怜のいるマンションに帰ってきた日向。
「おかえり、ひな……」と怜に迎えられる。
「ただいま、怜さん……」
シーン
ソファに座った日向。怜は台所にいる。2人の間にこれまでにはなかった沈黙が続く。
怜さんの前で翔くんの家に行くことを選んだ自分。まだ頭がぼんやりしている。僕は……何てことをしてしまったのだろう。まずは、怜さんに……謝らないと。
すると怜さんがローテーブルにマグカップを置いてくれた。温かそうなこの飲み物は……僕の好きな抹茶オレ?
『怜さん、美味しい! 今までの抹茶の中で一番美味しい♪』
クリスマスにこう言っていた僕のために……?
怜さんが隣に座ってくれた。
「ひな、疲れだろう? まずはこれを飲んでゆっくり休むんだ」
「……ありがとう」
カップを持つと丁度良い温かさが伝わってきた。口にするとあの時に飲んだ……今までの抹茶の中で一番美味しいと言っていたことが思い出される。身体がポカポカしてくる。抹茶の温かさともう一つ、怜さんのあの安心できる温かい感触だ……
目頭が熱くなってくる。さっきから僕の涙腺はどうなっているのだろうか? 気づいたらポロポロと涙が頬を伝っていた。自分でもこれはどう頑張っても止められない……
「怜さん……」
「ん?」
「怜さん……」
僕は泣いてばかりで言葉が出ない。そんな僕の頭を怜さんは撫でてくれた。怜さんの大きな手……やっぱり温かいよ……
「怜さん……ごめんなさい……うぅ」
やっとのことでごめんなさい、が言えた。
「ひな……俺も何も出来ずにすまなかった。お前のこれからのことを考えたら……俺では駄目なんじゃないかと思ってしまってな」
「そんなこと言わないでよ……そんなことないんだから。怜さんはいつもそうだよ……もうおじさんだからとか、僕の好きにしたらいいとか言うけどさ……」
「……」
僕は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら言った。
「怜さん自身の気持ちはどうなの……? 僕のこと……好きなんじゃないの……? 僕は寂しかったんだよ……構ってほしいように見えてしまうかもしれないけど……僕だって……怜さんは、僕の事どうでもよくなっちゃったんじゃないかって……不安だったんだよ……!」
涙を流して必死に話す日向。そんな日向を見て怜も話す。
「お互い不安になってたんだな。それなら言う。俺はひなの幸せを願っている。ひなが選んだ道ならそれで良いと思っている」
「怜さん……」
「……だが、俺自身は……ひなを誰にも渡したくない。あの翔にだって渡したくないに決まってる。お前のいない生活なんて俺は考えられない……!」
それを聞いた日向は怜の腕をつかんで唇にキスをした。
「今年の目標……僕からこうするんだったよね」
「ひな……」
「良かった……怜さん……僕のこと好きでいてくれて……本当に良かったよ……」
「当たり前じゃないか……ひなを不安にさせてしまってすまない」
怜が日向の背中に手を回し、そのまま自分に強く抱き寄せた。
「ひなが一晩いなかっただけで、こんなに心細くて寂しくなるなんてな……昨日からずっとこうしていたかった。これからもお前に側にいてほしい」
「怜さん……! 怜さんはこんなに優しくて安心できるのに……翔くんが現れて、迷ってしまってごめんなさい。僕が好きなのは怜さんだから……一番好きなのは怜さんなんだから……怜さんも僕の側にいないとダメだからね?」
やっと本音で話せた2人。
そのままソファで抱き合いながら、寂しかった時間を埋めるように唇を重ねた。さっき飲んだ抹茶ラテよりも、もっと……甘い味がする。このままずっとこの甘い時間を過ごしていたい。
「ひな……好きだ」
「怜さん……好き」
夕方に怜がバーに行くまでの時間、2人はただ思うがままに愛し合った。怜に触れられるだけで日向は身体の芯から温もりを感じ、そして自分から怜に口付けをする。
今年の目標……「自分から怜にこうする」というのを、この日だけで何度も達成している日向であった。