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婚約破棄されたのですけど……
婚約破棄されたのですけど……
にのまえ
異世界恋愛悪役令嬢
2025年04月22日
公開日
8,341字
完結済
婚約破棄されましたけど……私は平気です。

婚約破棄されました。

 学園卒業を祝い賑わうパーティーの開催中、第一王子クーリー・アチャーのひと声で会場は静まった。


「本日をもって、公爵令嬢サリア・カトリーユとの婚約を破棄する」


 たくさんの貴族がいる中で名前を呼ばれクーリー殿下に婚約破棄をされた。しかし、転生者のわたしにはこうなるとわかっていた。それは、わたしはこの乙女ゲームは遊んでいたから。


 +


 小さい頃、お父様に連れられて来た王城で、初めてクーリー殿下と出会い。殿下の手が触れた瞬間、体に衝撃が走り、自分が悪役令嬢だと知った。


「そうですか……あの、クーリー殿下は本気ですか? 婚約を破棄でよいのですね」


「あぁ、私は本気だ。この女神ルルアと結婚をする」


 ――また、殿下はヒロインを女神だと、おかしなことを言ってらっしゃる。


「わかりました、婚約の破棄は承諾をいたします。後のことは殿下に全てお任せいたしますので、国王陛下にもその様にお伝えしてください。では、ごきげんよう」


 クーリー殿下に最後の挨拶と会釈をした。

 殿下との婚約の破棄を受け止め、舞踏会の会場を後にしようとしたわたしを、クーリー殿下は呼び止めた。


「ちょっと待てサリア嬢、君はルルアに色々したであろう? その事はどうするつもりだ」


「そうよ。何もなかったかのように、終わらせたりしないわ」


 ルルアさんも、転生者だって事は見ていて分かっていた。だって、彼女の行動はいつも挙動不審で側から見ていても、おかしかった。


 だけど、彼女と面と向かって話すのも、今日を入れても数回くらい? 


 それはあなたもご存知のはずなのに、どうしてもわたしを貶めたいのかしら?


 いくらヒロインだからといって、何を言っても許されることではなくて?


「ねぇ、ルルアさん、わたしはあなたに何もしてはおりませんわ。あなた、一人で色々とやっていたじゃない。まぁ最後に、ご自分で階段を落ちるだなんて、思いもしませんでしたけど」


「え? そ、そんなこと私がするわけないじゃ無い。悪役令嬢のあなたが、私を階段から突き落としたのよ!」


「あら、私が? そうだったかしら? でもあのとき、ルルアさんは彼の従者に助けられたでしょう?」


 はじめは可愛いかった、ヒロインの自作自演。


 自分でみんなの前に転んでみたり、教科書を破ったりと、わたしは横を通っただけで「怖いと叫び」殿下にくっ付き、急に泣き出す。それまでは、本当に可愛いく思えていた。


 しかし、ルルアさんはいくらやってもわたしが反応を返さないのが気にくわないのか、自分で階段を転げ落ちたときに「あなたは、ここまでやるの」と少し怖くなりました。落ちてくるルルアさんを助けようと必死に手を伸ばしてもととかず、側にいた彼と彼の従者が即座に回復魔法のヒールをかけたお陰で、あなたは怪我もなく気絶だけで済んだはずなのに……。


『ルルアさんは、大丈夫ですか?』

『あぁ、大丈夫だ。彼女の怪我は治した、いまは気絶しているだけだよ』


 彼の言葉にホッとしたことを、いまでも覚えていいます。その後、わたしがルルアさんを助けようとして、派手に転んだことを彼にいまだに言われますが……。


 わたしは小さく息を吐き、クーリー殿下に守られるようにただずむルルアさんを見つめた。


「そういえばルルアさん。あなたはあとで、彼と彼の従者にお礼を言いましたか?」


「うっ、当たり前じゃない。言ったわよ! って……違う‼︎」


 これも、嘘ね……。


 あの後のあなたは医務室で気が付くと、あなたが階段から落ちたと聞き駆けつけたクーリー殿下に、わたしが階段から付き落としたと散々泣き喚いて伝えていた。いくら、わたしが違うと伝えても聞かず。助けていただいた彼や彼の従者にも、あなたは殿下にしがみ付いて泣き喚くだけでお礼の一つも言っていない。


 ――後にも、お礼していなかったのね。


『おまえ! いくら、ルルアが憎いからって階段から落とすとは!』


 クーリー殿下と他の方に詰め寄られるわたしに、側にいた彼と従者がルルアさんが階段から落ちたとき、わたしは階段の上ではなく下にいたと証拠を提示して下さったおかげで、事を大きくせずにすみました。


