目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第13話 重たい愛

「では、あの、魔王様。血の結晶を、いただきたいです」


 シャムルが今更、もじもじしている。


「そういえばさ、シャムルは最初から魔王に会いに来たの? 倒す気で来てないよね?」


 最初から手抜きで捕まって、魔印を付けられ、魔力が薄まっても抵抗しなかった。

 むしろ自分から心臓を喰ってくれと願い出るくらいだ。

 何でだろうと疑問に思った。


「私は……、魔王様が初恋でしたので」

「え?」


 聞いていた魔王だけでなく、ヘルに突っ込んでいたランドールも動きを止めた。

 シャムルが照れた顔で話し始めた。


「まだ幼い子供だった頃、リンデル王国の辺境が魔族に襲われた時、避暑でたまたま訪れていた私は、あの場所で初めて魔王様のお姿を拝見したのです」

「そう……なの?」


 辺境や田舎など、リンデル王国に限らず色んな国で襲っているから覚えていない。


「魔王様はとても素敵でした。圧倒的な力で人間をゴミのように殺し、魔族たちに分け与えた。その場で貪る魔族に餌を与えるだけでなく、国元の民のために大勢の人間を生きたまま捕縛して持ち返った。率先して戦う姿はまさに王と呼ぶに相応しい。私は、一目惚れでした」

「一目惚れ……」


 呆気に取られて呟いてしまった。

 その場で喰わなかったのは、多分お腹が空いていなかったからだし、ある程度纏めて餌を調達しないと、もう一回行くのが面倒だからだ。


(惚れられるようなこと、してないなぁ)


 しかもシャムルは人間だから、魔王の脅威に怯える場面だと思う。


「私は昔から、人間の価値観がわからない。血筋の何が尊いのか、誇りの何が大事なのか。殺していい人間と殺してはいけない人間の判断基準が理解できない。下賤な人間なら殺してもいい、生贄は尊いと平然とする王族の感覚がわからない。私の周りの人間は誰一人、私が求める答えを出せませんでした」


 シャムルが魔王を見上げた。

 恋する乙女のようなピュアな瞳が魔王を見詰める。


「魔王様は、そんな私の疑問に答えてくださいました。王族だろうとスラムの人間だろうと、平等に餌として喰う。魔族にとって人間は家畜、ただの餌。これ以上の命の平等はない。やっと真理に辿り着いたと、私の心は震えました」


 シャムルが恍惚とした表情で語る。

 なるほど、頭が良すぎて拗らせたタイプだなと、魔王は理解した。


(魔族にも、血肉が好きな子とか魂が好きな子とか色々いるからねぇ。一概に平等とも言えないけどなぁ)


 肉付きの良い人間が好きなら肥え太った王族を好むし、スラム出身でも美しい魂を持っていれば美味い。

 そういう違いはあるのだが。

 多分、シャムルの言う平等は、そういう意味ではないんだろう。


「でも、魔力が高い人間は特別美味いって思うよ。シャムルの心臓、めちゃくちゃ美味しかったし」


 恐らく、魔力の高さについては魔族の中で平等に価値が高い。


「それはアレですよね。霜降り肉は美味いというのと同じ発想ですよね」

「まぁ、そうなんだけど」


 シャムルがぴしゃりと言い切った。

 霜降り肉的なランク付けならシャムル的にはアリらしい。


「それから私は、魔王様にお会いする方法を必死に考えました。ただ会うだけでは対峙しなければならない。魔王様にお会いして、お仕えするにはどうするべきか。好敵手と認めていただき、魔王様にとり価値のある人間であると理解していただかなければならないと、思い至りました」


 だから最初に触手で捕まえた時には、抵抗する素振を見せたのだろうか。


(最初から媚びてくる人間なんか、警戒するし好きじゃないけどね。恋心全開で嫌がる振りしてたのか。可愛いじゃん)


 魔王に突っ込まれて、アクメ顔で連続射精しまくっていたシャムルを思い出すと、ニヤニヤする。


「魔王様に偶然でなくお会いするため、私は必死に鍛錬し、勇者となって討伐パーティを組織しました。やっと恋焦がれた魔王様の元に辿り着いたのです」


 それが今回の勇者パーティだとしたら、魔王を倒す気など微塵もなく、ただ会いたい一心で一緒に連れてこられた他の仲間たちが気の毒だ。流石の魔王でもそう思った。


「魔王様を傷付けぬよう戦って、魔王様に認めていただける方法を考えていましたが。魔王様が最初から魔印を付けて奴隷にしてくださったので、私にとってはこれ以上の幸運はありませんでした」


 だから魔王のちんぽをガン見してたのか、と思った。

 魔王が気分で決めたメス堕ちコースは、シャムルにとって奇跡に近い幸運だったのだろう。


「ここに来てからも、魔王様はやはり私の理想の魔王様でした。外道だろうと聖人だろうと罪なき人間だろうとクズだろうと平等に餌! 平等に奴隷! 気分で命の扱いを決める己の感覚と価値観にブレがない! そんな魔王様を、私は愛してやみません」


