エンバーが眠りについてから僕は教会の掃除を始めた。
毎日信者が祈りにやってくる。
それから入り口の鍵を開け、信者を待つ。
この日は、名医と名高い医者の信者がやってきた。
彼に診て欲しい人がいると伝えたが、やっと眠りについたエンバーを起こすのは申し訳なかったからまた別日に来て貰うことにした。
仲の良い、ほぼ毎日来る母娘が来た。
夫を亡くし、悲しんでいたところで教会に救われたと言うおばあさんも来た。
時計屋の幼い娘も来た。
中流貴族の2人の少年も来た。
スラムの年寄りも、商人の幼子も来た。
城下町から外れた村に住む恋人達も来た。
彼らを見ていると平和を感じる。
幸せそうで羨ましく思う。
存在しない神を信仰し、愚かだと思う。
それが人間の良いところだ。頑張って、必死なところ。
今まで僕は苦労した事がほとんどない。
生きる為に必死って、素敵だね。
「おはよ…ジェイド」
『おはよう。もう起きたんだ。』
「もうって…結構な時間私寝てたよ。」
『じゃあ、着替えて買い出しに行こうか』
彼女はあまりちゃんとした食べ物を買ったことがしばらくはないだろう。
彼女にしばらくは教会の私的な仕事を教えていこうと思う。
「ここが市場…」
彼女は市場に初めて来たと言う。
よく僕が使う店を教えた。
帰ろうとした時、彼女は言った。
「図書館に寄らせて」
どうやら本を返借したいらしい。
ついでにおすすめの本も教えたいと言う。
「ジェイド早く!こっち!」
意外と無邪気なところもあるじゃないか。
エンバーに手を引かれるがまま着いていくと、本棚一面に異言語の本が並んでいた。
『僕、こんなの読めないけど…エンバーは読めるの?』
「ほとんどはね」
自慢げに言う彼女は可愛らしかった。
一面の本棚の中でも、彼女は僕におすすめしたい本があるらしい。
『何て読むのこれ』
「「琥珀色の少年少女」」
『どんな話なんだい?』
「主人公はジェイドみたいな聖職者の青年でね、彼は奪われた初恋の人を取り戻す為に国に立ち向かうの。でも、1人じゃ大変でしょ?だから、国に反抗的な考えになっていく教典をばら撒くんだ。結局彼は彼女を助け出すんだ。」
なるほど、内容は興味深いが…
『読めないんだけど。その本』
「構わないよ。私が読んであげる」
彼女は嬉しそうに本を借りることにした。
エンバーは、もう一冊くらい…と異言語の本棚を漁っていた。
彼女は目を見開いて、一つの本を手に取った。
驚いているようだった。
『その本なんて書いてあるの?』
「あぁ、これね。これは…」
「“翡翠の瞳に恋をしてる”」
恋愛系なのかな?
意外とそう言うのにも興味があるお年頃なんだろう。
とは言っても彼女とは4歳差。
大した年齢差はない。
その2冊の本を借り、その日は帰った。