「あのとき、彼が身に付けていた記憶するネックレスに撮った証拠を見せたのに、まだ言うのですか?」


「あのときは信じたが、捏造したものだ!」

「そうよ、あなたが階段から私を落としたのよ」


 ルルアさんがそう叫ぶと。

 クーリー殿下とルルアさんの後ろに立っていた、他の攻略者達が一斉に待っていましたと前に出てきた。


「ルルア様は、嘘などを申しておりません」 

 一番手は宰相の息子、腹黒メガネ。


「記憶するネックレスなんてものは無い! それに僕の天使のルルは嘘は付かないよ」

 二番手は魔法使の茶髪、ルルアを天使とか言ってる、いたい子。


「ルルアは嘘はつかねぇー」

 三番手は騎士見習い、おかん属性の赤髪の一匹狼。


「ルルアちゃんは……う、嘘は付かない」

 四番手は幼馴染、病んでる青髪。


(あーいやですわ。面倒な人達が表に出て来てしまった。今日はわたしの終わりの日で、始まりの日でもあるのに、これではこのおかしな茶番劇が長引いてしまう)



 ――彼の方はどうかしら?


 クーリー殿下の婚約者であるわたしに求婚を申し込んできた、彼との婚約が殿下との婚約の破棄後に決まる。


 いま、このとき。茶番劇の裏では、書類などの手続きをわたしの両親や彼、彼の国の宰相様が国王陛下と話し合いをしいた。


 国王陛下は、彼が出した条件を飲むでしょう。

 だって、この国の借金が無くなるのだから。


 此方は、攻略対象の方がししゃり出て来たおかげで、終わりそうな話が長引いて、彼の方の手続きが早く終わりそう。


「あの、すみませんが。この話はいつまで続くのでしょうか?」

「本当だ、証拠も見せたのにいつまで続くんだ?」


「えっ、きゃっ」


 彼はいま音も立てずわたしに近付き、後ろから抱き寄せ、髪にキスを落とした。


「ル、ルナール様……」

「リア喜べ、国王陛下との話は滞りなく終わったよ」


 隣国ジュノールの第一王子でオオカミの獣人。金髪の髪に琥珀色の切れ長と目、頭にふさふさな耳、黒の軍服とお尻にはふさふさな尻尾。彼――ルナール・ジュノールはわたしを抱きしめたままクーリー殿下達を睨んだ。


「ふぅ、魔法使いの癖に勉強不足だな。国の錬金術師達が作り上げた、俺が普段から身に付けていた記憶する魔法石のネックレスに一部始終、その時の映像が映っていたくせにまだ言うか。それに、リアもお人好しだなぁ。いつまで、こんな茶番にいつまで付き合ったんだ? 俺の国に帰って、首を長くして待っている父上や母上に早く合わせたい、夜はみんなで食事を取ろう」


「えぇ、わたしもそうは思っているのですが……これがどうも、上手く終わりませんの」


「そうか……」


 彼はわたしの頬にすり寄せると、もっとキツくわたしを抱きしめてきた。他の者など気にせず二人だけの世界に酔いしれた。


「きゃぁ――! やめて、離れてルナール」


 突如、ルルアさんは会場に響き渡る悲鳴のような声をあげた。


「どうしたんだ、ルルア嬢?」


 彼女には側にいるクーリー殿下の声が聞こえておらず、殿下を押しのけて此方に来ようとしている。


「ちょっとあんた邪魔よ、どいて! ルナール……あなた様が、そんな奴を抱きしめないで!」


 ルルアさんは愛しているはずの、クーリー殿下を邪魔者扱いした。その姿に驚くクーリー殿下と、ルルアさんのわたしの対しての発言に、彼は怒りをあらわす。


「俺のリアをそんな奴だと? やはり君は失礼な女性だな。それに、何があなた様だ!」


「どうして、ルナール? 私を見て、なんとも思わないの?」


 瞳をうるわせ可愛く首を傾げるルルアさんに、彼は眉をひそめた。


「君が、何を言っているのか訳がわからない。俺はそこの奴らも違って、お前など見てもなんとも思わない!」


「え? そ、そんなぁ……」


「ふっ。リア、みんなが待っている帰ろう」

「はい、ルナール様」


 わたしが下から覗けば、彼の口元を緩み、目じりを下げた。


 ――わたしだけの可愛い彼。


 あなたがわたしに「ぜったいに、リアを俺の婚約者にする」と言われて半信半疑だった。だって、あなたもこの乙女ゲームの攻略対象だと知っていたから、ヒロインと出会ったら離れて行くと思っていた。


