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第13話 男子たちと四兄弟

「ウェーイ!」

「うおーーーー! うりゃーーー!」

「うーわ! うーわ! ずっる!」

「ドゥクシ! ドゥクシ!」

 休み時間に響き渡る、元気な男子の大声。


「こら! そこはみんなが通るからボール投げ禁止!」

 先生に注意されてボール投げをやめたと思ったら、次の瞬間、靴飛ばしが始まっている。

「いい加減にしなさい!」と言われ、

「ボール禁止なので靴にしました!」と男子達。

「それでも駄目です!」

 しかし普段から家で怒られ慣れているせいか、彼らはノーダメージである。


綾菜あやなちゃん、あの男子、靴が校舎裏に飛んでいったから先生が取りに行ってる」

「は? なんでそうなったの?」

「わかんない……」

 綾菜含め女子にはわからない世界、それが男子の青春らしい。


 そんな綾菜は戦国武将に憧れており、戦国時代を冒険する夢を見たことが何度かある。目が覚めると出会った戦国武将に関する何かが枕元にあるので、本当に夢なのかはわからない。休み時間も大体歴史の本を読んでいるので、靴が校舎裏に飛んでいく原理もわからない。


「やっぱりクラスの男子はあのお兄さんとは全然違う、あたしには……あのお兄さんだけ」

「綾菜ちゃん? 誰? お兄さんって……好きな人?」

 いけない。想いが溢れて心の声が漏れてしまったではないか……!

「ああ、親戚のお兄さん優しいなと思って」と誤魔化した。


 あのお兄さんとは……綾菜が夢で出会った戦国武将のお兄さんである。綾菜に「人の心」の大切さを教えてくれた尊敬できる武将。さらに綾菜は姫君となって彼と共に過ごしたこともある。夢の中であるもののそのお兄さんに恋をしている綾菜。今度いつ会えるのか……毎日ドキドキしている。


 ただ、戦国時代の夢を見ることはなかなかない。忘れた頃に見ることが多いが……お兄さんを毎日想う綾菜にその夢を忘れることなどできない。なかなか夢を見れず、反動で歴史本をさらに読みあさっていた。


 さて今日もお空にお祈りしておやすみなさい……



 ※※※



 綾菜が目覚めたのはお屋敷の部屋の中。自分の姿は姫ではない。

「いつものあたしのままだ……まぁいいか」

そう言って屋敷内を歩き回っていると、一番大きな部屋に着いた。ここに人の気配……入ろうとすると後ろから声がした。

「お前、誰だ」

振り向くと強面こわもてのイカつい武将のおじさんが立っている。

「うわぁっ お兄さんじゃないし! しかもこっわ!」

 またもやデリカシーのない言葉を発する綾菜。


「何だと? こっわ、とはどこの国の言葉だ?」

「あ……怖いを簡単に言っただけです……おじさんみたいな怖い人、みんな平伏すよ……」

「だといいんだがな」

「秘密兵器でも持ってそう」


 秘密兵器、という言葉を聞いておじさんの表情が変わる。

「お前には分かっているようだな。特別に見せてやろう」

 おじさんは武器倉庫まで案内してくれた。そこにあるのは……

「鉄砲だ」と綾菜。

「やはり知っておったか。これは異国から伝わったもの。この我が、異国の教えを受け入れたのだ。その流れでこの鉄砲も使うこととした。遠距離の敵を打つのにもってこいさ。さらに貿易も行って異国との交流を深め、己の国を補強する。その勢いでこの国を統一するのが……この我だ」

