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第18話 あの時の声

次の日、壊れてたスマホが直ったらしく、詩織さんが取りにいってくれた。

本当は俺も同行したかったんだけど、反対されてしまったので家でまたテレビを見るくらいしかやることがなくなった。

やることがなさ過ぎて、ぼけっとして時間を潰すのに慣れてきてしまったな、これもあの箱庭での生活の賜物だろう。

ちなみに、スマホが壊れていると発覚したのは、俺が病院でスマホを求めたかららしい。それまでは神埼少年の部屋で放置されていたけど、充電しても電源が入らなかったらしく、慌てて修理に出したのだとか。


「ただいまー」


「おかえりなさい」


俺は帰ってきた詩織さんを迎える。

その手には白い紙袋とケーキを入れるような紙の箱があった。


「俺が持ちますよ」


「いいのいいの、守は座ってて」


どうにもみんな俺に過保護すぎる。

俺が何かしようとしても、止められることが割とある。

食事を終えた食器を流しに運ぼうとした時も、今日の外出もそうだ。

それ以外にも、飲み物を用意してくれたり、風呂に入る前に着替えを用意してくれたりと、細かいものをあげたらきりがない。

今回もそうだ、言われた通りリビングで待ってると、詩織さんがケーキと紅茶を用意してくれて、スマホも丁寧に箱から取り出してから俺に手渡してくれた。

そこまでしなくてもいいのに……。


「スマホは直ったんだけど、中のデータは何も残っていなかったらしいの」


「いいですよ、どうせあってもそれが誰かなんて分かりませんから」


携帯は俺の親指の指紋でロックが解除できるようだ。

中を開くと見慣れないアプリばかりだ、そこで本のようなマークを押すと電話帳が開いた。

当然だけど、誰の電話番号も登録がない。


「そうだ。私とヒナタちゃんの電話番号を入れておくわね」


「お願いします」


手を差し出されたので、俺はスマホを渡すと慣れた手つきでササっと電話帳に番号と名前を入れてくれた。

橘さんと朝倉さんの番号も後で入れておくか。

これで4人分の電話番号が中に入るわけか……。


せっかく若返ってやり直せるんだ。それならこの電話帳をどこまで埋められるか挑戦するのも面白いかもしれないな。


「そうだ、詩織さん」


「どうしたの?」


「俺、早く学校に行きたいんで、復学の手続きをお願いできますか?」


「そうね。スマホも戻ってきたし、連絡が取れるなら大丈夫かしらね」


そんなこんなで、俺は復学することが決まった。

ヒナタが学校から帰ってきた時にそれを伝えたら、ちょっと拗ねたようになってしまい、昨日以上に撫でることを要求された。

どういうことなの?


ただ、学校の通学方法については少し揉めた。

問題になったのが、俺がまったく土地勘がないことだった。

俺はスマホの地図を片手に歩いて学校まで行くつもりだったけど、それは断固反対されたので詩織さんが送り迎えしてくれることになった。


「お兄ちゃんみたいに道に困った男の人を助けるフリをして、どこか暗いところに連れ込んで襲ってくる人も居るんだからね!?」


「駄目、私がちゃんと送り迎えするから」


俺はそんな子供でもないんだけどな……。

やっぱり頼りないと思われる見た目が問題なのかと思って、夜は自分の部屋でトレーニングをすることにした。

道具がないので自重トレーニングしかできないけど、この体はあまり鍛えてないようだし、丁度いいかもしれない。

ジャンピングスクワット、腕立て伏せ、腹筋と続けていると、扉がノックされた。


「お兄ちゃん? さっきからなにしてるの?」


ヒナタだったので、俺は扉を開けた。


「あぁ、夜にごめんね。トレーニングしてたんだ」


神埼少年の部屋の隣はヒナタの部屋だから、色々と音が聞こえてしまったのかもしれないな。


「………そうなんだ、まだするの?」


「あとプランクをやって終わろうかなって思ってるところ」


「あのね。それ、見ててもいいかな?」


「そんな面白いものじゃないぞ」


「いいよ、見てみたいの」


そこまで言うなら良いかと思って、俺はヒナタを部屋に入れた。

なんかキョロキョロとしてるけど、家族だし問題もないだろう。

俺は気にせずプランクを始めたけど、15秒もすると腹筋が悲鳴を上げ出した。


「……くっ……はぁ………うっ……」


思ったよりもキツイな。神埼少年は全然体を鍛えてなかったのが分かる。

余計な脂肪が少ない軽い体なのに、それを支えるのがこんなに辛いなんて、これじゃ心配されるわけだよな。

めちゃくちゃ辛いけどそれをぐっと我慢して、こういうのは限界だと思ってもまだ続けることが大事なんだ。

1分ほど続けただろうか、限界を通り越して体が痛くなってきたので、俺は力を抜いて倒れこんだ。


「くぅ………はぁ……はぁ……はぁ……」


情けない。

この程度でを上げるなんてまだまだだ。


「………ねぇ、お兄ちゃん」


「はぁ……はぁ……どうした?」


「また……トレーニングをするなら、最初から呼んで。ほら、私も鍛えてるって言ったでしょ? たぶん……色々と手伝えると思うから」


「ふぅ……それは助かるかも、ありがとうヒナタ」


俺は額の汗をシャツのすそをつかって拭う。


「ッ!? それじゃ、おやすみ!!」


ヒナタは俺の返事も待たずに慌てたように部屋から出て行った……。

本当に今日のヒナタは昨日とはなんか違う感じだな。


まぁいいか、とりあえずシャワーで汗を流して俺も寝るとするか。

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