 それなのにあなたは自信満々で……


『俺と君は出会ってしまった。出会ったあの日から、俺達の運命は決まった』


(まだ、クーリー殿下の婚約者のわたしに言うのですもの、驚いてしまったわ)


「リア、リア。俺だけのリア」


 彼が、わたしの頬に頬を擦り寄せてくる。

 ふわふわなあなたの毛は気持ちいのだけど、人前でそれをするなんて恥ずかしい。


 それに。


「わたしはいま、この国の第一王子に婚約を破棄をされたのよ。それなのに、嬉しそうに笑わないでください」


 ルナール様は一瞬キョトンとした表情をして、そして優しく笑った。


「はははっ、婚約を破棄ね。そのおかげで、俺はお前の婚約者となれるんだ。俺は三年もこのときを待った。愛しいリアがやっと俺のものになるんだぞ。こんな嬉しい日に笑わずには入れるか」


 幸せいっぱいに笑う彼を見て、わたしも微笑んだ。


「もふもふの尻尾が可愛いわ。ねぇ、いつものように触ってもいいかしら?」

「おい、こんな所でそのような顔をするな!」


 キュッと胸の中に抱きしめられる。


「ルナール様?」


「その顔は俺だけのものだ、誰にも見せん。しかし残念だな。王子は小さい頃から一緒に過ごしてきた、こんなに賢く、可愛いリアとの結婚が決まっているのにも関わらず。他に好きな奴ができたからと、いとも簡単に婚約を破棄するなんて、俺には理解できぬ。でも、感謝するぞ。そのおかげで、リアを俺のものにできた」


 クーリー殿下を想い一人で泣くわたしに「俺は一人だけをただ愛する、他の者なと見ない」と言ってくれた。


 だから、わたしは彼を信じると決めた。


「クーリー殿下、わたしも感謝をいたします。あなたが婚約を破棄をしてくれたおかげで、わたしは心から愛する人と、一緒になれますわ」


「さぁ、帰ろう。帰ってすぐに婚約をして来年には結婚式を盛大に上げよう。それから俺の子供をたくさん産んでもらう。俺はお前だけしかいらない、お前だけを愛すると誓う」


「わたしも、あなただけを愛します」



「ちょっと何? 二人だけの世界に行っちゃってんのよ! どうしてあなた様が悪役令嬢となんて、私は? 私はこのゲームのヒロインなのよ、一番はわたしよ!」


 この世界を、乙女ゲームだとルルアさんは叫んだ。


 ――あらあら、この子はハーレームルートを狙っていたのかしら? 攻略者たちが誰一人も欠けず、みんなに愛されなくちゃ嫌なのかしら?


「だから、あなた様が一番に愛するのはこの私よ!」


「そんなことあるか……げっ、お前を思い出したぞ」


「えぇ、私を思い出してくれのた? ルナール、本当?」


 彼からため息混じりの言葉が漏れる。


「あぁ、いまでも思い出したくもない。……助けてくれたお礼だと抱きついてきたり、俺のリアに嫌がらせをしてきた女性だな」


 そう言われて、ルルアさんは首を振る。


「違う、お礼に私をあげたかったの。それに、あなたが中庭でお昼寝をしていたとき、ずっと側にいたのは私よ? ルルアだよ」


「いくら断っても、しつこく来るのが嫌だった。昼寝だって、大勢でやって来て寝ていた俺の側で馬鹿でかい声を上げて、昼寝を邪魔をしていたな」


 ――ルルアさん、そんな過激なお礼していたのね。そして彼に断られたから言えないわね。中庭は故郷に似ているから、乙女ゲームの彼も好きだった場所なのに……知らないところで色々していたのね。


