この少女が春を?
『そのままの意味だな?君。本当にそんな…』
「あんたもやりたいなら1時間2万でどうだい」
そうぶっきらぼうに言われた。
そう言うと、彼女は下を向き、また咳をして少しトキシリアを吸った。
『僕にそんなつもりはない。トキシリアをやめる約束なら教会で養ってやるが…』
「そうだね…。そろそろ金が尽きそうなんだよ。養ってくれ」
そう言い彼女は立ち上がった。
口を慎んで慕え…と言いたいところだが、彼女はそれを忘れさせた。
彼女は美しい、青い目をしていた。
長い黒髪が日に当たり、少し茶色味がかっていた。
何より、澄んだ彼女の碧眼は、僕が見た中で1番綺麗な物だった。
その瞬間、彼女に全てが輝いて見えた。
一目惚れってやつだ。
何もそんなこと知る由のない彼女は本を拾いあげた。
彼女と話していて気づかなかったが、その本は異言語で書かれていた。
この王国の教育水準は貴族を除けば、極めて低い。
国の言葉が読み書きができるものはそうそういない様に思える。
そんな中、1人の少女が異言語を…
『それ、どこの国の言葉?』
「この本?知らないよ。図書館で借りてたらなんとなく読めるようになっただけ」
教会に向かい歩いていた。
どうやら彼女はエンバーというらしい。
数年前、彼女の毒親だった母が弟を殺し、エンバーまで殺そうとしてきたので、逃げ出したそう。
その数日後、家に帰ると母と弟の亡骸があったそう。
父の姿がその後、見つかることはなかった。
エンバーはその後、スラムに入り浸り、安い食べ物を買ったり貰ったりして生きていたそう。
しかし、トキシリア薬を吸うとお腹が空かず、気持ちが安定すると仲間に教わり、始めたそう。
「3年経った今でも、父の屍どころか情報さえ見つかっていないって」
素っ気なく、でもどこか寂しそうに、悔しそうにそう言った。
負の感情がエンバーを取り巻いている様だった。
それでもエンバーは綺麗だった。儚く見えた。
あの強気で無愛想で薬物中毒者の彼女に僕は恋をしてしまった。