「ここがジェイドの教会か…」
『枢機卿とつけなさい…』
「私、信者じゃないし。」
彼女は思っていたよりも元気がある。
彼女は16歳。僕は20歳。
彼女の方が元気なのも当然だ。
「ジェイドはさ。何のために枢機卿やってるの?何をしたいの?」
唐突に、そんなことを…
考えたことがない。ただ、生きてさえいればいいと思っていたから。
ふと、昔の事を思い出した。
『国を、変えたい。』
「は?」
自分でも意味がわからない。
エンバーが理解できないのも当然だ。
しかし、これがふと、無意識に出てきた言葉だ。
『昔…。やっぱりいいか。』
喉元まで来ていた言葉を飲み込み、後で話すことにした。
「まあ、そっか…」
エンバーは不思議そうに思いながらも深く追求してくることはなかった。
僕は彼女に客室を貸し、その代わりに教会の私的な仕事: 掃除や買い出しを行なって貰うことにした。
その日の夜、エンバーに尋ねられた。
「国、なんで変えたいの?どう変えたいの?」
『不条理で理不尽な事がいっぱいだからさ。僕が助けられた法律もあるけど。それでも悔しいんだ。』
何が悔しいかは言わなかった。
いつかは、親しくなったら、言おうと思う。
エンバーも悪い人じゃない。
ただ寂しく、不安で、未来に迷う純粋な少女だ。
僕なら彼女を救えると思う。
彼女なら僕を理解してくれると思う。
彼女は信用できる。
ずいぶん夜遅くまでエンバーと話してしまっていた。
きっと長い間スラムの建物の隙間でしか睡眠を取っていないのだろう。
そろそろ寝ようか。
次の朝、僕が起きるとエンバーはもう起きていた。
「本当に、目的じゃないんだね…」
どうやら身体目的だと思われ、一睡もしていなかったらしい。
確かに、売春していたとは言ってもエンバーも年頃の女性。
不安もあったはず。
そんなつもりは微塵もない事を伝えると、エンバーは安心して部屋へ向かい、眠りについた。