 その頃はクーリー殿下とヒロインが一緒にいる所を見るだけで、悲しくて誰も来ない裏庭の隅で泣いていた。

 そのわたしの近くに彼はいつの間にか現れて、わたしのハンカチを渡して隣に座った。


『こんなとこで、あんな奴のために一人で泣くなよ……お前が泣くと、俺まで悲しい気持ちになる』


『まあ、どうしてルナール様まで泣くのですか? ……もう、泣かないで』


 もう耳は下に垂れて、ションボリ顔のルナール様。


『うう……俺が泣くのはリアのせいだ』


『やだ、ルナール様は泣かないで……わたし、泣いていませんから、泣き止んでください』


 裏庭で、一人でいると側に来てくれた。

 いつもわたしが泣いていないか心配をして、どこにいてもわたしの側にいてくれた。


 一年が経つ頃、いつしか、わたしはルナール様を裏庭で待つ様になっていった。


『リア……膝枕をしてくれるか?』

『いいですけど、ルナール様の尻尾を触らせていただけるのでしたらね』


『うーん、リアには特別にな』

『では、ルナール様に特別ですわよ』


 わたしはルナール様の尻尾をなでなでさせていただき、ルナール様はわたしの膝枕でお昼寝をしていた。


 ――温かい日差しの中、二人で過ごしたわ。


「ヒロインの私と出会ったら、好きになるはずなのに」


 ルルアさんは、いくら彼に想いを伝えても気持ちが伝わらないからか、遂に泣きだした。


「ルナール、酷いよ。私は一番好きなあなたを手に入れるために、別に興味もない攻略者を落としたのに!」


「ルルア嬢?」

「ルルア様?」

「ルル」

「ルルア」

「ルルアちゃん」


(あらあら酷い子ね、とうとう言ってはいけないことを言ってしまったわ。これからあなたを大事にしてくれるはずの、クーリー殿下も含めて言ってしまうなんて……)


「はぁ……そうやって、君は、お前のわがままで多くの人を傷つけてきたんだな。はっきり言おう俺はお前のことは好かん。リアは学園で周りに避けられていた俺に、初めて声をかけてくれた。優しくしてくれたのはリアだけだ、そのときお前は何をしていた?」


(ほんと、乙女ゲームだからといって、彼への偏見は酷かった。はじめは関わってはだめだと、黙って見ていたかったけど……周りから、理不尽な言葉を投げつけられているわたしは声をかけてしまったの)


