「……幻、龍幻!」
「え? そんなに大声出してどうしたんだ、ルリエ」
「さっきから呼んでるのに……。買い物終わったし、アイス買ってくれるよね?」
「はっ……いつの間に」
今さっき、導らしい人物を見て焦っていた。
導に見つからないか、ずっとヒヤヒヤしていたせいで、いつ買い物が終わったのか記憶にない。
「龍幻、これサイズちょうどいい。どう? 似合ってるかな?」
「あ、あぁ……」
「もう龍幻、ちゃんと見て!」
「っ!?」
俺が上の空でルリエの話を聞いていなかったせいか、強引に腕を引っ張られ、ルリエの胸のところにグイッ! と、顔を持っていかれた。
ルリエの下着姿が思ったよりも似合っていて、俺には刺激が強すぎるくらいだった。
下着があるだけで、こんなにも女としての色気が出るものなのか。
ルリエの胸が俺の顔に当たってる。だが、谷間は当然のようにない。硬い部分に触れているせいか微妙に痛い。
召喚した際、胸を最初に触ったときと違ってルリエとの距離が近い。ほとんどゼロ距離だ。
……いい匂いがする。これが女の子特有の甘い香りってやつか? なんだか、頭がクラクラしてきた。
そこから、俺の意識はプツリと途絶えた。
もちろん、手は出していないし、理性も飛んでいないと……思う。
人気(ひとけ)が多い場所で本当に助かった。しかし、思考が停止するってマジであるんだな。
「龍幻、大丈夫? 疲れてるなら休んだほうがいいよ」
「なんでもないんだ、ルリエは気にしなくていい。それよりもアイスを買いに行こう」
ポンポンとルリエの頭を撫でる。これ以上、ルリエに心配をかけるわけにはいかない。
だが、友人と鉢合わせする可能性がなくなったわけじゃない。でも、買い物が終わったらアイスを買ってやるって約束もしたしな……。
「わーい! 龍幻、こっち! あ、その……その前にお手洗い行ってきてもいい?」
モジモジと恥ずかしそうにするルリエ。
もしかして我慢してたのか? ルリエには悪いことをしたな……。
男の俺には言いにくいことだもんな。
「近くで待ってるぞ。終わったら来てくれ」
「うん、行ってくるね」
小走りでルリエはトイレに駆け込んだ。
俺はルリエを待ってる間、スマホをしながら待っていた。
「あれ? もしかして……龍幻!?」
その声を聞いて、俺はスマホをしていた指がピタリと止まる。
目の前にいたのは、紛れもない友人の導だった。
「……ひ、人違いです」
俺はあからさまな嘘をつき、目を逸らした。
多少なりとも、見つかる覚悟はしていたんだ。けど、まさか、こうも簡単に見つかるなんて。
俺がわかるくらいだもんな。遅かれ早かれ、導にバレるのも仕方ないといえば仕方ない。
幸い、ルリエは今、トイレにいる。だから、もしかしたら上手い言い訳をして、この場から自然に立ち去ることも出来るかもしれない。
考えるんだ、俺。最善の方法を。俺が一人でデパートに来てもおかしくない理由を。
「またまた~。それで、龍幻は何を買いに来てたんだ? しかし、休日は引きこもりのお前が珍しいよな~」
「本屋にちょっと、な。ほら、ここの本屋デカいだろ? この前、深夜アニメの話してただろ。だから神崎紅先生が書いた原作本をな」
「マジで!? やっぱり龍幻は話がわかる奴だ! 俺はこんな親友を持って幸せ者だぞ!」
ガッ! と両肩を掴まれた。導の表情がすごく嬉しそうだ。この作戦、上手くいったな。
そうだよな、誰だって自分の好きな話題を出されればテンションも上がるよな。
しかも、以前に聞いていたから、俺の言い分に矛盾な点や変なところはない。
故にツッコまれる心配もないってわけだ。あとは適当に会話して、この場から立ち去ろう。
「先輩。その方が言ってるのは恐らく嘘ですよ」
「へ?」
「は?」
導もポカンとしている。が、俺はそれ以上に驚いていた。
今の会話に違和感を感じるところがあったか? 肝心なとこで俺はミスをした? と頭をフル回転させて考えていた。
この子は……導の隣にいた女子だ。
お尻まである長い金髪に、宝石のようにキラキラと輝く青い瞳。
ルリエと同じで、外国人のような見た目。
身長は150センチくらいか?
遠くからだとわからなかったが、かなりの美人だ。が、胸はさほど大きくない。
ルリエより大きいのは確かだが……って、俺はどこを見ているんだ。
そもそも、この子の服装が肩出しで、胸元が開いてるやつだから、嫌でもそっちに目線がいってしまう。
それに下着が見えそうなくらいのミニスカートで、足元にはガーターベルトを履いてるし。 スラッと伸びた足と相まって色気が出ている。
この時期に寒くないのか? と思ったが、右手にはコートらしきものを持っている。
さすがに外でその格好で歩かないよな。
アニメでは見たことあるが、現実でガーターベルトを履いてる女子を俺は今まで見たことがない。
そのアイテムは、人を選びそうなものだが、確実に似合ってる。色白の肌もそうだが、ルリエにはないエロさが身体から出ている気がする。
この場合、フェロモンというべきだろうか。なんだろう、目を合わせているだけでも変な気分になりそうだ。
「初めまして、紹介が遅れました。私、
「俺は白銀龍幻っていいます。って、同じサークルって、まさか……」
変わった名前だなと思いつつも挨拶を交わす。俺も人のこと言える立場ではないしな。
身長が低かったから、勝手に高校生くらいかと思っていたが俺と同じ大学生なのか。
「そう、俺と同じアニメ研究部!
