「で、で、で、出たっス!! 本当に死体が出たっス!!!!」
腰を抜かし、這いずりながらタイムカプセルから逃げる真藤くん。
目を輝かせて中を覗き込む結城ちゃん。
対照的な二人の反応を見守っていた私は、少し離れた席にいた
「……あ、なーんだ。偽物だ」
残念そうにため息を吐いて、結城ちゃんはタイムカプセルの中にあった左腕を取り出した。
それを見た真藤くんは「ヒィッ」と悲鳴をあげる。
「マネキンの手、かしらね」
「いえ、人体模型のジンタくんの左腕らしいです」
木井さんが補足説明を入れる。
タイムカプセルを作ると聞いて、いたずらな生徒が人体模型の腕をこっそり入れる。
それを数十年後に掘り返してみんながビックリ。
まあ、全くありえない話ってわけでもなさそうかな?
「そこまでわかっているなら、なぜここへ持ち込んだんです?」
小津骨さんが尋ねた内容は、今ちょうど私も聞こうとしたことだった。
人体模型の腕なら事件性もないし、どの人体模型のものかも明らかなら
「それが、ですね……。この腕をタイムカプセルに入れた人間が不明なんだそうです」
「忘れてるだけじゃないんですか?」
「そうそう。僕も香塚さんと同じように思って、これを持ってきた方に聞いたんです。そうしたらね、いろんな同級生の記憶をすり合わせてみた結果、その場には同級生以外の人物が紛れ込んでいたんじゃないかという結論に至ったみたいです」
その人物っていうのが奇妙なんですけど、と木井さんは話を続ける。
「人物って言っていいのかなぁ。
人体模型のジンタくん本人が、その場で左腕を外してタイムカプセルに入れていたって証言する人が数人いたらしいんですよ」
「数人? 一人じゃないんですか」
一人だけなら見間違いとも考えられるけど、複数いるならそうとも言い切れなくなるな。
「誰かがジンタくんのフリをしてたとかじゃないっスかー?」
「それがねぇ、当時のことを覚えている人たちから『その人は裸だった』『自分たちの目の前で腕を外した』って証言が出てるんです。同級生に義手の人はいないって言いますし、凄腕マジシャンでも自分の体の一部を外して見せたりしないでしょう」
そうとなればジンタくんが自ら腕を外してタイムカプセルに入れたという話に信憑性が出てきてしまう。
でも、白昼堂々と動き回る人体模型の話なんて聞いたことがない。
「不思議なのはこれだけじゃないんです」
「えっ? まだあるんですか?」
「ジンタくんがタイムカプセルに腕を入れていたって証言がある反面、タイムカプセルを埋めた後もジンタくんの両腕は揃っていたという人も多かったんです」
「それは……腕がなくなったから新しいのを買ったとかでは?」
私が尋ねると、木井さんは首を横へ振った。
「タイムカプセルを埋めてから卒業式まで、一週間くらいは普通に授業があったらしいんですね。それで、その方や同級生は理科室に入ってジンタくんを見てるんです。
いくらなんでもそんな短期間で新しい腕に交換はできないでしょう?」
それに、と付け加えながら木井さんはジンタくんの腕の断面を私たちに見せる。
つるんとしていて、初めからその状態だったようだ。
「見ての通り、はめ込めるような突起がないんです」
「やっほー! れーたくん」
空気を読まずに飛び込んできたのは、慧くんだった。
慧くんはジンタくんがいる第五中学校の現役生徒!
なんていいタイミングで来てくれたんだろう。
「あ! ジンタくんの手だ。おじさん、なんでそれ持ってるの?」
慧くんは、木井さんが持っている腕を見ただけで持ち主をピタリと言い当ててしまった。
「えっ、どうしてわかるっスか!?」
「ん? ジンタくんの腕、よく理科準備室に落ちてるよ。僕も掃除の時に何回か拾ってるし」
慣れた様子で慧くんは語る。
「外れた腕って慧くんとか見つけた生徒さんが元に戻すの?」
結城ちゃんの問いかけに、慧くんは首を横へ振った。
「ゴミ置き場に持ってくけど……おじさん、そこから持ってきたの?」
「いいや、これはうちのお客さんが持ってきてくれたんですよ」
「そうそう。そのお客さんってのが第五中学校の卒業生さんらしくって」
「へー。昔っからジンタくんの腕って生え変わってたんだね」
「ちょっとそれ、詳しく教えてくれない!?」
「詳しくって言われてもなぁ」
慧くんは困ったように口ごもる。
「どんな些細なことでもいいから、ね?」
「うーん……」
「どんな時に生え変わるのかとか、腕がなくなったジンタくんはどうなるのかとか」
「生え変わるのは……二ヶ月に一回くらい? 腕はなくなってもすぐ次のが生えるみたいだから、腕がないところは見たことないかな」
ってことはジンタくんの近くに落ちている、人工物の腕だからジンタくんの腕だということになってるって話だよね。
実際に腕が取れる場面を見ているのはタイムカプセルを埋める現場にいた数人だけかな?
意見を求めようと宮松くんに視線を向ける。
「何もないところから物質を生み出すっていうのは現実的じゃない。捨てた人形が帰ってくるように、何かしらの原因で捨てた腕が戻ってきているのかもしれない」
そう言いながら、宮松くんはジンタくんの腕を手に取る。
宮松くんが触れると、ジンタくんの腕は薬品をかけられたようにジューっと音を立て、煙を上げながら崩れ落ちた。
部屋の中になんとも言えない異臭が充満する。
「し、ししょー!?」
慧くんが驚きの声を上げる。
宮松くん、いつの間にか妖怪ハンターから師匠に昇格してたんだ……。
「どうやら、こっちの腕は
そう言いながら差し出された宮松くんの手の中には、少し黄色みのかかった骨が握られていた。