数日が過ぎたお昼休み。俺はまた珠子と山都美琴、豊田凪彦とともに食事を取りながら、午後のイベントについて珠子が話すのを聞いていた。
「部活動紹介、楽しみだなあ。何部に入ろうかな」
「珠子ちゃんは中学の時は何部だったの?」
山都さんが聞く。
「何も入ってなかったよ。うちの中学は運動部ばっかりだったし、私は運動苦手で……だから高校に入ったら文化部に入るって決めてるんだ」
「そうなんだ。どこか候補はあるの?」
「全然。だって、どういう部があるか知らないし」
「知らないのね……」
山都さんがあきれている。まあ、珠子はいつだってこんな感じだな。いつもぼーっとしている。
「美琴ちゃんは何部に入るの? 一緒に入ろうよ」
「うーん、私は家の手伝いがあるから無理かな」
「あ、神社って言ってたよね。もしかして巫女さんやったりしてるの?」
「ときどきね」
「うわー、すごーい! 私もお参り行っていい?」
「だめって言えないでしょ、神社だし。でも、あんまり巫女姿は見られたくないけどね」
「えー! 見たーい! 今度行こうっと」
そう言っているからには珠子は知っているのだろう。聞いてみるか。
「珠子、山都さんの神社ってどこなんだ?」
「え!? 知らない……」
「あのなあ……それでどうやって行くんだよ。山都さん、どこなんだ?」
「ウチは小さい神社だから知らないと思うけど、白川阿蘇神社ってところ」
「へー……知らないな」
「だよね。まあ、ネットで検索してよ」
「わかった、今度珠子と行くよ」
「ありがと。でも、私を探さないでよ。巫女姿は見られたくないし」
「わかったよ」
まあ、でもこれほどの美人だし、巫女姿見てみたいから探すけど。
「それで、長岡君は部活動はどうするの?」
「俺? 俺は面白そうな部があったら入るかもな」
「そうなんだ。じゃあ、午後は楽しみだね」
「まあな。で、豊田は何部に入るんだ?」
今日は珍しく黙っている豊田凪彦に聞いた。こいつは体育の授業でも運動神経が良さそうだったし、運動系だろう。
「俺も部活動は予定無いな。バイトしてるし」
「バイトか。どこでだよ」
「内緒。俺もバイトしてるところにクラスメイトが来るの嫌だし」
「まあそりゃそうだな」
豊田の気持ちも分かるな。俺も面白そうな部活動が無かったらバイトでもするか。
◇◇◇
そして、午後は体育館に移動し部活動紹介が始まった。体育系はサッカー部や野球部、バスケ部など定番のものからボート部や水球部など中学の時には無かった珍しいものもある。
文化系では吹奏楽部や合唱部、美術部、文芸部などよくあるものから、天文部、写真部、ボランティア部などがあったが、どれも俺は興味を惹かれなかった。なにか、もっと変わった、尖った部は無いのか。そう思ったときだった。
「次は不思議研究部です」
不思議研究部? なんだそりゃ。みんなそう思ったようで会場がざわざわし始めた。そこに登壇したのが背の高い、眼鏡の黒髪の女子。そして、その傍らにはしもべのように地味な男子が居た。こちらも眼鏡を掛けている。
女子の方が話し出した。
「新入生の諸君! 私が不思議研究部の部長、天王寺伊代です! 私と一緒に世の中の不思議を研究しませんか?」
そう言って天王寺部長は会場をじろじろ見渡す。当然、誰も何も言わない。
「……と、こんなことを言っても何をする部か分からないですよね。具体的な活動内容を今から説明します」
最初からそうして欲しかったな。
「要は不思議なことがあれば何でも研究する部です。例えば学校の七不思議を調査したり、SNSで流れている噂の真相を確かめたり、山でユニコーンを探したり……」
