僕は神を信じていない。
僕は国で1番高い地位を得た枢機卿だ。
ルーメイ王国のジェイドと申す。
僕はただ、親の後を継いで枢機卿になっただけだ。
毎日毎日たくさんの信者が教会に祈りに来る。
僕は神様のように振る舞い、信者を愛すことが仕事だ。
正確な話、教会の管理と教典を発行することだ。
僕の両親が開いたこの宗教は瞬く間に王国中に広まり、王族貴族までもが信仰している。
安定した生活も送り、平凡で、誰もに慕われていた。
何もしなくとも、人々から一方的に好かれていた。
この少女に会うまでは…
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「本当どこの枢機卿よ。知らない、あんたのことなんか」
スラムを通っても、誰もが僕に頭を下げ、崇拝していた。
建物の隙間で苦しそうに咳をする少女を見つけ、声をかけた。すると、
「余計なお世話。私の自由でしょ?」
どうやら少女は惜しくも合法な薬物を吸っているらしい。
それは、トキシリアと言って、元は頭痛薬だった。
しかし、それは過剰摂取により精神的に安定をもたらすと噂が広まった。
本来の使い方ではないものの、トキシリア自体は危険なものではないので、国も禁止はできない。
少女はどうやらトキシリアを粉にして、もしくは粉にしたものを買って吸っているらしい。
もちろん、体にいいものではなく、吸うのは肺などの呼吸器に悪影響があると聴いたことがある。
きっと少女は肺炎だろう。
可哀想に。神に祈るならば助けてやろうか。
「ほっといて。あんたは関係ないでしょ」
少女はどうも冷たい。今まで自分を慕う信者としかほとんど話したことがなかったが、この少女は誰が見ても冷たいだろう。
とりあえず、医者に肺炎を診てもらおうと思い、教会に連れて行こうとする。
チャリ…手を伸ばすと金属の擦れる音がした。きっと僕は持っている祈祷具だ。
「あんた…、国の枢機卿?」
『そうだけど…なんでわかったの?』
「この国で金属製の祈祷具を持ち歩いているのって、ジェイド枢機卿だけなんだよ!」
鋭い推理。その通りだ。
『君、教会に来てくれたら肺炎を診る医者を連れてくるよ』
「私、神を信じるつもりはない」
『僕は言うのもだけど、僕も神なんか信じてないさ』
「え…。国に仕える枢機卿が?」
枢機卿だって、神がいないって思うことがあるんだ。
『と言うか、まだ君未成年でしょ?どこからトキシリアを買うお金なんか…」
「犯罪じゃないよ。何もとったりスったりしてないよ」
『じゃあ、なんで…』
「売ってた。春を。」