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第14話 特別価格と民への優しさ

「はーい! この消しゴム、普通の消しゴムじゃあありません! 何ということでしょう! すごい筆圧で書いた文字でも綺麗さっぱり消せるのです! お値段は何と! 特別価格の5000円! さらに! 放送開始後30分以内にお電話いただくと……500円! お得でしょう?」

「うわぁーすごい!」


 休み時間にテレビショッピングごっこをする綾菜あやなたち。その宣伝の方法が面白くて、綾菜がセリフを考えて自分の使いかけの消しゴムを持って喋っている。

「そして……ああ、消しゴム落としちゃったなぁ、どうしようと困っている、そこのあなた! お電話いただければこの消しゴム、差し上げましょう!」

「え? 綾菜ちゃん……そこまでするの?」

 いきなり消しゴムをプレゼントすると言い出した綾菜。おそらく……昨日見た夢に影響されたのかもしれない。


 戦国武将に憧れている綾菜はこれまでも戦国時代を冒険する夢を見たことが何度かある。目が覚めると出会った戦国武将に関する何かが枕元にあるので、本当に夢なのかはわからない。

 そして昨日見た夢とは……



 ※※※



 綾菜が目覚めた場所は森の中。周りに猟師がたくさんいる。何かを捕まえに来たのだろうか。最近はお屋敷の中で目覚めることが多かったから、いきなりこんな森の中ってちょっと心の準備ができていないのですが……

 綾菜に気づいた1人の男が言う。

「おっと……鹿狩りをするから下がってな」

「鹿? そんな! 可愛いそうだよ!」

「こら、静かにせい……本当に鹿を狩るわけではない。大人しくしておくのだ」


 鹿狩りで鹿を狩らない……? 綾菜には意味がわからなかった。

「じゃあ何するの?」と聞くが、

「黙れ」と言われてしまう。

 よく見るとすぐ近くに兵士達がいる。兵士達はのんびりと談笑していたり作戦会議をしており猟師達には気づいていないようだ。緊張感がじわりじわりと漂ってくる。

 もしかして猟師達の狙う獲物は……


 その時であった。

「今だ」

 猟師の1人が言い、もう1人が指笛を鳴らす。

 すると後ろからたくさんの兵士軍が一気に走ってきた。先ほどまで談笑していた兵士達が驚いている間もなく一気に斬り倒す。そしてその先にある城の門を、大きな丸太のようなものを使って突破してしまった。

「奇襲だー!」

 そう言って兵士軍は相手の城を攻め落とす。あっという間に城の主である武将を降参させた。


「え……何やってたんだろう、みんな……」

 一瞬の出来事に何のことかさっぱりわからない綾菜。すると後ろから立派な兜を被った武将が馬に乗って現れた。

「ふふ……この地を手に入れたぞ……おや、お主は」

 武将のおじさんに見つかってしまった。

「我々の敵ではありません。何故か森にいたのです」と猟師の格好をしていた者が言ってくれた。

「そうか……こんなところで迷子か。仕方ない、連れて行くか」


 綾菜は武将のおじさんの馬に乗せてもらって、おじさんの拠点としている城まで戻って来た。

 部屋でおじさんに尋ねる。

「さっきの人たち、鹿狩りするって言ってたのに鹿を狩らずに何してたの?」

「ふふ……今回手にした領地の主は普段から交流があったのでな。鹿狩りをしたいから猟師を領地に入れてもらうように頼んだのだ。そうやって相手の領地に入り込み機会を見て、別の兵士軍に合図を送り、待機していた軍で一気に攻め落としたというわけだ」


 おじさんの作戦……ちょっとずるい。普段から交流があったのに相手の武将は騙されちゃったんだ。

「なんで……? 仲良くなかったの?」

「天下統一のためにはあの領地を手に入れなければならなかった。この戦国の世、相手に任せるといった選択肢などない。いつ自らが狙われるかわからぬ、相手は敵に回すと厄介な者。奇襲を仕掛けて討ち取るしかなかったのだ」

「そうだったんだ……」


 相手を信じることができないなんて……なんてしんどいのだろう。それでもおじさんは全てやり切ったといった表情。こんなことをしなければ野望を果たすことができない、それでもどうにかして「今」を生きているのだろう。

「さて、明日は手に入れた領地の様子を見に行ってもらうかな」


 翌日、おじさんの元に臣下がやって来た。

「昨日手に入れた領地内でやまいが流行っているようです」

「それは大変だな、すぐに薬の調達を」

おじさんの指示通り臣下が薬を調達したおかげで、助かった人も多かった。綾菜は臣下と一緒に薬を配りに行ったが、その時に農民が話している声が聞こえた。

「前のお方の時はこんなことなかったのに……薬を我々にまで下さるとは何とありがたきことか」


 おじさんは領地の人達のことを一番に考えて、お薬をタダで渡していたようだ。何て優しいのだろう。

「あのおじさんは、あんなずるいことをしていたけど、前の武将さんはみんなに薬をあげることなんてなかったんだ……」

 綾菜はおじさんを見直したようだ。

「おじさん、実は優しい人だったんだ」

「ふふ……たみの心をつかむこと、これぞ領地の主がすべきことだ。たみの平和を守ることができれば一番いいのだがな。そのためにもっと多くの領地を手に入れて、多くの者を救えると良いと……そう思うのだ」


 そうか……その領地にいる人を助けるために手に入れる……そんなやり方もあるんだ。

 戦国武将の考えることは皆それぞれ。色々な考えがあるが、人を助けたいといったシンプルな思いは綾菜の心に響くものであった。

「さて、いくさで農地も荒れてしまったのであれば年貢も減らそう。たみも辛かろう」

「おじさん……年貢も減らすなんてサービス多いなぁ」

「さーびす? まぁ……その代わり今後も厳しいいくさが待っておる。我目指す天下統一まで……」

「おじさん……」



 ※※※



 家のベッドで目を覚ました綾菜。

 奇襲を仕掛けたけど実は農民たちに優しいおじさんだったな……

 枕元には綾菜が薬を配った時に見た、薬の包み紙のようなものが置かれていた。一瞬、自分の散らかしたゴミかと思ってしまったが、綾菜はそれを大事に引き出しに入れた。


 そういうことで、学校のテレビショッピングごっこでも大サービスをしてしまう綾菜。

 実際に、家でテレビショッピングのチャンネルを見るのがますます好きになった。

「おお、すごーい! ママ! これすごく便利そう! しかも半分の値段で2こついてくるよ! 放送終了後30分以内に電話しようよ!」

 綾菜はそう言うが、すぐに母親に却下されてしまうのであった。



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