「
「あ、どうも。れーたくんいます?」
あの時の出会いがきっかけで二人は友達になったらしい。
「
「何かあったの?」
「んー……ま、いっか。おばさんたちも妖怪ハンターしてるんだもんね」
お、おばさん!?
たしかに十個以上歳は離れてるけどさ……。
ショックで話が半分くらいしか頭に入ってこない。
「うちのクラスに転校生が来たんだ。でも、見えないの」
「へっ!?」
慧くんを自分の席に座らせると、私が非常食として隠していたおかしとジュースを持ち出してきて目の前に並べる歓待ぶりだ。
って、私の非常食!
いつ隠し場所がバレたんだろう。
「見えない転校生さんは、男の子? 女の子?」
「わかんない」
「いつから転入してきたの?」
「今週の月曜日……らしい。って言っても自己紹介されたわけでもないし、机が増えたわけでもないからよくわかんない」
結城ちゃんに質問攻めにされながら、チョコバーを頬張る慧くん。
「これうまいね」
「ほんと? 気に入ったらドンドン食べていいんだよ~」
結城ちゃんはニッコニコで慧くんの前にチョコバーを積んでいく。
それ、この辺じゃ売ってないちょっとお高いやつなんだけど!!
「ところで、転校生が来たって知ったのはいつ?」
「今日配られた学級通信。ここ見て」
言いながら、慧くんは左下の【今週の学級ニュース】の欄を指さす。
そこには「ようこそ転校生、縺九◆縺ェ縺繧?≧縺溘m縺さん」の文字列が。
「文字化けしてるじゃない」
「そうそう。だから名前もわかんなくてさ。妖怪ハンターのれーたくんなら何かわかるかなと思ったんだ」
「気にしなくていいぞ」
不意に会話に割り込んできたのは
慧くんはその声で初めて彼の存在に気付いたらしく、目を丸くしている。
「だれ?」
「妖怪ハンター」
宮松くんは自分で言って、ぎゃはは、と笑った。
そういうとこ案外ノッてくれるんだ。
「悪いヤツが来てるなら、お前からもその残り香みたいなのが感じられる。それがないってことは放っておいても問題ない」
ビシッと言い切った宮松くんを見る慧くんの目は、いつの間にか疑いから憧れに変わっていた。
「宮松くんレベルになると見るだけでわかっちゃうんだ」
「かっけぇ!!」
「別に、このくらい普通だろ」
目を輝かせる慧くん。
宮松くんはそれを軽くあしらうが、ドヤ顔が隠しきれていない。
式神の
なんて考えていたら定時を報せるチャイムが鳴った。
「さ、今日はこのくらいにして帰りましょうか。慧くん、宮松さんが大丈夫だって言ってるから大丈夫だと思うけれど、何かあったらわたしか怜太に連絡してちょうだいね」
「はーい」
またねーと手を振って帰っていく慧くんを見送って、私たちも帰路についた。
あれから数日。
週が変わり、真藤くんも帰ってきた。
「こんにちはー。あ、れーたくんだ」
この前と同じように学校帰りの慧くんが伏木分室にやってきた。
慧くんは「見てよこれ!」と言いながら、真藤くんの机に数枚の学級通信を並べる。
「転校生のお知らせがあったの、うちのクラスだけじゃなかった」
彼が言う通り、並べられた学級通信に記されている学年やクラスはバラバラだ。
「よくこんなに集めたわね」
「でしょ? 他のクラスの子にもらったり、裏紙置き場からこっそり持ってきたり大変だったんだから」
苦労の甲斐もあって、こうしてたくさんの資料が集まったようだ。
私たちは取り合うようにして学級通信に目を通す。
ただひとり、先週不在だった真藤くんだけは何が何やらわからない様子で眉間に皺を寄せている。
時間割りや行事の連絡など書いてあることはさまざま。
しかし、ただ一点、転校生のお知らせとして書いてある文章はどの学級通信も同じだった。
「宮松くん、これって本当に放置しておいて大丈夫なの?」
「前も言ったけど、悪い気は感じないから。……とはいえ、この規模は俺も初めてだ」
妖怪ハンター(仮)の宮松くんに困り顔をさせてしまったこの一件が、大きな事件の始まりだったと気付いたのはそれからしばらく経ってからだった。
【怪奇レポート011.誰にも見えない転校生
概要:キッカイ町立第五中学校にて配布された学級通信に転校生のお知らせが記載された。しかし、該当生徒の名前は文字化けして判読できず、それらしき姿も確認されなかった。
生徒の指摘により、転校生のお知らせが誤って記載されていたことが判明した。
この転校生のお知らせは第五中学校の全学年、全クラスで配布された学級通信に掲載されていたが、なぜこのようなことが同時多発的に発生したか原因は不明である。
対応:邪悪な気配は感じられないため、対応は一時保留とする。
また、引き続き相談者の生徒とは連絡を取ることができるようにし、異変発生の報告を受けた場合は速やかに対応を行うこととする。】