シャムルに食料調達の話をした、しばらく後。
食料は向こうからやってきた。
「リンデル王国の遠征騎士団、数はざっと三百ってとこだなぁ」
使い魔が送ってくる映像を魔鏡で眺めて、ランドールが説明する。
「久し振りに本気できた感じだねぇ」
ランドールがカラカラと笑った。
「王国の三皇子が揃って堕ちて、焦ったのでしょう。取り戻しに来たのか、殺しに来たのか」
「今更取り戻すっても、シャムルはじめ全員、魔族堕ちしてるけどな」
ランドールが言う通り、シャムルは魔族の核を得て完全なる魔族になった。
フィオナとヘルは聖なる力が闇に染まって悪魔になった。
唯一、半魔のガイルは日増しに魔印が濃くなって、魔族の血が濃くなっている。きっとランドールの精液を毎日貪っている賜物だろう。
「リンデル王国は魔国に隣接する大国故、防波堤のような役割を担う。勇者が続々と魔族に変わる状況を見過ごせなかったのでしょうね」
「んなもん、今更だろ。人間は大概食料だが、有能な人間は昔から魔族になってたぜ」
ランドールが何でもない事のように語る。
しかし、シャムルの顔色が優れない。
魔王に向かい傅いて首を垂れた。
「申し訳ございません。私がもっと早くにリンデル王国陥落に動いていれば、このような事態には」
「いいよ。かえって良かったよ。食料が向こうから来てくれた。手間が省けたよ」
魔王的にはラッキーだ。
わざわざ狩りに行かなくても、
魔王はワクワクした。
「ところでさ、遠征騎士団の中で一番強そうなのって、どの子?」
魔鏡を指さすと、シャムルが覗きこんだ。
「団長を務める騎士のスカラ、私たち兄弟の従兄弟です」
シャムルが指さした男は屈強な筋肉に端正な顔をした、ガイルとヘルを足して二で割ったような風貌だ。
「なるほど、似てるねぇ。その後ろにいるのは?」
魔王はスカラの後ろで馬に乗る男を指さした。
細身でありながら程よい筋肉をした男は魔力も充実してバランスが良さそうだ。
「あれは……、魔導師ユリネリア。リンデル王国に留まらず大陸最強と名高い魔導師。私の魔法の師です。まさか、ユリネリア師匠を従軍させるなんて」
シャムルが珍しく怯えを見せている。
「ほうほう、確かに強そうだ。あの二人は魔王軍候補ってことで、食べないように気を付けようね」
シャムルたちが来てくれたお陰で魔王軍の軍事力もかなり回復したが、もう一押し、欲しいと思っていた。
これもまた、都合がよい。
「え?」
「ん?」
驚いた顔をしているシャムルに、魔王は首を傾げた。
「んじゃ、あの二人以外は餌でいいよな」
ランドールが魔王に楽しそうな笑顔を向ける。
「いいよ。あの二人だけ玉座の間に転移させて、また快楽堕ちさせて遊ぼうか」
「いいねぇ。騎士の雄っぱい、俺の好み」
「魔王は魔導師と遊びたい」
魔王とランドールの会話を聞いて、曇った顔をしていたシャムルの表情が笑みに変わった。
「でしたら私は、残りの人間を冷凍保存して食糧庫に収めましょう」
シャムルの提案に、魔王の胸が躍った。
「シャムルは氷結魔法が得意だから、凍らせられるんだ。食料が長持ちするね。シャムル、偉い」
頭をなでてやると、シャムルが嬉しそうに笑んだ。
「久々に食糧庫がいっぱいになりそうだなぁ。良き良き」
しばらく餌の心配はしなくて良いと安堵しながら、新しい玩具で遊べるとワクワクする魔王様でした。