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第3話 契り

「強い生命力と魔力の匂いがしたから来てみれば、懐かしい奴がいるじゃねーか!」

「お前は…」


炎の向こう側には見覚えのある姿があった。

赤い髪、頬にはサメ特有のエラ…しかも古代ザメ特有の5本エラ。

そして、サメにしてはしなる耳鰭みみひれ尾鰭おびれ

アイツは…。


「最悪だな、よりによってエンヴィー…」

「え、ちょ、セラ!?なに!?何が起きたの、あのラブカみたいな男はなに!?てか、家がぁ!」


アオは何が起きているのかは状況を把握できず、彼女の焦った声が聞こえた。

無理もないはずだ、目の前で陸の人間じゃ分からないような事が起きてるのだから。


「まぁ、今回はお前には要はねぇ……おい!そこの女!」


エンヴィーは鋭い目つきでアオに指を指した。


「は、はぁ?」

「お前だよ、お前!お前、陸の人間にしてはやけに高い生命力をもっているな。お前なら俺の力を最大限に引き出せるかもししれねぇ」


サメ族特有の能力『獲物追跡器プレイトリッカー

捕食する生物やターゲットの魔力と生命力を感知し、位置まで特定する能力。

範囲は能力者の力によって様々だが、まさか陸でもその能力が使えるとは…ましてや、アオの生命力がエンヴィーの言った通りなら、尚更アオを護らないといけない。


「はぁ? 力? 何言ってるか分からない!」

「はぁ… 説明するのが面倒くせぇなぁ」


エンヴィーはアオに向けて炎の矢の先を向けた。その矢の炎は奴の魔力に反応して、みるみる大きくなっていく。


「まぁ、多少手足が無くなっても、身体と頭さえあれば問題はねぇ」

「まずい! 伏せろ、アオ!」


ドゴォォン!と爆音と共に、 エンヴィーから凄まじい魔力の一撃が放たれ、俺は再びアオを護った。


「…相変わらず、魔力だけは凄まじいな… 大丈夫か、アオ?」

「っ…ん…だ、大丈夫…」


なんとかギリギリで護ることはできたが、今の俺の力だとアオを護りながら戦うのは難しい。どうにかアオだけでも、この場から逃がさないと! もし、エンヴィーが無理やりアオと番になれば、俺でも敵わなくなる。


「……エンヴィー」

「やはり、双璧って謳われてるだけはあって、つがいが居なくても、それなりには力は出せるか」


しかしこの状況をどう切り抜けれるか…エンヴィーから感じるこの魔力の強さ、間違いなく昔の時よりも強くなっているのは確かだ。

俺は頭の中で策を考えようとするが、陸と海の中の環境が違いすぎて策が思いつかない。

だが、このままだと二人してエンヴィーにやられてしまう。


「どうすれば……」


エンヴィーはそんな俺の様子をみて、厭らしく笑い始めた。


「くくくっ……それにしても、お前は本当に馬鹿だよなぁ…女さえ見捨てれば、楽に戦えるのによぉ」


あぁ……エンヴィーの言うとおりだ、今ここでアオを見捨てれば俺は奴と戦える。

だが、俺は性からなのか、どうやらアオを見捨てるこは出来ない……いや、見捨てたら後悔してしまう。

もう、あの時みたいに俺の前で死なせるものか。


「生憎、俺はお前と違って簡単に人を見捨てたりはしない。俺が生きている限り目の前の人を護ってみせる!」

「そうかよぉ!なら死ねぇ!」


エンヴィーは一斉に炎の矢をこちらに放ってきた。


「アオ!俺の後ろに……なっ!?」


俺はアオを確認する為に振り向いたが、そこにはアオの姿がなかった。


「ははは!まさか逃げ出すとか正気かあの女!馬鹿にもほどが……」


エンヴィーが笑いながら俺に愉悦な笑みを向けようとしたその時だった。


「いい加減にしろよぉこのやろぉぉぉぉ!」

「!?」


アオはエンヴィーの真横から勢いよく飛び出してきた。

そして、彼女はその勢いのまま、奴の頬にドロップキックを入れた。


「んぐぅ!?」


奴の情けない声が聞こえる中、俺の目に映る彼女の姿は勇ましく、その光景に思わず見惚れてしまった。


「お前!よくも人の家を燃やしたな!おかげで私の大事な資料が……」


アオの怒いはごもっともで、こんなことにさせてしまった俺にも非があるわけで、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

