「先生から同業者の手伝いをしろって言われて来てみれば、こんな腑抜けた連中だとはな」
吐き捨てるように言った青年は、頭の上に止まったカラスを鬱陶しそうに手で払おうとする。
カラスは手を避けるように一瞬飛び上がり、すぐに頭の上に舞い戻ってきた。
どうやらカラスの方が一枚上手らしい。
「先生……?」
「
彼が発した名前に、全員の目が丸くなった。
「瀬田さんのお弟子さん!?」
「
名前を呼ばれた頭上のカラスが、挨拶するようにパッと羽を広げた。
このカラス、いつの間にか体型がゆるいおにぎり型になっている。
目は顔の中心にひとつだけ。
「省エネモード」
「え゛っ!! めっちゃ可愛い……。ぴよちゃんこっちおいで〜!」
私が問いかける前にカラスの方から申告してきた。
心を読まれているんじゃないかと警戒する私をよそに、結城ちゃんは大喜びしていた。
結城ちゃんの暴走はカラスをぴよちゃんと名付けただけでは収まらず、ぴよちゃん――もとい無月――を宮松くんの頭上から強奪し抱きかかえている。
「結城ちゃん、ダメだよそんな勝手に……」
「別に。構わないけど」
宮松くんは相変わらず不機嫌そうな顔だ。
でも、意外に寛容?
もともとそういう顔の人なのかも。
見たところ私たちと同年代っぽいけれど、かなりしっかりしている印象だった。
「ちなみに、
「みぃ……」
宮松くんに首根っこを掴んで持ち上げられたみぃちゃんが、困惑したように鳴いている。
「けん……ぞく?」
「使い魔のことだ」
「それならこーづかさんっス。みぃちゃんを連れてきたのはこーづかさんっスから」
真藤くんが私を指さすと、宮松くんの視線がこちらに向いた。
みぃちゃんを放り投げるように解放し、代わりに私の方へ手が伸びる。
「へっ!?」
いきなり襟首をつかまれ、思い切り引き寄せられた。
あまりに急な出来事に心臓が爆発しそうなくらい暴れている。
「どうして置いていった」
「なっ……」
「何のことっスか」
驚きと恐怖で裏返った声を出すのがやっとな私の代わりに真藤くんが問い掛ける。
「こいつはアレを祓っただろ。それがわかっていて、なぜ置いていったのかと聞いているんだ」
「祓っ……た?」
みぃちゃんが?
公園を封鎖した犯人を?
宮松くんが言っていることが理解できず、ますますパニックになってきた。
私の反応が悪かったせいか、宮松くんは舌打ちをして私の襟首を掴んでいた手を乱暴に離した。
その反動で倒れかかったところを小津骨さんに受け止められる。
「わたしたちが公園から戻った時、みぃちゃんは唸りながら猫パンチをしてきたわね。それが祓うための行動だったってことかしら?」
「あっ」
あれってそういう意味だったんだ。
「師匠が預かって訓練をした時、悪いモノとの縁を断ち切る方法を教え込んだ。それに、こいつくらいの素質があればあれくらいのモノは倒せるはずだろ」
「そ、そうなんだ……私、全然知らなくて」
「みぃちゃんはここのマスコットキャラだと思ってたっス」
頷き合う私と真藤くんを見て、宮松くんは深いため息をついた。
「ハンマー振り回してる所を見てもしやと思ったが、まさか本当に何もわかってないとはな」
「うっ……」
なんかごめんなさい。
「わたしたちも四月からこの仕事の担当になったばかりでね。いろいろと不慣れなのよ」
小津骨さんはそう言ってフォローしてくれるけれど、私が除霊について何もわかっていないのは事実。
だって、来年の今頃は図書館で働いているはずだし。
図書館では除霊のノウハウって必要ないよね?
「
「あっ、違います! 『こう
宮松くん、そんな風に勘違いしていたなんて。
やけに私に対して厳しいと思ったんだよね。
「とりあえず、事情はわかったんで。これからしばらく、補助役兼指導員としてビシバシ鍛えされてもらいます。まずはアンタから」
「は、はい……」
宮松くんとびっちりバッチリ目が合ってしまった私は、観念した。
彼からは逃げられない。
でも、あんまり除霊技術とか身に着いちゃうと
大丈夫かなぁ?