森本 凛
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年04月17日
公開日
3.8万字
連載中
2028年2月14日、世界各地に突如「亀裂」と呼ばれる次元の裂け目が現れ、未知の生物や物質が溢れ出す。日本でも東京や大阪など主要都市が混乱に包まれ、政府は緊急事態を宣言。やがて一部の人間が「異能」と呼ばれる特殊能力に目覚め、「適合者」として脅威に立ち向かう存在となる。亀裂の周囲には「ダンジョン」と呼ばれる空間が形成され、異形や未知の資源が眠る新たなフロンティアとなった。
遠野陽介は、大学中退後に非正規雇用を転々とする27歳の青年。異能に目覚める兆しもなく、就職もままならない日々を送っていた。ある日、公園の廃屋で未発見のダンジョンを偶然見つけ、中に吸い込まれてしまう。そこで彼は謎の赤い宝石に触れ、左手に刺青のような紋様が浮かび上がる。新たに得た異能は「時間減速」――相手の動きを一時的に遅くする能力だった。決して強力とは言えないが、彼はこの力と、ダンジョンで入手した「ダンジョンマッパー」アプリを活用し、配信者としての道を歩み始める。
ダンジョン探索の様子をインターネットで生配信し、投げ銭を得る「ダンジョン配信」が流行する中、陽介は独自の視点と効率的な探索、巧みな罠回避で徐々に人気を集めていく。やがて「見えない世界の案内人」として注目され、視聴者数も増加。配信を通じてダンジョンの新たな階層や謎に挑み、知性を持つ「水晶の守護者」との邂逅や、ダンジョンの起源に関する衝撃的な情報を手に入れる。
さらに、違法な「闇配信者」霧島凛(ミスト)と出会い、政府の情報統制やダンジョンの真実を追う「影の探索者同盟」への勧誘を受ける。彼女から能力増幅器を託され、組織の一員として二重生活を始めることに。表では配信者「ガイド」として活動しつつ、裏では同盟の情報収集者としてダンジョンの深層と世界の謎に迫っていく。
陽介は、弱いと見なされがちな自身の能力を最大限に活かし、仲間とともにダンジョンの真実と適合者の自由を求めて成長していく。現代と幻想が交錯する世界で、彼の新たな人生と冒険が今、幕を開ける。
プロローグ
世界は一日にして変わった。
2028年2月14日、バレンタインデーの夜。世界各地で突如として「亀裂」と呼ばれる次元の裂け目が出現した。亀裂からは未知の生物や不思議な物質が漏れ出し、人々は恐怖に包まれた。
日本も例外ではなかった。東京、大阪、名古屋など主要都市に亀裂が出現し、政府は緊急事態宣言を発令。自衛隊や警察が出動したものの、亀裂から現れる存在に対抗する術はなかった。
そして亀裂の出現から一週間後、もう一つの驚くべき現象が起きた。人類の一部が「異能」と呼ばれる特殊能力に目覚め始めたのだ。
炎を操る者、風を起こす者、物体を浮かせる者、傷を癒す者……。多種多様な異能が目覚め、混乱に拍車をかけた。
政府は異能者の登録制度を設け、彼らを「適合者」と名付けた。適合者は亀裂から現れる脅威「異形」に対抗できる唯一の存在として、各地に設立された防衛組織に組み込まれていった。
そして亀裂の出現から一ヶ月後、もう一つの現象が確認された。亀裂の周囲には「ダンジョン」と呼ばれる不思議な空間が形成されていた。ダンジョン内部には異形が徘徊し、また未知の鉱物や植物も存在していた。
これらの資源を求めて、適合者たちはダンジョンへと足を踏み入れるようになった。彼らの中には政府公認の探索隊員がいる一方で、「ダイバー」と呼ばれる個人事業主も現れた。
そして亀裂出現から半年後、「ダンジョン配信」という新たなエンターテイメントが生まれた。ダイバーたちが自らの探索の様子をインターネット上で生配信し、視聴者から投げ銭を受け取るビジネスモデルだ。
この物語は、そんな世界で生きる一人の青年の物語である。彼の名は遠野陽介。大学を中退し、非正規雇用を転々とする彼は、ある日偶然ダンジョンを発見し、そこで自らの異能に目覚めることになる。
彼の異能は一見すると弱く、役に立たないものだった。しかし彼はその能力を活かし、ダンジョン配信者として名を上げていく。
これは現代と幻想が交錯する世界での、一人の若者の成長物語である。