「へぇ……」

「フフフ……我のこの力に萎縮したか? さて息子達の様子を見に行くか」


 強面のおじさんに部屋に連れて行かれた。そこには四兄弟がおり何やら揉めている。全員おじさんに似て顔が怖い。

「このいくさには俺がゆく! 自らの軍を超える大勢の軍を強行突破で倒したのはこの俺だ」と次男。

「ちょっと待て。今回の場所は川も近くにあるしこの季節だと天候にも左右されるであろう。そのあたりも精密に考えられるのはこの私だ」と長男。

「私は兄上にお任せいたすぞ」と三男。

「兄上……今回は私に行かせていただけないでしょうか。私は戦術に関しては幼き頃から多くを学び……」と四男が話そうといているが、

「俺だ! お前たちは最強の武器を使いこなせないだろうが!」と次男。

「何だと! 以前のそのまた以前のいくさでは大したことも考えずに雨の中を突破して失敗したではないか!」と長男。

「兄上は敵の思惑を理解しておりません! 今度の相手の特徴を掴み最適な方法を編み出しているのはこの私!」と四男。

「おい、ここはもう兄上2人に任せておいてもいいんじゃないか?」と三男。

「お前……相変わらず弱腰だな」と次男が三男に言う。

「何? 兄上が野蛮なのでしょう?」

「言ったな!」


 この四兄弟、誰がいくさに行くか決めようとしているようだが一向に話が進まない。

「お前たち、いい加減にせんか!」とおじさんに言われる。

「今回の相手は頭のきれる者だ、正面突破は難しい。かと言って時間的にも作戦を練る余裕もない。よってお前が良いと思うが……どうだ」とおじさんは四男の方を向いた。

「父上、異論ございません」兄弟達は頭を下げる。


 そして、おじさんは綾菜に話す。

「我は息子達を誇りに思っておる。いくさで結果を残し我が国を拡大しておるからの。だが……ああいう所を見ると男ってのはいつまで経っても幼き頃のままじゃ」

 確かに男4人が集まれば、騒がしくなったり時に喧嘩もするだろう。

「ここだけの話じゃが、息子達がお前ぐらいの年の頃は……庭に出れば草履を飛ばし合って大変だった」

「え? やっぱりみんな履き物を飛ばすんだ……」と綾菜。クラスの男子達を思い出した。


「だがな、息子達が力を合わせて団結する時は……凄まじい力を見せつけてくれよう。この国を統一し我らの家がその主となる……その積年の願い、先祖代々から息子達へ伝わっているはずじゃ」

 おじさんの目は希望に満ちている。きっと息子達のことを信頼しいつかはこの国を託そうとしているのだろう。



 ※※※



 四男がいくさに向かう日がやって来た。兵士軍を連れて馬で出発しようとしている所を綾菜が「連れて行ってほしい」と頼み込む。

「この子は鉄砲を知っておる。何かの役に立つかもしれん」とおじさんに言われ、四男の後ろに乗せてもらっていざ出発する。


 到着すると四男は一軍のみいくさが行われるであろう川の近くに行くよう指示する。

「え? あんなに少なかったらすぐやられちゃうよ?」と綾菜。

「ふふ……見るが良い」四男には作戦があるようだ。

 続いて二軍、三軍を定位置、外側の見えない場所に配置させる。

「これ、ズルじゃない?」と綾菜。

 正々堂々と戦うのが戦国武将。二軍と三軍が隠れて後から飛び出すなんて……と思っていた。

「良いか。この世のいくさは何度も繰り返される。その度に戦術は練り直されるゆえ、常に新しいやり方を身につけておく必要がある。このやり方も必ず成功するとは限らないが私の軍は日々鍛錬により、その一瞬の機会を逃さない。必ずや、討ち取って見せよう」

「そうなんだ……」


 そうしている間に相手軍がやって来た。ものすごい数。一軍だけでは絶対無理では……? 綾菜が思った通り、一軍が頑張っているものの撤退した。勝ったと思った相手軍が安心し戻った先に……二軍と三軍が両側から飛び出した。相手の隊列が整っていないのを見計らい、二軍と三軍が挟み討ちで攻め入る。鉄砲の音もなる。その何とタイミングの良いことか。少しでも遅れたら相手に逃げられるし、二軍と三軍のどちらかが早く出てしまったら先に倒されるところだ。そして一軍がさらに追い討ちをかける。


 相手軍の方が人数が多いはずなのに、見事な戦術で勝利を掴んだ強面のおじさんの四男。

「うわ……こんなやり方……」と綾菜。

 確かに長い戦国時代、戦術も工夫すべきなのだろうが、よく考えると人を倒すための作戦を考えているということ。そこまで考えて人を犠牲にしたいのか……と思うとまた心が痛むが仕方ない。そうしなければこの「今」を生きていけない。それが戦国の世である。


 強面のおじさんの屋敷に戻った四男。

「よくやった!」とおじさんに褒められている。

「父上、兄上のおかげです」と四男。

「追加の兵士軍を出していただき感謝します」と三男に言い、

「鉄砲の見事な使い方を教えていただき感謝します」と次男に言い、

「隊列をはじめ、戦術につき相談に乗っていただき感謝します」と長男に言う。


 実際にいくさに行ったのは四男であったが、その裏では四兄弟が力を合わせていたのだった。

「うむ、これぞ我が息子達の力。今回のこと、忘れるでないぞ」と満足そうなおじさん。

強面が和らいでもやっぱりちょっと怖い。



 ※※※



 ベッドの上で目を覚ます綾菜。

 ああ……怖い顔のおじさんだったな……あんなに強い戦術を見たというのにおじさんの強面が一番記憶に残っているなんて。

 枕元に5本の紐が揃えて置いてある。これはおじさんと四兄弟が髪を結っていた時に使っていた紐のようだ。おじさんたちの絆の深さを感じる綾菜であった。


 学校にて。遠足のバスレクをどうするかといった話し合いが行われる。

「カラオケしよーぜ!」「俺はクイズー!」と男子達が次々と意見を出す。

 綾菜が気づく。いつも休み時間は訳がわからないぐらい騒がしいけれど、こういった行事の時は男子達がクラスを盛り上げてくれる。夢で見た四兄弟も揉めていたが、ここぞという時には力を合わせていたように。

 そして遠足当日、男子中心にバスの中で盛り上げてくれたおかげで行き帰りは退屈せずにすんだ。そっか……あの男子達だって良いところもあるんだ、と綾菜は思っていた。



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