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第10話 これが僕達のカフェ

 碧人と健人は父親の岳と再会し、幸成と3人で自分達のペースでカフェを経営していくことを決めた。岳の言っていた通り、岳のカフェ「アヴリル」も客が落ち着いてきて兄弟のカフェ「セプタンブル」に戻ってくる客もいた。どちらのカフェも良い所があるので、お互い頑張っていこうと父親と約束したのだった。


 碧人と健人はお客様対応を丁寧に行うことは変わらないが、家にいる時と同じように「あお兄」「ケン」と呼び合うようになり、自分達の本当の姿を見せるようになった。

「仲良くて可愛い」「前よりも親しみやすくなった」といった声も多く、「イケメン」という枠にとらわれない彼らはますます人気者となっていく。


 さらに父の岳の協力もあり「アヴリル」とのコラボメニューも販売。クッキーなどのちょっとしたおやつを提供するようになった。

「碧人さんも健人さんも……前よりも生き生きしていますね。ご自宅でもそういう感じなのですか?」と幸成。

「まぁちょっと近いけど……」と碧人。

「そんなの秘密だよ、ゆきくん♪」と健人。

「ふふ……いいですね。あ、いらっしゃいませ」と幸成が入り口に向かう。


「おっと……幸成じゃないか」と男子大学生が彼女を連れて立っていた。

「え……先輩……?」

 幸成は身体が震えてくる。彼はクリスマスイブに幸成がフラれたという先輩であった。

「ハハ……この人が例の人? やばいんだけど」と彼女も笑う。

 幸成は深呼吸をして、

「お2人様ですね、こちらへどうぞ」と案内した。


 その様子を見ていた健人。

「ゆきくん、大丈夫? あの人って……」

「僕をフった先輩です……」

「ちょっと……何か酷いこと言われてない?」

「大丈夫です、行ってきます」

 幸成が注文を取りに行くと、先輩に話しかけられた。

「SNS見たよ。まさかこんな人気店にいるとはな。お前みたいなのがいるなんて、この店大丈夫か? ああ、そっか。女性に手出ししないから安心なんだ」

 幸成は焦る。


 どうしよう、周りのお客さんも見ている‥‥? でも……どうすればいいのだろうか。笑って誤魔化せる内容じゃないよ……


 すると健人がやってきた。

「おかげさまで、ゆきくんはうちには欠かせないメンバーとなっております。ゆきくんみたいな人が来てくれたから……俺達兄弟は生まれ変わったようなもの……なんてね」

「へぇ……幸成が役に立ったんだ」と先輩が言う。


 珈琲を運んだついでに碧人もやって来た。

「お客様、本日はお越しくださりありがとうございます。おや、ゆきくんのお知り合いでしたか。フフ……おかげさまで僕達3人、力を合わせてカフェを続けて来られています。ゆきくんがいるから大丈夫か、と聞こえて来ましたが……どうかご安心を。僕達3人はとっても仲が良いんですよ……あ、すみませんね……他のお客様もいらっしゃいますので……どうかこのあたりで」

 碧人と健人がニコニコしながら先輩のことをじっと見るので、彼はそれ以上何も言うことなく飲み物を注文した。


「ありがとうございます。僕がもっとちゃんとしていれば……」と幸成。

「あれは誰でもびっくりするよ、頑張ったね」と健人が幸成の背中をさする。

「そうだねゆきくん……心配ないよ。僕達の関係は……誰にも邪魔できないぐらい、強く繋がっているんだから」と碧人。

「碧人さん、健人さん……」

「僕もケンもゆきくんのこと、大事に思ってるからね」

「嬉しいです」


 こんな僕だけど、碧人さんと健人さんは最初から受け入れてくれた。やっと僕の居場所ができたみたいだ……


 幸成は涙をおさえて、皿を下げにテーブルまで行った。



 ※※※



 そしてその日の営業時間終了後‥‥

「あの先輩、別れて正解だったよゆきくん」と健人が言う。

「僕もそう思います。あの時、碧人さんと健人さんに会えなかったら僕は今でもずっと泣いていたかもしれません。本当にありがとうございます」

「いいんだよゆきくん。僕達だって君のおかげで父さんに会うこともできたし、何よりも君がいることで……何かこう……嬉しいというか」と碧人。


「あお兄……ゆきくんのこと好きなの?」と健人。

「いや……ケンのことももちろん好きなんだけど……」

 健人は父親が出て行った寂しさがあり、碧人のことを頼るようになった。だが「アヴリル」で再会したあの日以降、またいつでも父親に会えるのだ。これまで自分は兄にべったりで、兄の気持ちを考えていなかったのかもしれない。これからは……兄には兄の人生を生きて欲しいと思っていた。そして自分も兄が困っている時には手を差し伸べられる存在になりたい。