だが、少しだけおかしい……アオはどうやって奴の獲物追跡器プレイトリッカーを潜り抜けたのか…。

少しだけ疑問が浮かぶものの、そんなことエンヴィーは気にしておらず、アオに拳を向けた。


「ま、まずい!逃げろ!アオ!」

「この…よくも…番なんか関係ねぇ!お前から殺してやる!」

「っ!?」


エンヴィーは怒りのあまりに、アオの腹部に素早く拳を入れた。

肉と骨が低くめり込む音と共に、彼女は勢いよく外へ高く飛ばされてしまった。


「しまった!クソ!」

「ち、しま」


俺はアオを助ける為に、咄嗟に閃光術をエンヴィーの真正面に使い、隙をついて素早く彼女の後を追った。


「アオ!」


まずい、エンヴィーの一撃で気を失っている!このまま、地面にぶつかれば確実に死ぬ!

俺は、加速術を使い建物伝いでアオに追いつき、素早くアオを護るように抱え、無理やり建物を勢いよく蹴りその場から離れた。


「絶対に死なすものか!」


無茶な着地に備えて背中に防壁術を出せば、凄まじい音と同時に地面に叩きつけられた。


「っ…アオ…大丈夫か!」


腕の中にいるアオを確かめるものの、彼女は痛みからか苦しい表情をみせた。

俺は直ぐに治癒術を彼女に掛けた。


「くっ…つ…ガハッ」

「まずい…内臓が破裂している」


エンヴィーの一撃が軽かったのか運が良かったのかは分からないが、陸の人間がこの程度の傷で済んだのは幸いかもしれない。

しかし、それは俺たちの場合の話で、アオの様子からみて陸の人間にとっては致命的だ。


「…くそ!」


残った魔力をすべて治癒術に使うもののアオの傷が癒えず、彼女は徐々に血の気引き口からは予想以上に吐血をしている。

先程の戦闘のせいか、俺の魔力が足りない……。

治療すれば助かる命が目の前にあるのに、このままだとアオが死んでしまう。

俺は彼女を助ける為に腹を括った。


「…強引だが、助けるためだ」


俺は血で紅く染まったアオの唇に、自身の唇を重ねて離れ、詠唱をした。


「汝の肉体と魂を礎に陸と海への導き、祖は我がシーラカンスの元へ。 汝の魂を7つの海が導き、我が母なる海へと至り循環せよ。 汝の身は我が下に、我が運命は汝の双璧に。神の誓い従い、この意、この理に従うならば応えよ、誓いを此処に 我は天海の双璧と成る者として契約を結ぶ」


