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港町

 普段は穏やかなこの町も、今や避難者でごった返している。

 炭鉱町の住民の半数ほどが押し寄せた。


 古くから漁業で栄え、時代と共に貿易港の側面も強くなり、観光地にもなっている、大きな町なのだが、さすがに数百人単位の、難民の対応など、簡単にできる訳がない。


 町の守備兵や、公務に関わる職員を総動員で朝からお祭り騒ぎであった。


 岩の怪物に、家が、町が、壊された

 子供が、親が、殺された

 まだ、残っている家族が、仲間がいる

 助けてくれ

 どうしたらいいんだ


 不安の声に溢れていたが、港町の対応は迅速だ。


「観光宿などは限りがあります。

 不便でしょうが、しばらくは皆さま、ご一緒に倉庫での生活をお願いします。

 最低限の衣食住ですが、みんなで改善して、立て直しましょう!

 ああ、魚用ではないので、臭いは大丈夫です」


 さすがに選挙で選ばれた町長。

 混乱はあるが、前向きに人を動かしている。


 しかし、脅威は去った訳ではない。

 炭鉱に冒険者を派遣していたギルドは情報をまとめながらも、迅速に動いていた。

 この町の兵団は、国から派兵された者もいるが、自治を認められている。

 兵団の幹部は、冒険者ギルドの動きを認め、後付けで依頼と報酬を約束した。

 見事に連携した、素早い対応だ。


「しかし、マスターよ。マジでストーンバックだったら、俺たちだけじゃ無理だぜ」


 ギルドの大部屋には、実績のある者たちが集められ、緊迫した空気が漂っていた。

 その中でも、派手な緑のトサカのついた兜を被った男はなおも続ける。


「ドワーフか、エルフに応援は頼めないのか?」


「既に調査隊は派遣している。動向は見ている。ドワーフには助けを求めてみるが、エルフは無理だな。諸君らには、偵察と、可能ならば足止めを頼みたいが…」


 ストーンバックは特級の討伐対象と知る者が多い。自然災害を相手に戦うのは、命知らずか、本物の英雄くらいだ。


「とにかく、ストーンバックの動向を観察してほしい。行き先の予測はこちらで立てる。それに沿った罠の設置や、誘導を考えている。くれぐれも、無茶をしないで、自身の命を大事に行動して欲しい」


 ギルドからの要請にドワーフたちが答えてくれるか。ストーンバックが、気まぐれで、この街に来たら、何もかも終わりだ。ドワーフが話しに乗るようならば、少々の無理も聞くつもりだ。


 早期に偵察を頼んだ二人は帰ってこなかった。

 嫌な予感がする。

 しかし、ギルドには、ドワーフの三人組が顔を出した。このギルドに冒険者登録している者たちだ。


「国に連絡した。報酬次第で手を貸してくれるはずだ」

「すぐに来る」

「報酬をしっかりと準備しておけよ!」

「がはははは、俺たちの仲介料もだ!」


 ドワーフはみな、がめつい。

 しかし、全て滅んでしまっては元も子もない。

 協力して事に当たるのだ。

 我々の町を、仲間を守るのだ。



 力のある冒険者たちには、偵察を依頼した。

 戦闘は全面的に避け、情報を持ち帰る事を最優先に、生きて戻れと念を押した。

 下位の冒険者は、町長の指揮下にいれ、難民の対応に手を貸すように指示を出した。


 そうこうしている間に、ドワーフが来た

 その数四人。

 非常に早い到着に、交渉だけかと思ったが、違うようだ。

 皆武装していた。


「めんどくせえ挨拶とかは無しだ

 ストーンバックを封じればいいんだな?」


 一番ヒゲの長いドワーフが、鉄兜を机にドンと置きながら進み出て大声で言う。


 え、ええ。可能ですか?


 私の問いに自らの胸当てを叩いて答える。


「任せとけ。じゃあ報酬の話しだ。あの鉱脈の半分でどうだ?国の転送陣もタダじゃなかったんだ」


「鉱脈の半分…私一人で決めらる規模ではないので、相談しないと…」


「おう、早く決めてくれ。俺たちは情報を集めとく」


 ドワーフたちはワイワイ騒がしく、部屋から出て行った。

 港町と炭鉱町の代表を至急集めなければ…

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