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兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL現代BL
2025年04月16日
公開日
2.7万字
完結済
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェがある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし……家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は……?

第1話 僕達の素敵なひととき

「イケメン兄弟が経営するお洒落カフェ〜僕達と素敵なひとときを〜セプタンブル」


 ある地域雑誌のカフェ特集で表紙を飾った兄弟。

 兄の碧人あおとと弟の健人けんとはその地域では芸能人並みの人気を誇る、カフェ経営者である。2人とも9月生まれであり、セプタンブルという名前のお店となった。


 碧人は今年30歳になる、責任感が強くて落ち着いた優しい男性。パーマのかかった無造作ヘアに色気があり、日頃疲れている客をリラックスさせてくれる存在である。

「碧人さん、あたし今日疲れちゃったの」と話す若い女性客に対しても、

「少しでも元気になってくれると、僕も嬉しいです」と一言だけであるが、丁寧に接してくれる。

 結婚するなら断然碧人のような優しくて話の聞いてくれる人がいいと、話題になるほどである。


 一方の健人は、明るくて笑顔の爽やかな男性である。碧人とは3歳離れており、兄を尊敬しつつも自分のスタイルを確立させているような人。茶髪のショートヘアは、彼の快活なイメージにぴったりである。

「またお越し下さりありがとうございます!」と一度来た客の顔は忘れないため、そう言われた女性は皆嬉しそうにしている。

 彼氏にするなら断然自分を楽しませてくれる健人のような人がいいとも言われている。


「さて健人、今日も頑張ろうな」

「おう、兄貴。相変わらず女性客が多いの、どうにかならないかな」

「そう言っていつも笑顔で接客しているじゃないか」

「まぁね、みんなお洒落してくるから見てて楽しいよ」

「お客様なんだから、きちんと接するんだぞ?」

「わかってるって、兄貴は真面目なんだから」


 今日も朝8時にカフェ「セプタンブル」がオープンする。モーニングを済ませて行く人もいる。この時間帯は働く女性達がラテをテイクアウトして行くことが多い。

「はい! 今日もお仕事頑張ってくださいね♪」とにっこり笑顔の健人にラテを手渡しされたなら、女性達はメロメロである。

「これがあるから一日頑張れる!」という人もいる。


 健人が愛想を振りまく隣でラテを作っている碧人の姿も見逃せない。彼の作ったラテは世界一美味しい、と言う者もいるぐらい碧人は美味しいものを作ることにこだわりがある。

 それもあるから、ただの「イケメン兄弟」ではないのだ。カフェの内容も充実したものなので悪い所など見当たらない。



 ※※※



 ランチの時間帯は主婦層が多い。サンドイッチやパスタを提供しており、「兄弟の気まぐれプチデザート」が付いている。

 このデザートは数種類あり、シックなガトーショコラやモンブランは碧人、可愛いプリンやチーズケーキは健人が担当している。


 そのため、

「今日は碧人の日だ」

「今日は健人の気分を優先している、優しいお兄さんね」

など、様々に言われており客の楽しみの一つである。たまに新しいプチデザートが出た時には「どちらが担当したのか?」と話題になり、客を飽きさせない。


 カフェの時間帯も日替わりでケーキなどのデザートが並ぶため、毎日来ても楽しめる。

 甘いものは疲れを癒してくれる。さらに格好いい碧人と健人が目の前にいる……ただただ至福の時間である。


 夕方も昼と同様のメニューを提供しているが、毎週金曜日にはお店オリジナルのアップルパイをテイクアウトできる。食べ応えがあって仕事終わりに買って帰る女性が多い。あっという間に売り切れるほど争奪戦である。

「なぁ兄貴、アップルパイってもう少し準備した方が良くない?」

「そうしたい所ではあるが……他のメニューもあるからな」

「だな、希少価値もあった方がいいし」

「そういうことだ」


 キッチンで「兄貴」「健人」と呼び合う声を聞いて喜ぶ客もいる。兄弟であれば普通のことであるが、ファンにとってはその呼び方に心ときめくらしい。

 優しい声で「健人」と呼ぶ兄、頼るように「兄貴」と呼ぶ弟のその関係性……兄弟の信頼関係、仲の良さがたまらない。

「さて……アップルパイも売り切ったし……今日もたくさんのお客様が来てくれて良かったな、健人」

「兄貴、いつも感謝してる」

「フフ……いきなり何だよ」

「何となく言いたかっただけ。あ! いらっしゃいませー!」



 ※※※



 夜の8時にカフェ「セプタンブル」は閉店する。売上処理を済ませて2人はカフェの戸締りをして、一緒に住むマンションに帰る。

 マンションのドアを開けて中に入り、鍵をかける。



 一瞬にして……フッと空気が変わった。



「あお兄ぃー疲れたよぉー」と健人が甘えて碧人の後ろから抱きつく。

「ケン、今日も頑張ったね。お腹空いたかい?」と碧人が健人の頭を撫でる。

「冷蔵庫に……あお兄の作ったカレー残ってたよね? 一緒に食べよ?」

「そうだな」


 2人でカレーを食べながら話している。

「今日のあお兄、アップルパイ買いに来た人に優し過ぎ。すごい長話してたじゃん。何を話していたの?」

「アップルパイが美味しいという話とか……お母さんもいつも金曜日を楽しみにしているとか……だったかな。それも全部、考案者であるケンのおかげさ」

「本当? 俺のおかげ? ウェーイ! やったー!」


「ウェーイって言い方、確か小学生の時からだよな。そこがケンの可愛いところだけど」

「だってあお兄に褒めてもらえるの、嬉しいから」

「じゃあ後でもっと褒めてあげようか?」

「あお兄……」


 そう、表向きはイケメン兄弟であるがこの2人、あることがきっかけでお互いを愛するようになったのだ。このことは誰も知らない。

 本当は外でもくっついていたいと思ったこともあったが「イケメン兄弟」たるもの、客の期待に応えるのが一番である。その結果、売上も伸びる。


 外で客の理想の姿を演じる緊張感もあって、家に帰ってからの2人は人が変わったかのように、戯れあっている。碧人が健人をリードして甘えさせることが多い。

 ベッドで横になり健人が兄に抱きついている。

「あお兄……」

「ケン……」

 そう言って2人は口付けを交わす。

「はぁ……このまま時が止まってほしいな、そう思わない? あお兄……」

「毎日言ってるなぁ、ケン……けど可愛いから許してやる」

 ぎゅっと兄に抱き寄せられる健人。

「あお兄ってあったかい……」

「ケンだって……2人でいるとあったかいね」


 2人はキスをしながら、満足そうに眠りについた。

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