「え、誰? あの男子。なんで会長とご一緒してるの?」
「し、知らないわよ。羨ましいわ」
「えぇ? 逆に緊張しねぇ……?」
「俺も真正面にマリア様いたら味わかんないと思うわ」
そして昼休み。
学校の食堂といえば騒がしいことが普通であることは知っているが、その喧騒の話題はもはや一色と言っていい。
アキとマリアは周囲の視線を一身に浴びながら食事を取っていた。
「……すごい注目されてますね」
「普段は生徒会室で済ませているからな。物珍しいのだろう」
物珍しいってレベルじゃない、と内心ツッコミつつ、マリアの食べている弁当に目をやる。
「会長のお弁当は手作りですか?」
彼女の喋り方と雰囲気からして、相当偉い家の令嬢か何かなのだろうと思い、聞いてみる。
異世界と違って貴族なんていない現代日本だけれど、お金持ちなら家政婦くらいは雇っているはずだ。
「ああ、自分で作っている。味見してみるか?」
「え」
アキは予想とは二重に違った返答に思わず固まる。
そのときには既にマリアは箸で唐揚げを摘まみ、こちらに寄越していた。
しかも――。
「あーん」
マリアは自身が使っていた箸で直接アキの口に放り込もうとする。
ここで断るのも失礼に当たる上、こんな美人にそうされる機会なんて滅多にない。
アキは今日何度目かの困惑を抱きつつ、口を開けた。
「あ、あーん」
すると、周囲の喧騒がより一層騒がしくなった。
きゃー! なんて悲鳴まで上がる始末で、アキは自分の顔が熱くなるのがわかる。
「……お、美味しいです」
とりあえず感想を言うと、マリアは満足げに微笑みを浮かべた。
「冷凍食品は偉大だな」
アキはガクッと肘を滑らせる。
そりゃそうか、と思いつつも、この振り回されている感じにはなぜか既視感を感じた。
「――会長。こちらにいらっしゃいましたか」
「む……」
そのとき、少し重みのある声がかかる。
見ると、ショートカットの黒髪を揺らした女子生徒がそばに立っていた。
かなり背が高い。マリアもアキより身長が高いが、それの上を行く長身だ。それに体格も良く、見るだけで身体能力の高さが伺えた。
そんな冒険者としての見方をしていたアキの向かい側で、マリアが笑う。
「ふふ、見つかってしまったな。アキ。生徒会書記の
「お名前は伺っています。松里さん。よろしくお願いします」
「は、初めまして」
リボンの色からして上級生だろうにこちらに敬語を使う尾上に、アキは首を竦めて挨拶した。
「お2人とも、ご一緒してもよろしいでしょうか」
「ああ」
許可を得てマリアの隣に座った尾上の食器には山盛りの定食が盛られていた。
それを物凄い速度で食べ始めるのを見ていると、マリアが話し始める。
「千恵希はスポーツ万能でな。生徒会に所属している故、どの部にも所属していないが稀に助っ人として駆り出されている」
「わたくしとしては会長から離れたくはないのですが」
「そう言うな。お前が恩を売っているおかげで部活動予算の折衝が円滑になっている。感謝しているさ」
「会長のご指示であれば従います」
忠犬――尾上を見て、アキはそんなイメージを抱いた。
現になんとなく食事をしている尾上からは嫉妬のような気配を感じる。
食べ辛い雰囲気がさらに増した食事を胃に放り込んでいると、マリアが気がついたように言った。
「アキ。お前は部活動に参加するかは決めているのか?」
「あ~……考え中です。運動部はちょっと難しいと思いますし」
「然りだな。本気を出せんとかえって鬱憤が溜まる」
どうやらマリアは自分が勇者であるか、もしくは近い事情があることを知っているらしい。
だが尾上は違うようで、目を丸くしてこちらを見る。
「本気を出せないとは?」
「あ、えっと――」
言い訳……実は病弱で、と言おうとしたが、マリアに手で制されてアキは黙った。
「千恵希。いずれわかる」
「畏まりました」
マリアへの実に見事な忠誠心を尾上は見せる。
この二人だけでもキャラの濃い生徒会は、いったいどんな感じなのだろうと思うアキだった。