百舌鳥ヶ丘高等学校。
授業終了のチャイムが鳴る。
と同時に生徒たちの弾けるような話し声と、椅子が床を引きずる音が教室のあちこちで始まる。
先生が何か言ってるが、ほぼ聞こえない。
聞いてるのは教卓の前の席に座る、真面目そうな二人だけ。
チャイムは解放の合図。
みんな勝手に席を離れたり、廊下に出たり、無心でスマホをいじり始める者や、帰る準備を黙々と始める生徒。
急いでクラブに向かう者や、けだるそうな連中が集まってカラオケに行くかどうかの相談が始まったりしていた。
ただひとり、、、。
ざわつく教室の中でただひとり、窓側の列の真ん中あたりで教室の後ろの扉を凝視する女子生徒が居た。
ぼさぼさの前髪は鼻先まで伸ばし、おまけにマスクでほぼ顔が見えない。
安倍まゆら。
彼女は明らかに扉の方を見つめ、動けないでいる。
ナゼ?
そこに、自分を
眼を
下を向いて、急激にイライラし始めた。
――予定あんのに!
右手の親指を口元に持って行く。
短くなっているギザギザの爪を、更に前歯で噛み始めた。
左掌が、ビクンと一度震える。
その左掌で、耳を覆う。
「何してはんの、あんなん気にせんで
誰の姿も無いが、声がした。
流れるような
「いい、、、」
小声で答えた。
周囲の人には、聞こえないくらい。
「さよでっかさよでっか。ほしたらサッサと行きましょ行きましょ。今日は大切な予定があるんでっしゃろ?」
「うん」
そう言いつつ席を立ちながら鞄を持つときに、チラッとまた教室の後の扉を見てしまう。
「見んでよろし!」
左掌から聞こえる声に怒られた。