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蝶舞山揺 陸 その2

 さっきよりボリュームが大きかったので、誰かに聞かれてないかってのもちょっと気になって首を振る。


 ついでに再度確認。


 睨む女生徒はまだ、後の扉にいる。

 鞄を奪うように引っかかえると、急いで教室の前の扉へ向かった。

 開けっ放しの扉にあと一歩というところで、まゆらは動けなくなった。


 山下綾那あやな


 後ろの扉で睨んでいたハズの女生徒が、そこに立っていたから。

 見た目、多分こういう子を男子生徒は圧倒的に可愛いと思うのだろう。


 真面目そうな黒髪と、ハッキリとした二重。

 大きな、潤んだ瞳。

 制服も乱れてないし、姿勢も良い。

 フリー素材で“女子高生”と検索掛けると、彼女が出て来るんじゃないかと思う。


 何を言うでもなく、邪魔するでもなく、ただ、まゆらを睨む。

 扉の前に、少しだけ離れて。

 少しだけ、通れる隙間を空けて。


 通せんぼはしていない。

 通りたかったら、通れば?

 と、、、。


 その代わりちょっとでも触れたら、容赦しない。

 言い掛かりは付けないが、キッカケがあればスグに何か言ってやる!

 そんな空気を、ガンガンにかもし出している。


 まゆらの視線は、その山下の後ろに居る仲間らしき女子生徒二人と男子生徒が三人、こちらを同じく睨んでいるのを確認していた。


 ――なんでよ、何でよ!


 理不尽な山下たちの行動に、爆発しそうになる。


 ビクン!


 また、左掌が震えた。

 我に返った。

 それでちょっと、冷静になれた。

 横を、身体が触れないようにすり抜けるまゆら。


 「あんたが入院すれば良かってん」


 右の後頭部に、山下彩那の言葉が張り付いた。

 瞬間的に、左拳を握る。

 掌が“らんこと”を言うのを防ぐために。

 それでも、足を止めてしまったのはまずかった。


 「聞いたで」


 首をちょっと前に出し、その一言を吐いたのは仲間らしき、、、ってか仲間の女生徒の片割れ。

 まゆらが足を止めたので、とばかりに二人の間に入ってきたのだ。





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