13歳の少年は、それはそれは楽しみにしていた。
雲行きがあやしくなってきたのは年末。
感染力の強い未知の新型ウイルスが流行しだした。有効な治療法、特効薬がないまま世界中に蔓延しはじめ、警戒を強めていた日本でもついに感染者が確認される。
冬休みに入っていた晴人は、気が気ではなかった。年末年始のイベントは軒並み縮小、中止が発表され、世間的には自粛モードが漂っていた。
毎日のように「感染者が減っていきますように」と祈っていたが、年明けにはさらに感染者が増えた。全国的な広がりをみせはじめたころ、全国の小、中学校は冬休みの延長を発表。晴人が通うインターナショナルスクールでは、オンライン授業になることが決定された。
閉塞感がつのるなか、2月4日の午後、楽しみにしていたアニメイベントの中止が公式発表された。その日は、晴人の14歳の誕生日だった。
やっぱりか……
こうなるだろうと、薄々わかっていた。
わかっていたけれど──晴人は荒れた。大いに荒れた。
「どうして、どうして、どうして……こうなる。心の底から渇望しているのに! いつも、いつも、いつも、いつも……僕は、会ってはいけないのか。会って話せるアニメ友だちにっ! う゛う゛ぅぅぅっ……」
天井に向かって、ひとしきり慟哭したあと。
「そうか……僕は、ひとりなのか。いいさ、たとえひとりでも、己の道を突きすすむのみ。そうだ、それでいい。僕は孤高のヒーロになる。闇を纏いし者となり、孤独と共に生きる」
独立独行にして、独りよがり。家でのみ、偏屈な少年が誕生した。
「そうだ。はじめから、ダレかと分かち合う必要などなかった。己が欲するがままに、善も悪もなく、たとえこの世の
【真の仲間たち】への憧れを捨て去った少年は、
「よし、まず僕は、闇の炎をだすことに専念しよう」
以前より傾倒していた【闇系ダークヒーロー】になることを決意した。
インターネットを中心に調べはじめて、
「グリモワール……へえ」
ほどなく晴人は、魔術の教科書に行き着いた。
いきなりラテン語は厳しかったので、まずは英訳本を数冊取り寄せる。読みはじめて、すぐに夢中になった。
悪魔、精霊、天使。
呪文、魔法陣、シジル。
召喚、儀式、契約。
魔術の教科書には、これまでひととおり
そうして一年ほどが過ぎ、新型ウイルスの感染も収束に向かいはじめたころ。都心から六破羅市に引っ越すことを、晴人は両親に告げられた。
このとき、
「少し遠くなるけど、このままインターナショナルスクールに通ってもいいし、六破羅市にある私立白河高校に入学してもいい」
両親からは、選択肢が与えられた。
晴人は迷うことなく「白河高校」を選んだ。なぜなら、私立白河高校には、【アニメ研究会】があることを知っていたから。
偏屈な15歳の胸に、またムクリと浮かんできたもの、それは──
アニメ研究会なら、もしかしたら出会えるんじゃないだろうか。
僕が求めてやまない、真の……
捨てきれずにいた淡い想いが募った15の春。
晴人は私立白河高校の正門をくぐり、これまでと同じように、学校では『知性派アート男子』で通すことにした。そして今度は、誰からも話かけられやすいようにと、ミステリアスな部分は無くして、親しみやすい陽キャラをめざした。
そうすることで、ヴィジュアルS級の晴人は、女子にモテすぎるという避けきれない状況になり、男子からはやっかみブーイングを浴びせられたものの、おおむね良好な関係をクラスメイトたちと築けた。
あとは……アニメ研究会に入るだけで、僕の高校生活はバラ色だ。
そう思っていた矢先に、それは起きた。
5月。待ちに待っていた部活動紹介の日、晴人は知った。
今年度の部活動の見直し、統廃合によって【アニメ研究会】は、文芸部に吸収される形で、その姿を消していた。
茫然自失のなか。文芸部の部室をのぞきに行った晴人だが、ガラス窓からそっと様子を覗いて、そのまま立ち去った。
ちがう。イメージしていたのとは、やっぱりちがった。
その日、自宅に帰った晴人は、大荒れだった。
「なぜだぁぁぁっあああああ!」
仕事のため両親不在のリビングにて絶叫。その後、覚えたてのラテン語で呪いの言葉を吐き散らし、悪魔を呼んだ。
悪魔は召喚できなかったけれど、ダークサイドには両足を突っ込んで、肩まで浸かった。
こうして心も身体も闇色に染め上げた晴人は、さらに深く、詳しく魔術を探求するようになる。ラテン語も上達していった。
月日が経つのは早いもので、日々、中二病を重症化させながら高校二年生になり、現在に至る。
その晴人が、運命の出会いをしたのは、新約聖書『