「……はぁ……はぁ……ゴホッ! 」
——私は、資料でしか見たことのない木々や花の間を駆け抜けている。
赤く綺麗な花を咲かす木、辺りに広がる色んな色の花々、その間を埋めるように生える草……?どれも緑色だけど微妙にそれぞれ形が違うから別の種類なのかな、綺麗。特に黄色い花が細かく生えている場所がところどころある。
私はその黄色い花を知っている。この目で見るのは初めてだけど、それの名前は“菜の花”。こんなところじゃなかったらずーっと眺めていたい。
「残念なのは、こんな綺麗な一面に氷が咲いていることだけど! 」
そう、その綺麗な景色も完璧ではない。ところどころに
場所によっては、畳ほどの大きさの氷の塊が、花々をまるごと閉じ込めたように存在していた。
「……はぁ……はぁ、なんなのよ、ここ! 」
こんなに植物が立派に育っている空間なのに、おかしな点が多すぎる。そもそも今の日本で植物がこんなに育っていることが異常。この場所がこんなに広いことも異常、こんなに高い天井……いや洞窟ってことが異常。日もさしていないのに明るいことが異常。他にもたくさんの違和感があるけど……もうわかんない。
「さっき
私は見ないようにしていた後ろを見るために、足を止めずに振り返った。
そこには
「はぁ…はぁ……と……止まった!? 」
思わず足を止め、それを観察した。……その氷は全く動いていないが、顔と思わしき部分はこちらを見ている。
「……はぁ……はぁ……あの様子だと、追いかけるのは諦めたみたいね」
全力で“
——良い匂い……。
今、立たされている絶望的な状況にも関わらず、香る花々の匂いが優しく鼻を通り抜ける。
それは脳内に巡る様々な考え、これから何が起こるかわからない状況、友と
私は決して吹き抜けることはなさそうな、岩なのか山の中なのかわからない天井を見上げ、深く、しかしゆっくりと落ち着きのある深呼吸をする。
「ふーーーーー……まずは状況整理をしよう。まず一番最初に考えることは」
もう一度、さっき追いかけてきていた人型の氷がいた方へと顔を向ける。--やはり、それ以上は動けないのか、宙に浮いているので、この言い方はおかしいが、立ち止まっていた。
「怖すぎる。……いや、逆に良かったかも。あそこにいない方が怖いし、視界に入って動けないアピールされてる方が安心できる」
その事実に
「次に考えることは……みんなはどこにいるんだろう。……まさか、私だけ取り残されてて、みんなはここから出れたってことは? 」
一気に孤独感が増したが、そんな状況は嫌なので、“
「ないない、みんなが私を置いて出ていくことなんて、するはずが無い。……そもそも、この空間自体がおかしいけど、
私は上体だけ起こし、かろうじて氷も草木も生えていない、土だけの場所に右手を優しくそちらに向け、頭の中で氷が生えてくるのをイメージする。
--スゥーーー
その土だけの場所に
--バンッ!
激しい音が響く。そこには人の背丈ほどの、縦に伸びる長方形状の氷が出現する。
「この力が原因……咲も何か出そうとか言ってたから、この変な力というか、能力?はみんなも出来るようになっちゃったのかな? 」
自分の
「壮大な“夢”とかじゃ無いかなーー……イテテッ……普段こんなに走って無いから足を変な感じに挫いちゃってる……はぁ、夢じゃないかー」
再び私は寝転んだ。次は
「みんなと反対方向に逃げ出しちゃったから、もしかしてあの“
どうにか他の策を考えなければならないが、その状況によるストレスのせいなのか、それとも走り疲れによるものなのかはわからないが、頭がボーーっとしてくる。
「どこか別の道で繋がってないかな……それにしても良い匂い……私の氷を使っ…て……そもそも、なんでこんなところ……に……」
私は花々に囲まれながら、優しい匂いに包まれ、気を失った。