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第8話

 情けなさを晒したくはなかったが、震える躰を両手で抱きしめながら、その場にしゃがみ込んだ。


「笹良の気持ちを考えずに、怖がらせて悪かった。答えが見つからないせいで、どうしていいかわからなくて焦っちゃって」

「必死になるのも分かるけど、その……。加賀谷が導き出したそれを俺がしたら、勃つモノが勃たなくなるのか?」


 たどたどしさを表す俺の問いかけに、突っ立ったままでいる加賀谷の表情がみるみるうちに曇った。


「加賀谷、おまえその顔」

「可能性の問題だ。実際にやってみないとわからない」

「やるって、何をするんだ?」

「それをするのに原因が知りたい。いつからシュートを外しはじめた?」


 心の奥底に封印している思い出――そのことを考えたら躰の震えは止まったが、代わりに違う感情がメンタルをじわじわと支配する。


「笹良、俺さ、おまえに教えられたことがあるんだ」


 なかなか口を割らない様子を見て、加賀谷が先に話しかけてきた。


「俺が教えたこと?」

「ああ。スタメン入りできない選手について、まったく考えてなかった」


 不意に背中を向けて歩き出し、ゴール下に転がったままのボールを取りに行く。


「バスケの上手いヤツがスタメン入りするのは当然のことで、それ以外は練習や努力の足りないダメなヤツっていう扱いをしてた。ソイツらが汗水たらして頑張っても、スタメン入りできない悔しさをもっているのを知らなかったんだ」


(うわぁ、加賀谷らしい上から目線発言。すべてにおいて恵まれてるせいで、補欠組のヤツをバカにしていたんだな)


「加賀谷がチームで浮いてる存在になってるのは、その考えが原因だろう」


 躰がだいぶ落ち着いてきたので、立ち上がりながら指摘してやる。するといきなり、バスケットボールが投げつけられた。


「わっ! ビックリした」


 加賀谷からパスされたボールはそれほど勢いがなかったので、難なくキャッチできたが、突然パスされるのは心臓に悪い。


「答えを導き出すために、笹良とバスケの話をしただろ。話をしているうちに、見えてなかったところが鮮明になったら、俺はバスケをプレイする資格がないと思ったりしてさ」

「それでズル休みして、練習に出てなかったのか。そうすることで補欠組からレギュラー入りできる、新たなメンバーが投入されるから」


(俺のことといい、やることなすこと、すべてが両極端すぎる)


「普段の練習だけじゃなく試合に出たお蔭で、ぐんと伸びるヤツがいるんだな。この間一緒にプレイして、すげぇ驚かされたんだ」


 自分のことのように喜ぶ顔に目がけて、持っていたボールを投げつけてやった。


「加賀谷ってば頭がいいくせに、不器用というか遠回りしてるっていうか。正直に表現するなら、バカだなよ」


 それなりに勢いをつけたボールを加賀谷はキャッチし、リズミカルにドリブルする。

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