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第4話 セイル

二七年前――。


「かか!このお魚さん、たくさんひれがある!」


幼い娘は母親に分かりやすく、一匹の魚を指さした。


「これはね、シーラカンスというお魚だよ」

「シーラカンス?」


母親の口から出た魚の名前に、娘は不思議そうな表情を浮かべて聞き返した。

すると母親は、優しく娘を膝の上に乗せて説明を始めた。


「シーラカンスは、恐竜が生まれる前から存在しているお魚で、私たちの祖先かもしれないと言われているのよ」

「わぁ!すごい!」


娘は母親の話を聞いて、興味津々でその説明に引き込まれていった。


「ねぇ、アオ」

「なぁに?」

「アオは大きくなったら、何になりたい?」


母親は娘に優しく微笑みながら問いかけた。


「ん~」


娘は母親の問いに少し考え込み、笑顔で答えた。


「大きくなったら、お母さんみたいにお魚博士になりたい!そして、大きな水族館を作るんだ!」

「おぉ!それなら、たくさん勉強しないといけないね」


母親は娘を抱きしめ、娘も嬉しそうに笑顔を浮かべた。


現在――。


あの戦いの後、救援に来たセイルがエンヴィーを追ったが、捕まえることはできなかった。昨晩の出来事を目撃した者も多く、俺とセイルは目撃者の記憶を一人ずつ消去し、何もなかったかのようにした。しかし、エンヴィーの炎によって焼かれたアオの家は、ひどい有様になっていた。


「……」

「アオ」


呼びかけても彼女は反応しない。


「アオ」

「あ、あぁ。セラ……ごめん。何か用?」

「俺のせいだ……お前の大事な家を」

「謝ることはないよ……セラは私を守るために必死だった。そのおかげで私も生きている」


アオは心配をかけまいと平常心を保とうとするが、その声には少し悲しみが滲んでいた。俺はそんな彼女を見たくない。彼女には笑っていてほしい。


「アオ、俺がこの家を直す」

「えっ?でもこの状態じゃ……」

「大丈夫だ、全部元通りにする」


俺は焼き焦げた家の床に術式を展開し、アオの記憶を元にこの家を復元するために、『時戻りときもどり』を使った。本来ならば、小さな物や乗り物などに使う魔術なのだが、大きな物でも問題ないはずだ。


集中し、まるで積み木を積み上げるような感覚で、家を復元していく。


「はぁ…はぁ…出来た」


しかし、なんだこの魔力の消費量は。以前使った時はこんなはずじゃなかった。対象物の大きさと魔力の消費は比例しないはずなのに。俺は魔力切れのせいで視界が真っ暗になった。


「わぁっ…す、凄い!ってセラぁ!?」


アオは倒れたセラを見て、急いで駆け寄った。


「セラ!大丈夫!?セラ!」


アオはセラの身体を揺すったが、反応はなかった。


「そいつは魔力切れで気を失っているだけだ」

「え……」


アオは男の声に反応し、そこにはセイルが呆れた様子で現れた。セイルはため息をつきながら、セラに近づき、ゆっくりと肩を持った。


「お前がコイツの番か?名前は?」

「うん、私は深海アオ」

「そうか…。俺はセイル・オフィラス。とりあえず、こいつをお前の家で休ませてくれ」


セイルがそう言うと、アオはすぐに二人を家の中に招き入れた。


「よいっと!」

「あっ、ちょ!?」


気を失っているセラを軽々とソファに投げた。


「安心しろ。こいつは気を失っても常に防御術を張っているから、こんなことで怪我はしない」

「だからって投げることは……」


アオはセイルの行動に呆れたが、セイルの言葉とセラの様子を見て少し安心した。

アオはセイルを椅子に座るよう促し、セイルは椅子に腰を下ろした。


「番になって間もないくせに、無理に『時戻りときもどり』なんか使うから…」

「あの、あなたとセラの関係は?」


アオはセイルにセラとの関係性を尋ねると、セイルは二人の関係について答えた。


「俺とこいつは幼なじみだ」

「幼なじみ…」

「堅物で女とも遊んだことなんてなかったこいつが、会って間もないお前のためにここまでするなんて、よっぽど気に入られているんだな」


セイルの言葉に、アオは少しだけ恥ずかしそうな表情を見せる。


「まぁ、せっかくだし!今回の件もあるし、セラが子供だった頃の話でも聞くか?」

「何それ、むっちゃ聞きたい!」


喰いついてきたアオをみたセイルは企んだ笑みを浮かべ、彼女にセラの幼少期の話を始めた。


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