「夏休みの自由研究はぁー♪ 戦国時代の武将をまとめたものでーす!」
「あら
「なんとページをめくると武将の似顔絵と、詳しい説明が書かれているのでーす! た・と・え・ば♪ この武将は3人の息子に恵まれて、家を大きくしていったおじさんでーす!」
歴史上の戦国武将のことをおじさん呼びしている綾菜。彼女は夢の中で様々な戦国武将に出会っており、皆をおじさんと呼ぶほど仲良くなった(と自分で思っている)。
母親に自由研究の手作り戦国武将ノートブックを見せびらかしながらも、綾菜の頭の中はある1人の武将のことでいっぱいだった。
「綾菜はこの武将が一番好きなの?」
母親に言われたその者は、綾菜が今まさに考えていた武将である。
「え、ママどうしてわかるの?」
「一番似顔絵が丁寧だし説明も細かいわ。よく調べたのね」
調べたというか実際に見ましたので、と思う綾菜だった。
※※※
そしてその日、綾菜は
そうだ、誠様から便りが届いて
「おい、この服に着替えて準備しろ」
勝が現れ、忍びの服を渡される。いつものように着替えると、そこには
「相手は
「ふふ……こちらには秘密兵器があるのだ。天下統一のための鉄砲……」と勝がニヤリと笑う。
綾菜は背筋がゾッとする。鉄砲での遠距離攻撃で誠の軍はどうなってしまうのか、急に不安が押し寄せてくる。それでも彼を信じると決めた。自分には彼しかいないと。
「愛する者への想い……ねぇ」
翠がそんな綾菜を見て呟いていた。
勝と翠が軍を率いて戦場へ向かう。川を超えた先の荒地に到着して誠の軍を待っていた。
「綾を頼む」と勝が言い、綾は臣下に引き渡された。臣下とともに物陰でまた
すると空が急に真っ暗となりザーザーと横殴りの雨が降ってきた。これでは前が見えにくい。誠の軍はもう来ているのか。稲妻が光り、向こう側に誠達がいるのを見つけた綾菜。
「誠様……!」
一斉に誠の軍が馬で攻めてくる。勝の軍はこの大雨で鉄砲が使えず混乱している。
「仕方ない! 鉄砲なしで行くぞ!」と勝も向かう。
しかし鉄砲を頼りにしていた勝の軍は大雨で隊列が乱れ、誠の軍に圧倒されている。綾菜はただ被害者が多くありませんようにと祈るしか出来なかった。
「代わるわ。向こうをお願い」
綾菜の元に翠が現れ、臣下に
「今のうちに逃げなさい」
「翠様?」
「誤解するんじゃないわよ? あなたのためではない。私が殿の正室になるためなのだから」
翠は渉に片想いしており、綾菜が邪魔だったのだろう。
「あなたも愛する者の元へ戻りなさい」
「あ……ありがとうございます! 翠様!」
こうして綾菜は馬に乗って誠の軍の方に向かった。
雨で前が見えなくても貴方がどこにいるかは……すぐにわかるんだから。やっと貴方の元に……!
「勝、相手が攻めている。このままでは全滅だわ。撤退よ」
「うっ……ここまでか……綾も奪われたか」
「そうね」
「翠、お前安心しているな? 綾が殿から離れて」
「何よ。綾がいても私が殿を振り向かせてみせる。でも正直……安心はしたわ」
「フフ……殿はお前など相手にするものか」
「言ったわね? 見てらっしゃい」
勝の軍は撤退し、雨に濡れながら誠の軍も引き返そうとしている。そこに馬に乗った綾菜が現れた。
「綾……!」
誠の表情が和らぎ、皆で城に戻っていく。
誠の城に到着した綾菜。誠が「しばらく自分の部屋には誰も入らないように」と臣下達に言い、綾菜を部屋に連れて入った。
雨でびしょ濡れであるにも関わらず、誠はすぐに綾菜を抱き寄せた。その目には涙を浮かべている。綾菜も誠の腕の中で涙が止まらず、彼と再会できたことの喜びを感じていた。
「綾……ずっとこうしたかった。そなたがいなくなってから我は何も手につかなかったものよ。だがもう離さぬ。二度とそなたを離さぬ」
「誠様……誠様……私も貴方のことを想いながら過ごしておりました。きっと貴方であれば助けに来てくださると信じておりました。どうかもう少しこのままでいさせてください……今日だけは貴方のそばから一歩も離れたくないのです」
「何を言っておる。今日だけでなく……ずっとそなたと我は離れない運命なのだ」
誠にそう言われ唇を重ね合う2人。雨で濡れた衣装が剥ぎ取られ、お互いの肌の温もりを直に感じる。優しい顔つきの誠に見つめられ、綾菜は頬を染め瞳を潤ませて微笑む。
貴方に抱かれるだけで、私はこんな世の中であっても生きていける。貴方さえいれば他に欲しいものなどない。だからもっと私を愛していただけますか……?
綾……そなたさえいれば我、天下など望まなくても生きていけるような気がするのだ。どうしてだろうか。どうしてこんなにもそなたが愛おしいのだろうか。
「綾……」
「誠様……」
2人は一晩中身体を寄せ合い、会えなかった時間を埋めるように求め合った。この時だけは天下統一のことや戦国時代の苦しみを忘れられる……出来るならずっとこうしていたいとさえ思ってしまう。
ひょっとすると誰かを愛する幸せは、いつの時代も変わらないのかもしれない。
※※※
「あ……誠様……? あれ?」
綾菜は自宅ベッドで目を覚ました。
「綾菜ー! 夏休みもうすぐ終わるんだから、早く起きなさいよー」と母親が言っている。
「はーい」
もう少し夢の中で誠様と過ごしたかったな、と思う綾菜。
「夏休みだし、半日以上眠って誠様とあんなことやこんなことをして……」
少し考えた綾菜が顔が熱くなるのを感じた。まだ小学生で細かいことは覚えていないものの、夢の中での自分達は……とにかく密着していたということは理解した。
「これでまた会えるんだよね? 誠様……」
綾菜はドキドキしながら、しばらくベッドで仰向けになってぼんやりとしていた。