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枢機卿が恋をしたのは薬物中毒の天才少女
枢機卿が恋をしたのは薬物中毒の天才少女
懐綺
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年04月17日
公開日
3,686字
連載中
ある王国に、国に仕える若い枢機卿がいた。 しかし、彼、ジェイドは神など信じてはいなかった。 ある日、ジェイドはスラムの建物の隙間に棲む、薬物中毒者の少女を見つけた。 少女エンバーは頭の回る少女だった。 ジェイドは彼女を教会に住まわせることにした。 ジェイドの思いに遅れて気づいたエンバー。そして、すれ違う想い。2人の命の危機—。

第1話

僕は神を信じていない。


僕は国で1番高い地位を得た枢機卿だ。


ルーメイ王国のジェイドと申す。


僕はただ、親の後を継いで枢機卿になっただけだ。


毎日毎日たくさんの信者が教会に祈りに来る。


僕は神様のように振る舞い、信者を愛すことが仕事だ。


正確な話、教会の管理と教典を発行することだ。


僕の両親が開いたこの宗教は瞬く間に王国中に広まり、王族貴族までもが信仰している。


安定した生活も送り、平凡で、誰もに慕われていた。


何もしなくとも、人々から一方的に好かれていた。


この少女に会うまでは…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「本当どこの枢機卿よ。知らない、あんたのことなんか」



スラムを通っても、誰もが僕に頭を下げ、崇拝していた。


建物の隙間で苦しそうに咳をする少女を見つけ、声をかけた。すると、


「余計なお世話。私の自由でしょ?」


どうやら少女は惜しくも合法な薬物を吸っているらしい。


それは、トキシリアと言って、元は頭痛薬だった。


しかし、それは過剰摂取により精神的に安定をもたらすと噂が広まった。


本来の使い方ではないものの、トキシリア自体は危険なものではないので、国も禁止はできない。


少女はどうやらトキシリアを粉にして、もしくは粉にしたものを買って吸っているらしい。


もちろん、体にいいものではなく、吸うのは肺などの呼吸器に悪影響があると聴いたことがある。


きっと少女は肺炎だろう。


可哀想に。神に祈るならば助けてやろうか。


「ほっといて。あんたは関係ないでしょ」


少女はどうも冷たい。今まで自分を慕う信者としかほとんど話したことがなかったが、この少女は誰が見ても冷たいだろう。


とりあえず、医者に肺炎を診てもらおうと思い、教会に連れて行こうとする。


チャリ…手を伸ばすと金属の擦れる音がした。きっと僕は持っている祈祷具だ。


「あんた…、国の枢機卿?」


『そうだけど…なんでわかったの?』


「この国で金属製の祈祷具を持ち歩いているのって、ジェイド枢機卿だけなんだよ!」


鋭い推理。その通りだ。


『君、教会に来てくれたら肺炎を診る医者を連れてくるよ』


「私、神を信じるつもりはない」


『僕は言うのもだけど、僕も神なんか信じてないさ』


「え…。国に仕える枢機卿が?」


枢機卿だって、神がいないって思うことがあるんだ。


『と言うか、まだ君未成年でしょ?どこからトキシリアを買うお金なんか…」


「犯罪じゃないよ。何もとったりスったりしてないよ」


『じゃあ、なんで…』





「売ってた。春を。」


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