきをして、次第にちゃんと見えてきた。メインモニターに「インストールシステムコール・コンプリーテッド。グロームネイル」の表示。光って、光って、光っている。虹色の渦。
「紐……いや、髪。六指の爪……多数色の、光。
なんだ、なんなのだ、その姿は……!!?」
「緑色の球体が、無くなっている。アレが防いでくれたのか……アロー君!」
マドナグの姿が、変わっている。サブモニターに表示された姿は、右腕に球体を形成していた子機が密集して、髪のように頭部から、光る粒子を排熱して繰り返している。
分かる、感じる。みんな生きている。緑色だったコイツらが、マドナグも全部。僕に語って、その手を示して、感じさせてくれる!
「お兄ちゃん! マドナグッ!!」
「もう一回、ブン
フットペダルを、二つ。右腕に集まった六つの子機ごと、砕け散った頭部の装甲めがけて、猟犬のように、本能のまま飛びかかる。
「ケモノか貴様は!!?」
ゴリゴリに頭部を押し付けていても、ひねり込まれる。まだだ、怯むな。野生はここにある。リアが以前やったように、両手で地面に引き込んで、右手一本で、押し潰すッ!!
「人はみんな、獣だよッ!!」
「ぐぅっ、異常警報……コックピット生体反応二万んん!!? な、なんだと言うのだ、なぜそんなに居る、入るぅ!!?」
感じる。操縦に使う、手が、足が、単純に増えている。行ける。これならッ!!
「舐・め・るなぁあッ!!」
強引に大型レーザー・ガトリングを分離させて、ブースターで距離を稼がれた。逃がさすかッ!!
並走し、月の
戦艦の残骸を蹴りつけてくる。
構うか。右手の爪を高速回転、ブチ抜く。
「貴様、アロー・イルマぁあああああッ!!!」
また、アームレス二機が機敏に追求して、こっちを邪魔しにくる。
「マドナグ。踏み込みと、気迫と……!」
ギィンッ
複合センサー。光放熱素材のツインアイが、決意に応じて、虹色に強く、何より強く、輝きを増す。
さぁ、行こう。マドナグ。コイツを倒して、君の銀河に。
「終われッ、終われぇえええええええッ!!!!」
「
爆炎も、レーザーも、光も、刻も、怒りも、哀しみも、涙さえ。すべてを置き去りにして。
「ぶ・ち・ぬ・けぇええええええええッ!!!!」
「あ、あぁあ、ああああああああ!!?」
「マァアドナァァアアアグッッッ!!!!」
マドナグの六爪が、厚い装甲を貫いて。
マドナグの六爪が、
マドナグの六爪が、エネルギー回路を断ち切って。
マドナグの六爪が、最終防壁を物ともせず。
マドナグの六爪が、両肩の
「流れ星が……」
今度は聞こえる、はっきりと。
「
爆炎と閃光の向こう。音なき
◇◇◇
グリントを失ったアームレスは、駆けつけた先輩達と、
これで、この場に戦闘能力を持つ物は無くなった。後はグリントの乗っていたコレクティヴィストを、完全にレーザーで焼かないと。
「テストはまだだが、道連れだ」
「えっ、アロー……!!」
アールエのリザイスが、指を指す向こう。
残ったコレクティヴィストの胴体部が、赤紫に変色している。
マドナグの異常警報も、今まで聞いたことが無いほど、何種類も鳴りひびている。
「何をする気だ!? グリント!!」
「なに、相転移爆弾という奴だ。失敗作だろうが、転用したのだよ」
「なに、なっ、なんつうもんを……!?」
「今の声は、イルマだったか? 私の本体は承知の通り、シェルターの下だ。巻き込まれる可能性もあるが、その時はその時だ」
爆発規模予測範囲。エネルギー総量から推測して、月の崩壊と、それによる統和国のコロニーまで、だと。
「残念だったな。だから、絶対に負けんと言ったのだ。多くの戦いは、戦う前に勝敗が決まっている。ただの流儀一つで奇跡のように覆る事は、……あの忌々しい男くらい、だったな」
「負け惜しみかよ!!」
「ロード・ヴァイスか」
「肯定だ。……お前は、いや、お前たちは善戦した。だが無駄だ。もう私自身にも、貴様の機体でも止められん。この月は崩壊し、統和国も巻き込まれ、貴様らの
「なんだと?」