アオの身体が光輝き、身体全体に契約の呪文が刻まれていき、アオの右腕に契約の印が刻まれた。


「契約は成功した…これで治癒術が掛けやすくなる」


そう、彼女を助ける唯一の方法。

それは俺と番になり、俺の力を覚醒させ治癒術を掛ける。


俺は再びアオに治癒術を掛けた。

損傷した内臓に自身の魔力を流し込むようなイメージで術を掛けるが、コントロールしている筈の魔力がやけに放出されている。

その上に、断片的に見覚えのない記憶が頭の中に流れてきたのだ。


「…なんだ…この感覚…やけに魔力の放出が……契約したばかりだからか?それに、この記憶は……アオの記憶か?そんなことどうでもいい、とりあえず早く治すぞ」


俺はアオの傷を治すために、集中し少しずつアオの傷を治していった。

損傷した内臓は無事に完治し、彼女の表情は先ほどよりも和らいだ様子になった。


俺はアオの手を優しく握りしめると、それに応えるかのように彼女は目を覚ました。


「……ん…ここは?」

「近くの山だ」

「セラ…私一体…ここは?」


アオはゆっくりと身体を起こす。


「お前は、エンヴィーに一撃食らわされて死にかけた…。お前の命を助けるためだったが、無理やり契りをして俺の魔法で治した」

「契り…契り!?」


顔を赤らめながら、警戒するようにばっと身を守るような動作をするアオ。


「会ったばかりなのに契り!?ちょっと、セラ!」

「ん?お前なんか勘違いしてないか…?」

「だって、契りって!」


その様子からして、アオはどうやら勘違いをしている。


「あー……そうか、そっちだとそう捉えられるよな…別にお前と交尾した訳では無い。右腕を見てみろ」

「証……?」


アオが右腕をゆっくりと確認すると、そこには契りの証である俺のシーラカンス族の印が刻まれていた。


「アオ、俺はお前に謝らないといけない。戦いに巻き込んですまなかった。俺のせいでお前の大事の資料が」


俺の謝罪を聞いたアオはやれやれと言わんばかりな様子を見せ、俺に優しく応えてくれた。


「まぁ、資料や本が燃えたのはちょっと残念だったけど、まぁ……本や資料は私が生きてればなんとかなるから、あんまり気にしないで」

「……しかし、これからお前はオーシャンバトルに参加しないといけなくなる」


アオを助けるためだとはいえ彼女をオーシャンバトルに無理やり参加させたことが、俺の罪悪感を沸かさせる。

しかし、彼女は俺のその気持ちはつい知らず、再び好奇心旺盛な表情で俺に質問してきた。


「オーシャンバトル!?なにそれ!?ねぇ、聞かせてよ!」

「……」


さっきまで身の危険があったばかりなのに、彼女は気にしないらしい。


「はぁ……」


彼女のその様子に呆れてつい溜息が出てしまい、俺はアオを強く抱き寄せた。


「セラ?……んっ!?」


不思議そうな様子を見せる彼女の唇に自身の唇を重ね、ゆっくりと唇から離れた。


「ちょ、セラ!?な、なにを!」


急な出来事にアオは顔を赤面し、あたふたした様子を見せた。


「何をそんなに慌ててる?番になった以上、お前は俺の大事な妻だ」

「え?……妻?」


オーシャンバトルの番は力を覚醒には必要な役割があるが、それとは別の役割がある。

それは『番になった種の存続のために、その者と結ばれなければならない』


「嘘でしょ……」

「嘘ではない。それに安心しろ…お前を巻き込んだ以上、俺は死ぬまでお前を護る」


アオの手を優しく握るものの、彼女は勢いよく振りほどいた。


「安心出来るかぁ!てか、なんだよこれ!190cmのシーラカンス男助けたら、ラブカ男にいきなり奇襲されて死にかけるし!助けるためにファーストキスを奪われて契約されて、シーラカンス男の妻!?」

「嬉しくないのか?お前、生まれてきて異性関係なかったろ?」

「なんで彼氏歴も知ってだよ!」


知っているもなにも、契り時の時に彼女の記憶が流れてきたのを見たからな。


「契り時にお前の記憶が流れてきて……」

「あぁープライバシーが皆無!」


1人ツッコミしてるアオを俺は呆れながらもゆっくりと抱き上げ、腕の中に収まるアオは少し動揺が隠せれない表情になった。


「1人ツッコミしてる所で水を差す様なこと言うが、お前俺の事好きだろ?」

「っ!?はぁ!?」


アオの顔はさらに茹でタコの様に真っ赤になり、腕の中でアタフタする。


「これは聞いただけだったから確証はなかったが、契りには相性があるらしい。それは友情を超える好意。その相性がよくなければ成功せず番は死んでしまう」

「なに、その仕組み……」

「まぁ、成功したってことは……そうゆうことだな」


俺の言葉にアオは恥ずかしさからか、顔を背けてしまった。


「なんで私を……?」

「確かにお前を助ける為に契ったが……それ以上にお前がエンヴィーの顔にドロップキックを入れた、あの勇ましい姿に惹かれてしまった…あとチャーハンが美味いのもある」

「……っ…恥ずかしいからあんまり言わないでくれ」


彼女は耳まで赤くし応える。

あぁ、俺より小さくて可愛らしい俺の番…。


「大丈夫だ、番になった以上俺はお前を絶対に守り抜くから、これからもよろしくなアオ…」

「まぁ、助けてもらったし……何かの縁だろうね。これからもよろしく、セラ」


こうして、俺はアオと出会い番になった。

そしてこれから続くオーシャンバトルに俺とアオは挑むのであった。

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