いや、途中までは良かったが、山でユニコーンって……そんなの居るわけ無いだろ。会場がざわつき始めた。
「でも、最大の目標は邪馬台国を探すことです!」
天王寺部長が急に大声を出した。邪馬台国? 卑弥呼が居た弥生時代の国か。
「邪馬台国がどこにあるか、みなさんは知っていまか? え? 関西? 九州の福岡? 佐賀の吉野ヶ里? うーん、惜しいなあ。邪馬台国はここ熊本にあったのです!」
会場が失笑に包まれた。この高校に入るぐらいの知識があれば普通に知っていることだ。邪馬台国があった場所は九州説と畿内説がある。とはいえ九州説でもその所在地は北の方。福岡か佐賀だ。熊本にあったなんて聞いたことが無い。
「私たちの部に入れば邪馬台国の秘密が分かります。熊本にあったなんて驚きですねえ。古代の秘密を私と一緒に解き明かしませんか? いろんな場所に邪馬台国の痕跡は残っています。それを見に行きましょう!」
アホなことを言ってるな。こんな部に入ったら、邪馬台国の痕跡とかいって変な場所に連れて行かれて貴重な高校生活の時間を無駄にされそうだ。最初は面白そうかと思ったが不思議研究部は無いな。
◇◇◇
結局、これといって興味を惹かれる部は無いまま、部活動紹介が終了した。まあ、そんなものか。となると、部活動には入らないるから何かバイトでも探すかな。
そうだ、豊田と一緒のバイトはどうだろう。俺はそう思い、体育館から教室への帰り道に早速、豊田を探す。だが、豊田はなかなか見つからない。ようやく見つけたと思ったら、山都美琴の隣に行って何か話している。ほんと、あいつ山都さんが好きだな。わかりやすすぎるぞ、まったく……
まあ、バイトの話は後でいいか。そう思い教室に帰ろうとすると隣に松井珠子が来た。
「ふうくん、何か興味を惹かれる部活動はあった?」
「いや、無いな。珠子はどうなんだ?」
「私はいろいろやりたいことが多すぎて困ってるよ。天文部でゆっくり星を見たり、文芸部で小説書いたり、写真部で写真撮ったり……いろいろやってみたいなあ」
「そうか。まあ頑張れ」
「うん! あ! あと不思議研究部も面白そうだったなあ」
「はあ? あそこはやばそうだったろ。邪馬台国が熊本にあるとか、山でユニコーン探すとか言ってたぞ」
「そうだよねえ。ユニコーンかぁ。乗ってみたいなあ」
「はぁ? ……あそこだけはやめておけよ」
珠子が変な思想に染まったら困る。
「なんで? 私、ユニコーン好きだよ」
アホなことを珠子が言ったとき、突然目の前に眼鏡の黒髪女子が現れた。
「君、ユニコーンが好きなの? 一緒に探そう!」
目の前に現れたのは不思議研究部の天王寺部長だ。
「あ、はい!」
珠子が言う。
「え!? 入部してくれるの? やったー! 遼太郎! 新入部員ゲットだよ」
「マジで!? 早いな……」
壇上で隣に居た眼鏡の男子の先輩も横に居た。
「いや、珠子。お前、不思議研究部に入るのか?」
俺は慌てて聞く。
「あ……その……」
やっぱり勢いで言っただけか。
「じゃあ、明日の放課後に部室に来てね。部室棟の3階の一番奥だから。よろしくね!」
天王寺部長はそう言って珠子に部のチラシを渡して去って行った。チラシには卑弥呼の絵とユニコーンの絵が描いてある。……って、このユニコーンって鹿じゃね?
「なあ、珠子。明日、本当に不思議研究部に行くのか?」
「う、うん……『はい』って言っちゃったし……」
「はぁ……まったく……しょうがねえな。じゃあ俺も一緒に行ってやるから」
「ほんと?」
「ああ。俺がうまいこと言って断ってやるから安心しろ」
「う、うん……ありがとう、ふうくん」
まったく、世話が焼けるやつだ。