見た目はめっちゃ美少女なのに、ミーハーなアニメからマイナーのアニメまで知ってるんだ。話してる内に意気投合して、今日も五階にあるメイトに寄ってきた帰り!」
「へ、へぇ。アニメ好きなのか……」
俺はチラリと暁月を見た。
こんな見た目でオタクとは、さぞサークル内ではモテるだろうな。大方、あだ名はオタサーの姫だったりして。
学年が違うとはいえ、俺は今まで暁月の存在を知らなかった。これだけ美人なら大学内でも有名になってそうなのにな。
それこそ、新入生に美人がいたぞ! とウワサがあったりとか。さすがに大学生ともなれば大人だし、そういうのはないのだろうか。
「私、導先輩から白銀さんのこと聞いてたんです。イケメンで優しい友人がいるって。それって白銀さんのことだったんですね」
「は? 誰がイケメンだって?」
それは、どこの白銀さんのことだろうか。
「貴方のことです。確かにすっごくイケメンで、正直驚いちゃいました。こんなにカッコイイ人が世の中にいるんだなって」
頬に手を当てて恥ずかしそうにしている暁月。それ、本気で言ってるのか? と思わず聞き返しそうになった。
導は、男の俺からしてもイケメンだと思うし、他の男子も「生まれ変わったらお前の顔になりたい!」と言われているほど顔が整っている。
だが、しかし、俺は導とは違ってブサイク……ではないが平均くらいだ。自分で醜いと言うとへこむし、やめておこう。
「
「はい、私もそう思います」
お世辞、社交辞令にしてもこれはあんまりだ。
俺は騙されているのだろうか。それとも、この二人の見る目がないのか。どっちなんだ?
俺は、ルリエのことを聞かれないか不安になっていたが、互いの自己紹介やら俺の顔の話で忘れていると思い、安堵の声を漏らしかけたその時、
「本屋に行ったのに、どうして、女の子専用の下着の袋を持っているのかな? 不思議ですね。隠すなら上手く隠さないと……ねっ、龍幻センパイ」
「っ……」
耳元で俺だけに囁かれる言葉。その瞬間、ゾクッと鳥肌がたった。
それは恐怖も感じると同時に、この子に嘘は通じない。そう思った瞬間だった。
まるで、俺の全てを見透かされている気分だ。
一体、暁月という後輩は何者なんだ?
「導先輩、次は予約していたコラボカフェに行きましょう」
「それもそうか。そろそろ時間だし、また大学でな! 龍幻」
「……あぁ、またな」
ほんの少ししか話していないのに、恐らく彼女は最初から気付いていたんだ。俺が一人ではなく、女の子と一緒に行動していたことを。そんな気すらしてきた。
それにしても、凄い洞察力だ。
導は、俺が袋を手に持っていることについて触れなかった。普段のアイツなら、気付いたらすぐに俺に聞く。
だから本当に気づかなかったんだ。けれど、彼女……暁月は違った。
あの場にルリエがいなくて本当に良かった。俺はサークルにも入ってないし、暁月と関わる機会なんて早々訪れない。
でも、用心に越したことはないしな、気をつけておかないと。
ルリエの正体も存在についてもバレてはいない。でも、今回はたまたま運が良かっただけかもしれない。
「龍幻、遅くなってごめんね。人が結構並んでて……」
「大丈夫だ、そんなに待ってないから。買い物も終わったしアイス買ったら家に帰るか」
「うん! そうする」
ルリエは俺と手を繋ぐ。どうやら、これが安心するようだ。ルリエといると俺も落ち着く。
たしかに暁月も美人だったけど、別れ際はなんだか怖かったし。
俺には、少し小さいくらいの女の子でちょうど良いのかもしれないな……と笑みをこぼした。
ルリエと一緒だと俺がまわりから変な目で見られるんだって!
一瞬、俺も流されそうになったが、このままでは駄目だ。
俺、自分でも気付かない間に俺はロリコンになっているんじゃ……。
「ルリエ、早く大きくなってくれ」
「え? う、うん?」
唐突にそんなことを言われて、よくわからないと言った顔で返事を返すルリエ。
俺は断じてロリコンじゃない! と、心の中で叫びつつ、俺はルリエと家に帰るのだった。
☆ ☆ ☆
「おやすみ、ルリエ」
「うん! おやすみ、お兄ちゃん」
食事と風呂を済ませ、寝る時間になり別々に就寝する俺とルリエ。
(そろそろ新しいベッドでも新調するか)
シングルベッドだと俺が寝れない。
ルリエにベッドを貸すのはいいが、新しいものを買わないと、俺がいつまでも床で寝る羽目になる。
さすがに身体のあちこちが悲鳴を上げてるし。
今のところベッド買う余裕がないから、安布団でも買うかな……。一人用なら、そんなに金もかからないだろうし。
俺は夢現にそんなことを考えながら、夢の中へと落ちていく。
だんだんと重い瞼が開かなくなってきた。
今日はいつも以上に歩いたし、疲れたな。
「……パイ」
(なんだ、声が……聞こえる)
「起きてください」
(女の声だ。ルリエか? いや、違う)
「お前は……暁月!?」
「あ、やっと起きたんですね。おはようございます」
「日付が変わったから……昨日ぶりですね。龍幻セ・ン・パ・イ♪」
そこにいたのは昼に会った後輩の、
舌舐めづりをしている暁月。月明かりに照れされている青い瞳は昼に見た時よりも輝いて見えた。
暁月は美味しそうな獲物を見つけた……といった表情で、俺のことをジッと見つめていた。
これ、なんていうエロゲーですか?
俺は、今の自分が置かれてる状況に理解が追いつかず、現実逃避をしていた。