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恋のマッチアップ番外編 膠着状態9

「それ以上なんか、そんなの――」


 言い淀んでいたら、加賀屋は着ていたTシャツを手早く脱ぎ捨て、床に放り投げた。


「加賀屋、なんで脱ぐんだ……」


 部活の着替えで裸は見慣れているはずなのに、加賀谷の上半身がやけに艶めかしく目に映る。そのせいで、顔がさらに熱くなるのがわかった。それを意識した途端に、躰の全部が熱くなる。


「だってこれから、汗をかくことするし。ここまで運んでくれたお礼に、笹良を脱がせてやるよ」


「ぬっ脱がせなくていいって! もう帰る!」


 帰ると言ったものの躰が固まっているせいで、思うように動かせない。瞬きするのと、口答えするだけで精いっぱいだった。


「ここまで来て、笹良を帰すわけないだろ。好きなんだぜ、おい」


「好きとか言われても困る! お、俺はまだそこまで、加賀屋のこと好きじゃない!」


「好きじゃない相手に、笹良は平気でキスするヤツなのか。それって酷くない? 俺は弄ばれた感じ? 笹良ってば酷い男だよな」


 クスクス笑いながら俺が着ているシャツに手をかけ、手際よくボタンを外していく。


「やっ、やめろよ。こんなのおかしい……」


 躰がこわばったままでいるため、加賀谷の手を止めることができなかった。開けたところから部屋の空気が伝わってきて、これからスルことを思い知らされる。


「大好きな笹良を抱きたい気持ちは、おかしなものじゃない」


 キッパリ言いきったセリフに、俺は二の句が継げられない。ベッドの上に追い詰められた状況は、バスケの試合でも感じたことのない、今までで一番危機的なものだった。


「加賀谷……俺怖い」


「怖い? どうして?」


 晒された素肌を、加賀谷のてのひらがやわやわと撫でていく。


「やっ、はあぁっ」


 触れられた衝撃で鼻にかかった変な声が出てしまい、両手で口元を慌てて押さえた。目を白黒させる俺を、加賀谷は瞳が見えなくなるような笑みを浮かべて見下ろす。


「怖がってるくせに、しっかり感じてるんじゃないか」


「それは加賀谷が触るからだろ。感じたくないのに……」


「笹良はこういうことするの、はじめてなんだよな?」


 浮かべていた笑みを消し去り、真面目な顔をして訊ねる。


「誰かさんみたいにモテないんでね。どうせバカにしてるんだろ」


「バカにしてないって。だって俺もはじめてだから」


「えっ?」


 信じられない加賀谷のセリフに、口元を押さえていた手の力が緩み、思いっきり呆けた顔を見せてしまった。


「男を相手にするのがはじめてってこと。だから俺のはじめてを、笹良にプレゼントすることができるんだ」


 小さく笑って隙だらけになってる俺の唇に、ちゅっとキスを落とす。


「うっ! プレゼントされても困る!!」


「上手にプレゼントしたいのに、どうしたもんかな。笹良は怖いっていうし、好きすぎてどっから手を出していいかわからないなんて」

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