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第44話 怪奇レポート010.公園、遂に立入禁止!参

 町長が拘束された現場に向かう車内の空気は、重く張りつめていた。

 真藤くんは赤信号に引っかかるたびに舌打ちをし、小津骨さんはしきりに時計を気にしていた。


 それもそのはずだ。

 小津骨さんにとっては元とはいえ旦那さん、真藤くんから見ればお父さんが危険な目に遭っていると聞かされたばかりなのだから。


 真藤町長は、封鎖された公園の中にいた人たちの身代わりとして自らを差し出したらしい。

 おかげで現場での被害は町長の拘束だけで済んでいるそうだ。


「香塚先輩、本当にこれ・・でどうにかするつもりなんですか?」


 隣に座る結城ちゃんは心配そうに問い掛けてくる。

 私は生身では幽霊や怪異に触れることができない。

 けれど、道具があれば触れられる……はずだ。

 そうであることを信じて、私は目についたものを持って車に乗り込んだ。


「ここっス……」


 真藤くんが車を止めたのは、町役場の隣に建つキッカイ町立中央図書館の駐車場だった。

 図書館の裏は広場になっていて、ジョギングコースがあったり子供たちの水遊びスポットにもなっている噴水があったりと町民憩いの場としてお馴染みなのだ。


 しかし、そんな憩いの場も今日は様子が違っていた。

 複数ある出入口は全てが立ち入り禁止のテープで封鎖され、閑散としている。

 広場とは対照的に、周りの歩道には多数の野次馬が集まっていた。

 中にはスマホで撮影をしているらしき人までいる。


「そこ、邪魔だからどけるっス~!」

「撮影をやめて。SNSへの投稿も控えてください」


 真藤くんと小津骨さんが野次馬たちを追い払おうとするが、多勢に無勢でどうにもならない。

 仕方がないので、人ごみの中で車から持ってきたハンマーに御神酒と塩を振りかけて準備をしているとざわめきが起き始めた。


「真藤町長っ! 今助けます!!」


 私が声を張り上げて初めて、真藤町長はこちらの存在に気が付いたようだった。

 重たいハンマーを持ち上げると、思い切り水平方向に振る。

 野次馬がどよめいて私たちから離れるのと、腕に強い痺れが走るのはほぼ同時だった。


 よかった。

 やっぱりある・・

 テープだけではない、防弾ガラスかアクリル板のようなしっかりとした壁の感覚だ。


 肩までビリビリとした感覚に包まれているが、そんなことでは止まっていられない。

 広場の周りに張り巡らされた見えない壁のどこか一カ所でいい。

 叩き壊すことができれば町長を救い出すことができるんだ。

 その一心で、私は何度もハンマーを振り続けた。


 ゆで卵の殻にヒビが入るように少しずつ、だが確実に見えない壁は弱くなってきている。

 その証拠にハンマーがぶつかると見えない壁が歪む感覚があるし、氷の粒のようなキラキラした破片が舞っているのが見えた。


 壁が壊れ始めていることは私にとって励みになったが、疲労の蓄積には抗えない。

 ハンマーを振る腕は鉛のように重くなり、打ち付けるパワーも目に見えて落ちてきていた。


「こーづかさん、手伝うッス!」


 真藤くんが駆け寄ってきてハンマーを支えてくれた。

 もう一息、あともう一頑張りだ。


「あ、香塚さん。そんなことしちゃダメですよ。ハンマーだけじゃなくて香塚さんの肩まで壊れちゃいます」


 いつの間にか広場に<発生>していた木井さんが語り掛けてくる。

 それすら鬱陶しくて、偽物の木井さんを壁もろともぶん殴ってしまいたい気分になった。


「ねえ、聞いてます? 嫌だなぁ。僕、無視されるのが一番嫌いなんですよ」


 偽物の木井さんの声が不機嫌になった。

 同時に空気ががらりと変わる。

 まずい、と思ったけれど私たちの体はハンマーを振る態勢に入っていて、もうどうしようもなかった。


「危ない、下がれ!」


 男の人の声が聞こえたかと思うと、矢のような勢いで黒い影が空から降ってきた。

 そして、それは勢いそのままに私の手にぶつかり、手の中のハンマーを弾き飛ばす。


 私と真藤くんは衝撃で体勢を崩し、尻もちをついた。

 次の瞬間、鼻先すれすれのところを偽物の木井さんの手がかすめた。

 体勢を立て直しながら、私たちを間一髪のタイミングで救ってくれた黒い物体に改めて目を向ける。


「カラス!?」


 黒いジャケットを羽織った青年の肩にゆっくりと舞い降りた漆黒の羽の鳥。

 しかし、私たちの目の前に現れたカラスは普通のカラスとは少し違っていた。


 額に縦向きになった第三の目・・・・があったのだ。


「ムツキ、いくぞ」

オウ、レイ」


 突如現れた青年に、三ツ目のカラスは人間の言葉で返事をした。


「第式・ざん


 青年が声を発するとカラスの羽が光り、カラスが羽ばたくとその光は斬撃となって広場の中の木井さんを切り裂いた。

 少なくとも、私の目にはそう見えた。


 気付いた時には偽物の木井さんの姿も、広場を封鎖していた立ち入り禁止のテープもすっかり消え失せていた。

 それを見た真藤町長が、こちらへと歩み寄ってくる。


 突如として現れた彼らは、たった一撃で怪異を退治してしまったようだった。




【怪奇レポート010.公園、遂に立ち入り禁止!


 概要:キッカイ町内にある公園が立ち入り禁止のテープを用いて封鎖されることが相次いだ。場所に規則性などはなく、町内の公園が無差別に狙われたものと思われる。

 一連の事件が発覚してから数日後、封鎖された公園内に一人の男性が閉じ込められるという事案が発生した。

 その後、男性の救出に当たった職員が公園内にいたのと同じ男性と遭遇したため、公園内にいた人物は怪異が擬態したドッペルゲンガー的存在であったと推測される。


 対応:駆けつけた職員の手により殲滅。その後の巡視により町内の公園に貼られていた立ち入り禁止のテープが消滅したことが確認されたため、本件は解決したものと判断する。】 

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