二七年前――。
「かか!このお魚さん、たくさんひれがある!」
幼い娘は母親に分かりやすく、一匹の魚を指さした。
「これはね、シーラカンスというお魚だよ」
「シーラカンス?」
母親の口から出た魚の名前に、娘は不思議そうな表情を浮かべて聞き返した。
すると母親は、優しく娘を膝の上に乗せて説明を始めた。
「シーラカンスは、恐竜が生まれる前から存在しているお魚で、私たちの祖先かもしれないと言われているのよ」
「わぁ!すごい!」
娘は母親の話を聞いて、興味津々でその説明に引き込まれていった。
「ねぇ、アオ」
「なぁに?」
「アオは大きくなったら、何になりたい?」
母親は娘に優しく微笑みながら問いかけた。
「ん~」
娘は母親の問いに少し考え込み、笑顔で答えた。
「大きくなったら、お母さんみたいにお魚博士になりたい!そして、大きな水族館を作るんだ!」
「おぉ!それなら、たくさん勉強しないといけないね」
母親は娘を抱きしめ、娘も嬉しそうに笑顔を浮かべた。
現在――。
あの戦いの後、救援に来たセイルがエンヴィーを追ったが、捕まえることはできなかった。昨晩の出来事を目撃した者も多く、俺とセイルは目撃者の記憶を一人ずつ消去し、何もなかったかのようにした。しかし、エンヴィーの炎によって焼かれたアオの家は、ひどい有様になっていた。
「……」
「アオ」
呼びかけても彼女は反応しない。
「アオ」
「あ、あぁ。セラ……ごめん。何か用?」
「俺のせいだ……お前の大事な家を」
「謝ることはないよ……セラは私を守るために必死だった。そのおかげで私も生きている」
アオは心配をかけまいと平常心を保とうとするが、その声には少し悲しみが滲んでいた。俺はそんな彼女を見たくない。彼女には笑っていてほしい。
「アオ、俺がこの家を直す」
「えっ?でもこの状態じゃ……」
「大丈夫だ、全部元通りにする」
俺は焼き焦げた家の床に術式を展開し、アオの記憶を元にこの家を復元するために、『
集中し、まるで積み木を積み上げるような感覚で、家を復元していく。
「はぁ…はぁ…出来た」
しかし、なんだこの魔力の消費量は。以前使った時はこんなはずじゃなかった。対象物の大きさと魔力の消費は比例しないはずなのに。俺は魔力切れのせいで視界が真っ暗になった。
「わぁっ…す、凄い!ってセラぁ!?」
アオは倒れたセラを見て、急いで駆け寄った。
「セラ!大丈夫!?セラ!」
アオはセラの身体を揺すったが、反応はなかった。
「そいつは魔力切れで気を失っているだけだ」
「え……」
アオは男の声に反応し、そこにはセイルが呆れた様子で現れた。セイルはため息をつきながら、セラに近づき、ゆっくりと肩を持った。
「お前がコイツの番か?名前は?」
「うん、私は深海アオ」
「そうか…。俺はセイル・オフィラス。とりあえず、こいつをお前の家で休ませてくれ」
セイルがそう言うと、アオはすぐに二人を家の中に招き入れた。
「よいっと!」
「あっ、ちょ!?」
気を失っているセラを軽々とソファに投げた。
「安心しろ。こいつは気を失っても常に防御術を張っているから、こんなことで怪我はしない」
「だからって投げることは……」
アオはセイルの行動に呆れたが、セイルの言葉とセラの様子を見て少し安心した。
アオはセイルを椅子に座るよう促し、セイルは椅子に腰を下ろした。
「番になって間もないくせに、無理に『
「あの、あなたとセラの関係は?」
アオはセイルにセラとの関係性を尋ねると、セイルは二人の関係について答えた。
「俺とこいつは幼なじみだ」
「幼なじみ…」
「堅物で女とも遊んだことなんてなかったこいつが、会って間もないお前のためにここまでするなんて、よっぽど気に入られているんだな」
セイルの言葉に、アオは少しだけ恥ずかしそうな表情を見せる。
「まぁ、せっかくだし!今回の件もあるし、セラが子供だった頃の話でも聞くか?」
「何それ、むっちゃ聞きたい!」
喰いついてきたアオをみたセイルは企んだ笑みを浮かべ、彼女にセラの幼少期の話を始めた。