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孤独な彼女の愛し方
孤独な彼女の愛し方
新田漣
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月17日
公開日
1.5万字
連載中
「――それは蜂蜜を舌先で受け止めたような、甘ったるくて最低な恋でした」 舞台は異能が蔓延る現代日本 。 自称【幸運体質】の夕波帆高は、異能を用いた犯罪を取り締まる組織『夜行』での任務中に、快楽殺人鬼の女子高生・天咲よひらと出会う。 よひらは自身が持つ異能の影響で、過去の恋人の命を奪い続けてきた。その毒牙は帆高にも向けられてしまい、帆高は呆気なく命を落としたかに見えた。 だが、帆高は自身の体質で一命を取り留める。その姿を目の当たりにしたよひらは、死なない帆高を運命の相手と位置づけ、盲信するように。 かくして、快楽殺人鬼のよひらを無力化した帆高だったが、『夜行』は彼女を手中に収めるべく帆高にある命令を下す。 そんなさなか、帆高は生き別れた妹の居場所を探るために追い続けてきた警視総監・京終和平との接触に成功する。 だがそれは、衝撃と絶望の幕開けだった。 恋と毒、復讐と贖罪。 異能を持つ少年少女が、未来を勝ち取るため巨悪に挑むファンタジー。 表紙はノーコピーライト様よりお借りしております。

第1話 プロローグ

 小学校から帰宅した春原裕翔はるはらゆうとが目にしたのは、うつ伏せで倒れる父親の姿だった。


 絶命の瞬間まで這っていたのか、リビングの方向から塗り付けたように血痕が伸びている。助からないのは一目瞭然だ。裕翔はこみ上げる虚無感を抑え、夢遊病患者のような足取りでリビングに移動した。板張りの床を踏みしめるごとに生臭さが強くなり、さらなる悲劇を予感させる。


「母さん?」


 リビングには、果たして母親が倒れていた。腹部の大部分が切り取られており、赤黒い空洞からは体液が溢れ出している。裕翔はそれ以上直視できず、何度も嘔吐を繰り返した。


 喉を焼く不快な感覚。

 胃の内容物を吐ききったところで、ようやく呼吸が落ち着いてくる。


 まずは警察を呼ばなくては。


 裕翔は玄関に引き返す。だが、二階から降りてきた足音と鉢合ってしまう。


「おかえり、待ってたよ。小学校は楽しかったかい?」


 現れたのは、見覚えの無い初老の男だった。スーツの上からでも伝わるほど引き締まった肉体と、頬に走った大きな傷痕。只者でないのが一目で見て取れる。裕翔は警戒心を最大値に合わせながら、震える声で問い掛けた。


「おじさん、誰ですか……」

「世間一般で言うところの、正義の味方だよ。ただ、君にとっては悪い人かもね」


 男は柔和な笑顔のまま、ジャケットの内側へゆっくりと手を伸ばす。裕翔が明らかな殺意に気がついたのは、銃身を視認して数秒経った後だった。弾かれるように玄関扉へ走り出すが、伸ばした手はドアノブに届かない。


「ごめんね。目撃者を逃したら、京終きょうばてさんに怒られちゃうから」


 謝罪と銃声。

 放たれた弾丸は裕翔の後頭部を貫通し、視界の中央で花火が咲く。


「おやすみ少年。恨むなら、キミのお母さんの能力を恨むんだよ」


 力を失った身体は玄関扉に衝突し、ねじれるように崩れ落ちる。

 薄れゆく意識の中で裕翔が最後に見たのは、硝煙で歪んだ銃口。


 以上が、とある一家を襲った悲劇の記録である。


 この凄惨な事件は、死者三名・行方不明者一名を出したにも関わらず、表沙汰にされることなく闇へと葬られた。


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