「人は、無意識に人の姿を求める。だから、人の顔に近い車が産まれ、人型機体が世に溢れた。その理由は絶滅寸前になっても、戦い続ける歓びを知る人類の獣性、そのものだ。……戦いは必須だとも、進化の為に。到達したお前がその体現者にして、弁論者だ。思想家だった、私でなく……な」
「世迷言、を……」
否定しきれなかった。戦いを人類に必須だと断じたのは僕自身だ。事実。僕とマドナグは、獣性でグリントを倒したのだから。
「マドナグ……え?」
メインモニターに、濃い緑の文字で、大きく。
『搭乗者ノ幸福ヲ最優先トスル』
「やめろ……マドナグッ!!?」
「お兄ちゃん!!?」
外に。コックピットが勝手に開いて、ジェルごと強制排出されたのか。月面から離れて、あっという間にマドナグが、どんどん小さくなっていく。
「おい、どうなってんだ、みんな月から離されていくぞ!?」
「だめ、ブースターが動かない!?」
「艦船もか、一体、何がどうなって……!」
マドナグは、赤紫に変色しているコレクティヴィストの胴体部を抱えて。僕に、マニュピレーターを平らにして、ツインアイの前に。まるで、敬礼みたいに。
「マドナグ! だめだ!! 戻れ、戻るんだ、マドナァグッ!!!」
背を向けて、クレーターの下へ。
「行くなぁあああああああああああああッ!!!」
「光の渦……」
「離れて、離れてく……」
「なぜ、なぜひとりでに動く。貴様もただの、使われるだけの機械だろうに!」
グリントの、声。
「答えろ、なぜ、データリンク? 写真……動画……SNS!? これが一体、何だというのだ!?」
あふれるものを、抑えきれない。もう、彼の姿は、見えない。
「……飛んでいく、星。ああ、ああ。綺麗だ。どうして、俺は、僕は。こんなところにまで……」
「マドナグっ……」
膨大な光の奔流だけが、ただすべてを避けて、月面から飛び散っていく。
誰も彼も、引き金から指を離して。
すべての戦いは、終わりを告げた。
◇◇◇
何も無い宇宙を、漂う。
何も、思い浮かばない。
透明なジェルに足掻こうとすら、思えない。
膝を抱えて泣きじゃくる。子供のように。
マドナグは、マドナグは。僕の夢そのものだった。こんな所に、連れて来るんじゃなかった。死ぬのは僕だけで良かったのに。
僕だ。僕が自身が、彼を、僕自身の星を、夢を、殺した。
自殺もできないらしい。パイロットスーツを脱ごうとしても無駄だった。どれくらい、時間が経ったんだろう。
「お兄ちゃんッ!!」
リアの声、僕のムクか。そうだ、リアが居る。まだ、まだ、死ぬわけには行かない。
ごめんな、マドナグ。僕はまだ、死んでしまうわけには行かない。帰れる場所が、君の居てくれた場所が、まだ、あるんだから……。
辛くても、死ねない。
「これ!!」
カメラアイから、立体映像……今さら何を。写真。見たこと無い場所と銀河。SNSの…………っ!
もがく、もがく、もがきまくる。目が覚めた。マニュピレーターが触れた瞬間に、全力で蹴って、ムクのコックピットに飛び込む。
「リア! 場所は!?」
「だめ、わかんないし、聞こえないっ!!」
「なにか、なにか無いか、なにか……!」
月が下で、太陽が12時上方。光は主に上に。思い出せ思い出せ、データリンクが来てるなら、そう遠くには。
「聞こえない……聞こえないようっ……!」
「思い出せ……、思い出すんだ。僕は、何を彼に置いてきた……!」
何でも良い、何でも良いんだ。魂だろうが、グローム感応だろうが、残留思念だろうが。超感覚だろうが、知らない力だろうが、カミだろうが、戦いだって構わいやしない。僕の夢だ、僕のマドナグだ、僕とマドナグなんだぞッ!!
花びら。アールエの、フルール……?
「お兄ちゃんッ!!!」
「っ……そうに、決まってくれ!!」
追いかける……マニュピレーターで、掴む。走査波をマドナグに限定。痛いほどに無音で、……何も、反応は。
「歌……」
「歌……?」
鼻歌が、聞こえる。
リアはここに居るのに、確かに聞こえる。
太陽の端、天の川。闇の彼方。
「マド……ナグ!!」
熱い瞳で、君を見つめて。
張り裂けそうな胸の奥から、名を呼んで、叫ぶ。
巡る星屑と
僕は、彼の