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恋のマッチアップ番外編 膠着状態8

***


 肩を貸して連れ帰る道中は互いに話をすることなく、無言のまま足を動かし、加賀屋の住むアパートに向かった。


「お疲れ様。もう体力がなくなるような、無理な練習するなよな!」


 アパートに到着後、肩を貸してる加賀屋の腕を外し、帰ろうと身を翻した。すると俺の背中をぎゅっと掴む手に、動きを止められる。


「笹良、ベッドまで運んでくれ……」


(ここに来てそんなことを言うなんて、本当に加賀谷ってば我儘大王だな)


「そんなの、自力で這いずって行けよ」


 白い目で加賀屋を見下ろして、はじめて気がついた。つらそうにアパートの扉に寄りかかりながら、両足を震わせる姿に言葉が出なくなる。


「笹良ぁ……」


「ああもう、どんだけへばってるんだよ。とっとと鍵をよこせ!」


 背中を掴む加賀屋の手をぶった斬るように外し、ふたたび肩にかけて、鍵を強請った。


「ほら、早く鍵をよこせって」


「お願いしやーす!」


「調子に乗るな、まったく」


 手際よく解錠し、玄関に上がりこむ。苛立ちながら屈んで加賀屋の靴を手荒に脱がせてから、自分の靴を脱いで室内にお邪魔した。


「ここに来て加賀屋の介護をするとは、夢にも思わなかった……」


 心底うんざりしつつベッドまでたどり着き、抱えていた大荷物をよいしょと置いた。心情的には放り投げたかったけど、そこまで俺も鬼じゃない。


「じゃあな」


 素っ気ない声で言った瞬間、目の端になにかが映った。日々おこなっているバスケの練習のせいで反射的に気をとられ、ピタリと動きを止めた刹那、腰に加賀屋の両腕が巻き付き、すごい力で躰を抱きしめられ、あっという間にアパートの天井が視界に映り込み、背中にふわふわしたものを感じた。


「なっ、なんで!?」


「ここは体育館や外でもない。誰の目を気にすることなく、笹良を好きにできる場所だ」


 あまりの事態に躰を竦めながら瞬きしていると、視野が天井から加賀屋の顔に変わった。明らかにいつもとは違うギラギラしたまなざしで、俺を見下ろす。


「なんで加賀屋、おまえ立てないくらい、フラフラしていたんじゃないか」


「俺は計画を立てた。笹良が絶対逢いに来るように、入念に企てたんだ……」


「計画って、なんだよそれ!」


 妙に掠れた声が、俺の焦りを表す。頭のいい加賀屋の計画を考えると、どうにも嫌な予感しかない。


「どのくらいの期間になるかわからなかったが、俺が大学に行かなくなったら、心配してここに来てくれると踏んだんだ。だって笹良は、俺のことを気にしているから」


「気にしてっていうか一応ライバルなんだから、気にかけるのは当然だろ……」


「ライバルだけど、それ以上じゃね?」


 一重まぶたをくしゃっと細めて、心底嬉しそうに俺に笑いかける。

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