カッ、コッ、カコッ、カッカッカッカッ……
黒板を弾くチョークの音が教室に響く中、私はいつものように、見飽きた窓の外をぼんやりと眺めている。
降り続ける雪に覆われた空は、いつ見てもどんよりと暗く、積もった雪は、週に一度ほど訪れる晴れの日まで、少しずつ背を高くしてゆく。
たとえ晴れたとしても、日々積み重ねられた雪はそう簡単に解けることはなく、わずかにその表面を柔らかくするだけ……
生まれてからずっと降り続けるこの雪は、まるで日本という国が、泣きたくても泣けずに我慢している涙の雫が、ゆらゆらと冷え固まり、そっと落ちてしまったかのように見える。
「……はい、では伊藤これの音読みは? 」
ッ……!聞いてなかった!
どれ、どの漢字、何個か並んでる……多分あの漢字のことだ。
「戻る……すみません、わかりません……」
「そうか、伊藤にしては珍しいな。この“戻”は訓読みは“もど・る”でみんなも理解しているだろうが、音読みは“れい”だ。例えば
--いや、わかるけど。
--高校生に返戻金って笑っちゃう
--先生借金でもしてるの?
教室にクスクスと笑い声が聞こえる。
「ふーん、“れい”って読むんだ」
そのまま、自分のノートに暗記のためか、ただただ言われたことを書いているのかは私自身もわからないが、黒板に書いてあるその字を
——キーーン・コーーン・カーーンコーーーーン
ガチャガタガタ
--おい、昼飯どこで食う?
--今日ここでいいよ
--今日ボランティアじゃん!ダル!
チャイムと共に教室は騒がしくなり、それぞれ席の近いもの同士の会話が始まる。中にはもう教室を出ようとしている人もいる。
「こらこら、まだ一つ残って!……まぁいっか、次の授業までに今回のことをしっかりと暗記しておくように」
先生はぶつぶつと言いながら教室を出ていく。
「きりーーねーー!」
「何、今日も元気だね」
「またそうやって冷たいんだから〜」
「いつも通りでしょ、あ、その袋」
「
「んーー……りんご? 」
「違いまーーす、罰として3分の1しかあげませーん」
「いつも通りじゃん」
こうやって元気に話しかけてくれる金髪ショートの子は、『
「……スイカでしょ」
唐突に隣に立ち、会話に入ってきた黒の長髪に寝癖をつけた彼女は小学生から友達の『
「ん……ぐぐぐっ……なぜわかったーー! 」
「勘ですよ、勘」
「……はいはい、咲、みーたん。うるさいよ」
「うるさいのは私ではなく、咲ちゃん1人です! 」
「うぅ……食べよう」
フッとつい鼻で笑ってしまう。2人は私が心から信頼している仲の良い友達。
「はい、今回は輸入スイカです」
「咲、毎回わざわざ輸入って言わなくても、わかってますよ」
「みーたんも、いちいち突っ込まなくてもいいよ」
私たちは咲が持ってきた、4分の1カットほどのスイカを3人で分けて食べ始めた。
「逆に美亜ちゃんは、敬語がブームなの?」
「……何となくこのポジションだと、私が敬語ポジかなって……」
「みーたん、そういうの気にするところあるよね。ちょっとズレた考えというか」
「じゃあ、霧音と美亜ちゃん……今日はお互いを褒めて
「……逆に難しくない?私、だいぶ咲とみーたんのこと知ってると思う」
私たちの間に沈黙が通り過ぎていく。ただの建前としての友達であれば気まずくなる空間だけど、この3人だとその気まずさも心地が良いし、なぜか笑いが込み上げてくる。クスクスと私たちは静かに笑う。
「ふふ、では、あたしから!」
『続けるの!? 』
咲が少し大きな声で話を続ける。
「霧音は髪がサラサラすぎて怖い!反射する光で、もう灰色の髪が白く見えるよ!あとショートカットが似合ってるよ!いつも無愛想な振る舞いをしてるくせに守ってあげたくなるような雰囲気! 」
「咲〜、それ褒めてるの? 」
「ふふふ……でもそれ私も思う。同意見だわ」
「はい!次は霧音、美亜ちゃん褒めて! 」
「んー私から見たみーたんは……一見暗そうに見えるけど、内心は明るくて、優しいし、おっぱいの形も綺麗だし、知的な見た目だけど案外普通ってところもギャップ萌えするし、可愛いし、学校の中で一番制服を……」
「まってまってまって!キーちゃんやめて、恥ずかしいから! 」
「いつも通りの美亜ちゃんへの溺愛ぶりですな〜、あたしも同意見です。次、美亜ちゃん……私の〜」
『巨乳』
私とみーたんの声が重なる。
「ちょ、声が重なって大きく聞こえてるよ!他の!他の!プリーズ! 」
「みーたん、咲が輝く目で求めてるよ」
「私から見た咲ちゃんは、圧倒的太もも、細すぎなくいい感じにくびれたお腹、女の私から見てもそそるボディライン!! 」
「全部、性的に褒めるのやめて! 」
顔を真っ赤にする咲が可愛くて、面白くて、最高。
そんな私たちの会話を聞くためか、周りの男子たちは白々しく別の会話をしながら距離を近づけてきていた。
「はい!霧音、美亜ちゃん。次は順を逆にしよう!」
「咲ちゃん……周りの男子が聞き耳立ててる……おしまいにしよ」
「そうだねー、咲の
「ちょっと、霧音ーーー!!」
咲は、私の大きめの声に顔を赤くした。