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第9話 夢

 ……………………………?


辺りが暗い、いや暗いというか暗闇というか……ん?、あっちが光ってる。

 その光を意識すると、ビュンッッ!!--その光の発生源まで移動していた。ここで私は気づく、“”。



 「え、初……かも、これってなんだっけな、明晰夢めいせきむ……ってやつかな」


 私は自分の手や足を観察する、起きている時となんら変わりのない体だったけど、なんとも言えない違和感があった。--見た目は別に変じゃないのになー、ま、夢だしそういうもんか。


 「何か光ってる」

その光を発しているものは小さなものだった、しかしその小さな光からは温かく優しい雰囲気が感じ取れた。私はその小さな光に触れようと手を伸ばす。


 「これ……あのだ」


 ほんの一瞬だけ。光を発するもの、それが鍵だと認識した瞬間だけ触ることを躊躇ちゅうちょした。なぜかはわからないし仮に言語化するなら不気味さを感じたからだと思う。

 その不気味さの理由はもちろんこの鍵に関して不思議な現象が立て続けに起こり続けているからってのもあるけど、それ以外の理由もあるような気がした。


 それでも私はその鍵に触れた。


その鍵はピカーーっと強い光を発し始めた、その光はまるでボコボコと沸騰するゼリーのような不思議な形をした光だった、光に形って表現するのはおかしいかもしれないけど、とにかく形があった。


 「え、え!?」

何がなんだかわからないパニックになる。

 その形のある光はほんの一瞬だった、その光は弾けたかのように形を失うと同時に眩しすぎる光を発し、私は思わず目を瞑ってしまった。


 「…………………」


瞑ったまぶたを貫通してくる光が徐々に穏やかな明るさへと変わっていく、私はゆっくりと目をあけることにする。


 「……ッ…………!! 」


 目を開けると見たことのない景色が広がっていた、そこは雪の積もっていない大地が広がっていた。

 周りの風景は緑色と茶色の大地に囲まれ、遠くの方には緑の山々ととっても大きな山が一つ頂上付近に雪を被りそびえ立っている、あの山見たことあるな……なんだっけ--資料で見たことある。


 「富士山? 」


そう、あんな綺麗な山は存在しない、雪が降り続けることが当たり前になっている今の日本では、真っ白な雪の山しか存在しない、そもそも植物や木々が生えるようなことはほとんどないし異様な夢だと感じた。


 「綺麗……一度も体験したことない景色なのにこんなに鮮明に映るんだ……それにここ愛知だし……」


周りに人の気配はない、夢なのに柔らかい風を感じるし、少し冷える空気の中に暖かさがあってとても心地が良い。


 「すごいこの夢、匂いまで感じる! 」


 草の匂いが鼻を通り抜ける、私は小学校低学年の時、植物の博物館に行ったのを思い出した。


 「あー……あの時の記憶がこの夢の元になってるのかな、でもあの時よりも全体に広がるような匂いというか、本当に辺り一帯が生い茂っているみたい」

 そのいい香りを感じるために再び目を瞑り、深呼吸をする。目を開けるとこの景色に異様なものがポツンと目の前に現れた。--鍵だ。


 「……変な夢、せっかく気持ちのいい夢なのに怖くさせるのやめてよ……浮いてるし」


--よいではありませぬか。この夢は、入り口をそなたのそばへと移すためのもの


聞いたことのない女性の声でそう聞こえた


 「え、今この鍵から聞こえ……た? 」


 周りの景色がぐにゃぐにゃと変わり出したかと思えば、ゆっくりと景色は暗くなっていき気がつけば再び辺りは漆黒の闇へと化していた。ただその鍵だけは優しく光っていた。



——ピーンポーーン

音がなっている。


 「はっ、寝てた!」

私は飛び起き急いで髪をとかす、下の階ではみーたんと洋介が話す声が聞こえていた。


 「えっと、荷物はこれで、お母さんにお金貰うの忘れてたどうしよ、もう行っちゃったかな、先月のお小遣いどのくらい余ってたっけ」


机を見ると封筒が置いてあった、あの鍵が重石おもし代わりに置かれている


 「お母さん、さすがです」

私はその封筒の中身を確認し、封筒のまま鞄に入れ、外では着ている服だとまだ寒いのでアウターをクローゼットから取り出し、それを着ながら部屋の扉を開ける。


 「ごめんみーたん寝てた、今降りる」

 「キーちゃん慌てなくてもいいよー」


自分の鞄の中身をサッと確認し、部屋を出て階段を降りる。


 「ごめんごめん」

 「1時間待たせた人の焦り方だね、でも確かにキーちゃんにしては珍しいね」

 「うん、何か夢を見てたんだけど……忘れちゃった、まぁいいや行こう」

 「そうだね、今日ちょっと暖かいらしいよ」

 「それ、私も見た、洋介行ってくるね」

 「うん、行ってらっしゃい」



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