 だけど、わたしは……ルルアさんのイベントを先取りしてしまったと言える。

 でも、ルルアさんは彼が酷い事を言われて傷付ついているのに、まだ早いと見て見ぬ振りをしていた。


 ――けど、ときに言葉は胸をえぐる。わたしは、かげで泣いている彼をほっとけなかった。


『これを、お使いください』

『あ? 近寄るな! おまえは俺が怖くないのか?』

『怖い、ですか? あなたはわたしに怖いこと、何かするのですか?』

『するわけないだろう!』

『ですわよね。それなら、わたしは怖くありませんわ。そのハンカチは返さなくていいわ。あなたも、周りの声なんか気にしてはなりませんわ』


 また


『サリア嬢? 泣いているのか?』

『え? あ、見られてしまいましたわね』


 周りからの心無い言葉、いくら伝えても伝わらない殿下に心が苦しかった。

 我慢ができず、誰もいない書庫の隅で泣いていた。


『無理に笑うな。これを……』

『ハンカチ? ……ふふ、前とは逆になりましたわね』


 彼はあの日から背を伸ばし、胸を張り、周りの酷い声にびくともしなくなった。


『サリア嬢のおかげだ。サリア嬢が、俺を怖くないと言ってくれたから……俺は頑張れる』


『わたしのおかげ? そんな、たいそうなことはしておりませんわ』


『いいや。挫けそうな俺に、サリア嬢は優しくしてくれた。それに君だって、周りから色々言われて傷付いているのに、いつも背筋を伸ばして凛としていて素敵だ』


『わたしが素敵? あ、ありがとうございます』


 このときから、彼と顔を合わせると会話を交わすようになった。



 +



 彼に真実を言われて、ルルアさんは口ごもる。


「それは……でもでも、この世界は私のためにあるのよ。あなたを癒して、くっつくのはヒロインの私だけなのよ」


「癒す? そんなことがあるか。俺を癒したのはリアだけだ」


 ルルアさんに見せつけるように、強引に抱き寄せて濃厚なキスをしてきた。


「いやぁぁ‼︎ ルナール」


 ルルアさんはそれを見せつけられて、その場に崩れ落ちた。

 しかし、ルルアさんの周りには誰も集まりはしなかった。


「んっ……ちょっとルナール、わたし……初めてなのに」


 それなのに、みんなの前で強引にキスをするなんて、初めてのキスは二人の時にしたかった。


「くっ、拗ねた顔のリアも可愛い。俺だって初めてだぞ。ふうっ――いまので我慢できなくなった、帰ったら覚悟しておけ」


 彼はわたしの唇をぺろっと舐めた。


「きゃっ! もう……」


「なんだよ。今日からずっと一緒にいれる。お前を抱きしめて眠りたい……リアも温かい俺は好きだろう」


「えぇ、好きですわよ」





 ――温かい俺は好きだろうと、彼は前にも言ったわね。


 あれは、彼と仲良くなって来た頃に開催された王子の誕生日会。

 クーリー殿下とルルアさんが離れずダンスを踊った夜、その頃はまだ殿下のことが好きで、苦しくてわたしはその場で涙を我慢していた。


『……ルア、帰ろう』

『え、ルナール様!』


 手を掴み、その場からバルコニーに連れ去った彼はわたしを優しくお姫様抱っこをした。

 彼は魔法が使える従者を呼び、ご自分の滞在する部屋へとわたしごと転送された。


『ここは王城からは遠い、いくらでも泣いていいんだぞ』


『ルナール様』


 彼の優しい言葉に我慢していた涙が溢れ、泣き出したわたしを何も言わずに彼は抱きしめてくれた。ご自分のジュストコールがわたしのお化粧で汚れて、涙に濡れるのも気にせずに……


『…ありがとう、ルナール様』

『いいや、お礼より俺はこっちがいいなぁ』


 わたしを抱きしめると、一緒にベッドの上に寝転んだ。


『ルナール様…わたしは』


 驚くわたしを胸に抱きしめて


『王子のことは、リアのお父上に話をした。今日、王子の誕生日会でリアが悲しむことがあれば、一晩リアと一緒に過ごすと伝えて了解を得た』


『ルナール様はわたしのお父様に、クーリー殿下のことを話したの?』


『あぁ、どうやら君のお父上もクーリー王子とあの子との噂を耳にしていたらしくて、悩んでおられたよ。それと、リアをよろしくとも言っていただいた』


 ……お父様。


 俺は何もしないからと、わたしを優しく抱きしめて眠ってくれた。





「ふふ」

「どうした、リア?」


「え? 温かいと言ったので、あの夜を思い出したの」


「なんだ、俺と同じだな。あの夜、俺の胸にすがり付き眠るリアを見て、けして離さないと決めたんだ」


 わたしもです。

 あなたの腕の温かい腕の中で目覚めて、わたしの中かで何かが変わった。


「行こう、リア」

「ええ、ルナール様」


「みんなが、リアが来ることを待ってる。メルリ、出て来てもいいぞ」


「はい、はーい、坊ちゃん」


 ルナール様に呼ばれて出て来たのは、頭に白く長い耳をはやして燕尾服を着た、ウサギ族で従者のメルリさん。彼の国で一番、魔法が使える従者のメルリさんは手に杖を握り、会場の中をひょこひょこと歩き、楽しそうにわたし達の所にやってくる。


「ククク、おかしな茶番劇でしたね。では坊ちゃん、サリア様、参りましょう」


 杖で床をコツンと叩くと、わたし達の周りに魔法陣が現れる。


「さあ、行くぞ。実はなリア、君のご両親は既に城へと呼び寄せてある」


「あらっ、用意周到ですね」


「当たり前だろう、愛するリアのご両親だ。俺にとっても大切な人達だからな」


 彼の目元が優しく円を描いた。


「ありがとうございます、ルナール様」

「当たり前のことをしただけだ」


 わたしは消える前に、床に座り泣きじゃくるルルアさんと、その後ろで呆然とするクーリー殿下に最後の挨拶をする。


「大変なことになりましたが。クーリー殿下、ルルアさんと末長くお幸せになってください」


 わたしの声に、泣きじゃくっていたルルアさんはキッと顔を上げ、


「待ちなさいよ、サリア」


 と叫んだが。その声はわたし達の消えた後で、虚しく会場の中に響くだけだった。





 わたしは彼のお父上が治める、亜人種族の国エスタードの王城に移り、その国の第一王子ルナール・エスタード様の婚約者となった。


「リア、一生大切にする」

「ルナール様、わたしもあなたを大切にいたます」


 彼に、毎日愛される日々を送っています。

 もちろん、わたしも彼を愛しています。



 その後のクーリー殿下とルルアさんの事ですか?

 ルナール様の従者に聞いた話だと。


 みんなさんは目が覚めたようで、次々とルルアさんの元から離れて行ったそうです。


 彼女が何を言っても、誰も見向きもしないとか。

 しばらくして殿下は国王陛下がお決めになった、隣国のかなり年上の姫を婚約者に迎えたそうです。


 殿下は頼りないのか、その姫に毎日尻に引かれているみたい。


 他の攻略者の方達も家に連れ戻らされ、家の方が決めた女性の方を迎え、婚約や既に結婚をされた方もいるそうです。


 ヒロインのルルアさんは誰にも相手にされなくなるどころか、クーリー殿下や他の方に訴えを起こされ、国の最も重労働の場所へと追いやられて。毎日、騎士に見張られて逃げることもできず、泣きながら働いてるみたいです。



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