 シャムルの顔が完全に恋する乙女だ。

 なんだか、可愛く見えてきた。


「これからは魔王様の側近として、魔族が飢えない餌場を確保致しましょう。玩具が壊れれば新しい物を調達いたしましょう。魔族が健やかに生きられるように、総ては魔王様のために。私の総ては魔王様のモノになりました。もう、疑う余地はないでしょう」


 シャムルの言う通り、心臓を喰って魔族の核を与えたから、シャムルは魔王に逆らえない。血の結晶を与えれば猶更、魔王から離れられない存在になる。


(愛が重いなぁ。嫌いじゃないけど。リンデル王国の三皇子は、何気にみんな拗らせてるな)


 拗らせ方が個性的で、それぞれに可愛いし面白い。

 魔王は血の結晶をシャムルの胸に押しあてた。


「そこまで我を愛するなら、永劫、側にいろ。可愛がって、愛し続けてやろう」


 押し当てた血の結晶に口付ける。

 魔王の魔力が流れ込んで、結晶がシャムルの胸に埋まりハマった。


「あぁ……、魔王様の魔力を全身で感じる。血が黒く染まっていくのを感じます。なんと心地よい……。これで私は、愛する魔王様の本当の所有物になれたのですね。積年の想いがようやく叶いました」


 顎を掴み上げ、シャムルの顔を上向かせる。

 口付けて、長い舌を喉奥まで突っ込む。刺激になれたのか、シャムルは嗚咽しなくなった。


「魔王様……」


 恋するシャムルの目が魔王を見上げる。


「大変に嬉しいのですが、魔王様が私を愛する必要は、ございません」

「へ?」


 よくわからなくて、素直に首を傾げる。


「魔王様のような素晴らしきお方が、私程度の愚物を愛するなど、御威光に傷を付けます。どうか私のことはモノとでもお思いください。もしくは今まで通り奴隷として遊び、使い倒してください。魔王様らしく弄んでくだされば私は、全身全霊を持って魔王様を愛します」


 これは、あれだな、と魔王は直感した。

 魔王が本気でシャムルに惚れた途端に、シャムルの愛が冷めるパターンだなと感じた。


(どうしよっかな。魔王はもう割とシャムル君、好きなんだけど。こういう、器用で頭がいいのに思考と努力の方向性がナナメな子って好みなんだよね)


 それにシャムルの顔と雄っぱいは、魔王の好みドストライクだ。

 魔王のちんぽが突っ込まれていないと落ち着かないくらい、愛しまくって甘やかしてドロドロに蕩ろかしまくってもいいのだが。

 とはいえ、そんな風には言わない方がいいんだろう。


「じゃぁ、今まで通り性奴隷的な感じで、魔王と一緒に寝たりエッチしたりする?」

「はい、魔王様が望まれるままに」


 シャムルが嬉しそうに魔王の前に傅いた。


(本当なら、両想いだね的な甘々展開で抱き合ったり、恋人っぽいキスしたりする場面なんだろうなぁ)


 今度、そういうプレイをして遊ぼうと、魔王は思った。


「魔王様の側近となりましたからには功績をあげて御覧に入れます。まずはリンデル王国を王室ごと乗っ取り、魔族の餌場、人間牧場と致しましょう。リンデルを皮切りに、国単位の牧場を整備し、魔族の食料の安定を図ります」


 シャムルの顔に氷の微笑が浮かんだ。

 こういう笑みを浮かべた時のシャムルはきっと、心の底から笑っているんだろう。

 笑みの意味は色々あるんだろうが、とりあえず否定はしない方がよさそうだ。


(いいなぁ、目の奥に灯った仄暗い闇とか、可愛い。どうやったら嫌いな相手を最も苦しめて殺せるかとか考えてるんだろうなぁ)


 魔族の核とか関係なく、最初から完全に魔族側の生き物だなと、魔王は思った。


「そうだね。ちょっとずつやってこ。時間はあるから。魔族って長生きだから、人間みたいにせっかちにしなくていいよ」


 シャムルが顔を上げて、ニコリと笑んだ。


「それでは魔王様の現時点でのご要望をお聞かせください」


 シャムルが魔王ににじり寄り、腰に抱き付く。

 股間に顔を埋めて、顔を擦り付けた。


(聞くというか、これはおねだりかな)


 色々頑張ってくれたしね、と思いながら、魔王はシャムルの顔を股間に押し付けた。


「いつものように咥えろ。満足出来たら、後ろにハメてやる」


 シャムルが顔をほころばせて魔王の半立ちデカちんぽをハムハムした。


「緩い話し方の魔王様も、時々に出される雄々しい魔王様も、どちらも心ときめくほどに素敵でございます。この立派な雄を私の雌穴にぶち込んでくださいませ」


 すっかり勃起したデカちんぽを咥え込んで至福の顔をするシャムルの頭を撫でる。

 当面退屈しないで済みそうだと思う反面、シャムルの暴走がちょっとだけ心配になる。


(そうなったら、いっぱい抱いて、一緒に寝てあげよ)


 氷の微笑に魅入られた魔王様は、その重たい愛を甘んじて受け入れたのでした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?