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七話  俺はルリエに服をプレゼントする

「なにか気に入るものはあったか?」


 俺は、まわりからの視線に耐えながら、ルリエと子供服売り場で服を見ていた。


 親子連れからは、どういう関係なのかしら? 的な目線を送られている。


 勘違いしないでくれ。決して、俺が着せたいとかそういうのじゃない。


「う〜ん」


「ちなみに俺に聞かれてもわからないからな」


「えぇ!?」


 この反応は最初から俺に聞くつもりだったんだろう。


「ルリエ、もしかして気に入ったものがないのか?」


「そういうわけじゃないの。でも、私には少し子供ぽっいというか……」


 そうか。やはり、ルリエもお年頃ってやつか。高校生に小学生(高学年)が着るような売り場に連れてきたのはまずかったか。


「じゃあ、どういうのがいいんだ?」


 このままだと埒が明かないと思った俺は、ルリエに聞いてみることにした。男の俺が協力出来ることなんて少ないだろうけど。


「フリフリのやつ。ピンク色の……お姫様が着てそうなやつ。それか黒くて長いの……」


「ドレスってことか?」


「ううん、違う」


 フルフルと首を横に振るルリエ。的が外れた。いくらなんでもドレスは違うか。


「もしかして……ああいう感じのやつか?」


 俺はルリエの数少ない単語から予想して、ある一つの答えにたどり着く。ドレスじゃないとすると選択肢はある程度絞られる。


 俺はゴスロリやロリータ系が売ってある店を指さしてみた。


「うん、そう。でも、どうしてわかったの?」


「何となくだ。じゃあ、そっちに行ってみるか」


 ルリエを連れてロリータ服専門店に入る。


 正解なのは良かったんだが、恐らく、この手の服はどれも高いと相場が決まっている。


 生地が分厚いし、なにより戦闘力が高そうだ。戦闘力=値段が高いって意味でな。


 俺の財布、大丈夫だろうか……。


だが、しかし、銀髪に赤目のルリエにはさぞ似合うことだろう。それこそ、外国の人形のように。……正直見てみたい気持ちはある。


「お客様は外国の方かしら?」


「がい、こく?」


 店内で目立っているのか、さっそく店員に声をかけられるルリエ。聞き慣れない言葉に戸惑っているルリエ。


 人間界のことを知っているとは言っていたが、勉強中って言ってたし、知らない言葉があっても不思議じゃない。


 最近では曖昧な言葉や俺でも意味のわからない単語が飛び交う時代になったからな。


「そうです。彼女は外国人で……」


 咄嗟にフォローに入る俺。日本人でこの髪色は無理がありすぎる。


「あらあら、そうなんですね」


「あの、良ければ彼女に似合う服を選んでもらえないでしょうか?」


 ガチガチに緊張する俺。

 ちゃんと敬語を使えてるだろうか。


「もちろん良いですよ。お客様、こちらのほうに」


「龍幻、私……」


「着替えてこい。ここで待ってるから」


 ルリエはジッと俺を見る。どうしていいか、迷っているんだ。なにせ俺以外の人間とこうやって会話をしているのだから。


 ルリエにとっては何もかも初めての経験で右も左も分からないよな。


「うん、わかった」


 手が離れる寸前、ルリエは寂しそうな顔をしていた。


 試着室の中まで同行してほしいという視線が痛いほど伝わってくる。が、それはルリエのお願いでも無理な話だ。俺、男だし。


 大体、今でも店の中でなんで男が? みたいな感じで女子高生なんかに見られているだけで辛いのに。メンタル弱すぎだろ俺。


 ここは堂々としていよう。別に一人で来たわけでもないし、悪いことをしているわけでもない。


 ルリエのことが心配すぎる気持ちが先走り、試着室を凝視していた俺。これだと変態と思われても何も言えない。


「お客様、お着替え終わりました」


「りゅ、龍幻。ど、どうかな?」


「……」


 ルリエが着ていたのはゴスロリ服。それは、ワンピースで膝下まである。

 足はほとんど隠れているものの、むしろ長いことで、より可愛さが引き立って見える。


 肩からは、うさぎのぬいぐるみのようなショルダーバッグをかけている。


 その小ささ、一体何が入るっていうんだ? まぁ、可愛いから問題はないけど。


 胸があるなら、谷間がもろに目立つ代物もルリエだと胸に視線はいかない。


 だが、それがいい。こういうのは胸がないほうが似合う気がする。俺の偏見が入っているから、一概にそうとは断定は出来ないが。


「もしかして似合ってない?」


「あ、いや、その」


 あまりの可愛さに言葉を失っていた。想像してたよりもずっと似合っていたから。ルリエがすごく不安そうな顔を浮かべている。