「あお兄、分かってたよ。最初にゆきくんと会った時だってゆきくんとハグしていたし、いつもカフェではゆきくんのことを見ていたでしょう? それに……ゆきくんが来てからのあお兄はいつも楽しそうだった」

「ケン……」

「あとは2人であんな濃厚なキスシーンを見せられるとねぇ……」

 健人にそう言われて、碧人と幸成は顔が真っ赤になった。


「俺は……あお兄に幸せになってもらいたい。今までずっと俺が頼りっぱなしだったから。あお兄にはもう……自分の好きなようにしてほしいんだ」

「ケン……お前はそれで大丈夫なのか?」

「うん! 2人が幸せならそれが一番だよ! だけど……兄としてのあお兄のことは、ずっと好きでいさせて……」

「もちろんだよ。僕も弟として……ケンのことが大好きさ」


 碧人が幸成に言う。

「ゆきくん、僕は初めて会った時から……ずっと君に惹かれていたんだ。君に恋愛感情があるんだ」

「僕も碧人さんと初めて会った時にいただいた、ほうじ茶ラテの味が忘れられなくて……」

「ハハ……ラテじゃなくて僕を見てほしいな」

 碧人はそう言って幸成を抱き寄せた。幸成はさらに顔が熱くなっているのを感じる。

「あ……碧人さん……こんな僕でいいんですか?」

「君がいいんだよ、ゆきくん」


 幸成が話す。

「僕は、碧人さんと健人さんが仲良くされているお姿も好きなんです。それがあるからこのカフェが成り立っている。だから僕が碧人さんだけを受け入れて良いのか……」

「ゆきくん……僕は君のそういうところが好きなんだよ。今まで兄弟カフェとしてやって来たから、僕たち兄弟が離れることは決してない。だがあの関係を初めて理解してくれたのはゆきくんなんだよ?」と碧人。

「俺もそう思う。俺たちの関係を否定せずに側にいてくれた。そんなゆきくんだからこそ……あお兄のことを託せるんだよ?」と健人。

「碧人さん……健人さん……」

幸成は2人を見つめる。


 僕はこの2人の言うことなら信用できる……2人は固い絆で結ばれているのに僕に対してこんなにも……


「ゆきくん? 泣いてる? あ! もし迷ったら俺の方に来てくれてもオッケーだからね! ハハ……」

「おいケン……その時は僕も同伴する」

「あお兄も来てくれるなら喜んで!」

 幸成はそんな2人のやり取りを見てフフっと笑った。

「ありがとうございます。僕……碧人さんの告白、受け入れます」

「ゆきくん……! 嬉しい……!」

 碧人が幸成を再び強く抱き寄せた。健人もそれを見て安心する。

「ウェーイ! じゃあ2人のお祝いに、これから飲みに行こっかー!」と健人が盛り上げる。

「フフ……そうしようか」



 ※※※



 それからも「セプタンブル」は3人の息がぴったり合った、お洒落でほっと一息つけるカフェとして多くの客が訪れた。近所の桜も咲き始め、春風が心地良い。

「いらっしゃいませー! あお兄のほうじ茶ラテ、おすすめですよー」と明るい声で皆を笑顔にする健人。

「ありがとうございます! どうぞごゆっくりお過ごしください」と疲れた客に安らぎを与える碧人。

「こちら、よろしければ追加でドリンクお付けできますよ」と丁寧で気遣いができる幸成。


そして、

「あお兄」「ケン」「ゆきくん」と呼び合う親密な3人の姿を見ると、こちらまで癒されるように感じる。



 まるで3兄弟のカフェのよう……



 そう思い浮かべた客達は、今日も朝から行列を作って開店を待つのであった。





 終わり

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