「すごく……可愛い。似合ってるぞルリエ」


「ほんと? じゃあ、これ買ってもいい?」


「ああ、いいぞ。すみません、コレください」


「はい! お買い上げありがとうございます」


 ルリエの最上級の可愛さとオネダリに負けて、俺は値段も見ずに購入してしまった。


 悪女に高いブランド物を強請られて買ってしまう彼氏の気持ちが今ならわかる。

 同性の友達からは嫌われていても、可愛ければいいんだ。


 そう、男は中身よりもまず見た目なんだ。だけどルリエは悪女じゃないし、性格も少しは知っている。だから、ついつい財布の紐が緩んでしまう。


 これがもし演技だとしたら計算尽くされている。ルリエに限って、それはありえない。

 が、今度からは値札をちゃんと見てから買い物をしよう。今後のためにも。


「龍幻、さっきはありがとう。次は下着を買ってほしいんだけど、さすがにお金ないよね?」


 金の心配をサキュバスにされるとは。ルリエがこうなるのも無理はない。

 さすがに一着だと少ないから、俺は同じような服をあと何着か購入した。


 普通の服でも良かったんだが、俺としてはルリエが気に入るものをプレゼントしたかったんだ。最初にお姫様みたいな服が着たいと要望も聞いたなら尚更。


「大丈夫だ。それに、これから人間界にいるなら必要だろ」


「ごめんね、ありがとう」


 本音を漏らしていいと言われたのなら、俺の財布はピンチである。と答えるだろう。


 たしかに今はギリギリ大丈夫だが、今回の買い物が後々響いてくるのは間違いない。来月は少し切り詰める必要がある。


 だが、しかし、男にはプライドというものが存在する。童貞でもそれは持っている。


 いや、むしろ女の影がないのであれば、誇りは童貞にとって一番捨ててはならないモノかもしれない。


女の前ではカッコつけたくなるのが男ってもんだ。それは相手が彼女じゃなくてもそうだ。


 女と一緒に食事をしたのなら男が金を払う。

 こっち側が女の時間を貰っているのだから俺としては出すのが男の礼儀なんじゃないかと思う。


 だからといって財布も出さず、男が奢るのが当然って女は正直苦手である。


 長々と語っていても、俺がこうして女に何かをプレゼントしたのは初めての経験なんですけど何か。


 それに、男が金を出して当たり前! のような顔をしないルリエを怒ることはできない。むしろ罪悪感を感じている表情でこっちを見てくる。


 例えるなら粗相をした子猫が親猫に怒られてシュンとしている、そんな感じ。


「龍幻優しいから好き。私のお姉ちゃんと一緒」


 ギュッと俺の腕にくっ付くルリエ。胸が当たってるが、本人は気付いていない。が、ここは気づかないフリをするのが賢い男だ。


 当たっている、といってもほんの少しだけどな。意識しないと胸が触れていることすらわからないレベル。


 それをルリエに言うと、不機嫌になるので黙っておくことにする。でも、これは俺にとっても悪い体験ではないし、むしろ嬉しい。


「ルリエ、好きとか俺以外の男に言うなよ? 勘違いされるぞ。下手したら、そのまま……なんてこともあるかもしれない」


「そのまま、なに?」


「いや、なんでもない」


 俺はルリエに何を教えようとしてたんだか。ルリエがわからないなら、そんなことは知らなくていい。純粋なままでいてほしい。


 ふと、ルリエの姉もそんな気持ちなのか? と思った。まだ会ったことはないが、こんな可愛い妹がいたら甘やかして育てるのもわかる気がする。


「それは大丈夫。私、龍幻にしか好きって言わないもん。あ、お父さんとかは別だけど、他の男の人には言わないよ。嘘じゃないよ?」


「バッ……!」


「馬鹿じゃないもん」


 ルリエ、その好きはどういう好きなのか本当にわかっていってるのか?


 多分、彼女は知らないだろう。好きには種類があるということを。


「着いたよ。って、龍幻?」


「……」


 しまった。目の前にはドォォンと下着が……大量に見える。さっきの店なんか霞むほど、こっちの店はハードルが高い。


「俺、やっぱ帰る!」


「私は……龍幻に選んでほしい」


「うっ」


 逃げようとするも、グッと力を込められる手。振りほどこうと思えば簡単にできる。けど、そんなことは出来ない。


 計算尽くされた女のほうがまだ良かったのかもしれない。あざとすぎる性格、天然な子ほど厄介なものはない。


 ……やっぱり、ルリエもサキュバスだ。

 と、サキュバスの恐ろしさを再確認する俺。


 そして、今から超がつくほどの高難度クエスト。いわばラスボス級に俺は挑もうとしていた(という名の女性用下着ショップ)。

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