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第13話 性質

海淵の底深く、光の届かぬ場所に壮大な屋敷が佇んでいた。

和式と洋式が融合した独特な雰囲気の中、集会が行われていた。


「なるほど、奴らは我々の宣戦布告を受け入れたのか」


上座に座る男が部下の報告を受け、深いため息をついた。


「くそ!早く上の連中を殺してぇな。なぁ、テルス」

「お前と同じにするな、エンヴィー」

「何だと!?海獣の分際で、俺に口答えするな!」

「黙れ」

「っつ!?」


テルスとエンヴィーの間に緊張が走るが、一人の男がその空気を一掃した。

彼から放たれる凄まじい殺気が、二人を震え上がらせた。


「言ったはずだ、エンヴィー。俺の目の前で見苦しい真似をするな」


鋭い視線がエンヴィーを捉えた。


「わ、悪かったって、メガロドン!」

「……テルス、お前もだ。お前はまだ鰭人になってから日が浅い。ここにいる者たちはお前よりも歳上だ。……この意味が分かるか?」

「……あぁ」

「なら問題ない……」


メガロドンは二人の怯えた様子を見て、殺気を収めた。


「さて、話を本題に移そう。俺たちは先日、アトランティスに宣戦布告をした。奴らもそれを受け入れ、オーシャンバトルを行うことになった」

「神の座を賭けた戦い、オーシャンバトル。この戦いに参加する七人の戦士は、我々と深い因縁がある者ばかりだ……なぁ、リヴィアタン」

「……」


何かを知っている様子のオルクに、リヴィアタンは答えなかった。


「はっ、とぼける気か?俺は知っているぜ?お前、人間の娘がいるだろ」

「「!?」」


オルクの言葉に他の仲間たちが驚き、ざわめきが広がった。


「おいおい、あの噂は本当だったのか!」

「人間の女と番になって、ポセイドンの怒りを買ったと聞いていたが……まさか娘がいるとはな」


この世界では、オーシャンバトル以外で人間と番になることは禁忌とされている。

ましてや子を作るなど、到底許されることではない。


「何が言いたい」

「……犯すのさ。人間の女は生命力や魔力も素晴らしいと聞く。ましてやお前の娘だ、さぞ美味いだろうよ」


アルクはいやらしい表情でリヴィアタンを挑発するが、リヴィアタンの表情は一切変わらない。


「実の娘を犯すと言っているのに、なんで顔色一つ変えない……なっ!?」


そんな様子に痺れを切らしたのか、アルクがリヴィアタンに近づいたその瞬間、リヴィアタンの手がアルクの顔を鷲掴みにし、そのまま床に叩きつけた。


「俺の前で娘のことを言ってみろ、お前のその顔……このまま砕いてやろう」

「やっ、やめっ!?」


リヴィアタンは、少しずつ顔を掴んだ手に握力を加えていく。


アルクはリヴィアタンの恐怖から逃れようとじたばたするが、リヴィアタンの手から逃れることはできなかった。


そんな二人の様子を見たメガロドンが無理やり制止し、引き離した。


「やめろ、リヴィアタン」

「……」


メガロドンの制止により、リヴィアタンは手に加えていた力を緩め、アルクを解放した。


「奴の言動には問題があるが、奴は戦力としては必要不可欠だ。今ここで殺したら、計画が台無しになるぞ」

「……そうだな」


リヴィアタンがそう答えると、メガロドンは少し呆れた様子を見せた。


「これ以上、集会を続けるのは無理だな。……オーシャンバトルまでに各々で人間の番を探せ」


そうメガロドンに指示された瞬間、集会に来ていた者たちは一斉に屋敷を後にした。


一方、土地を手に入れたセラは。


「セラ!」


神殿に戻り、図書室に向かっていると、男が走ってきた。


「ん?どうした、ソフィア」

「なっ、お前何処へ行ってたらそんなボロボロになるんだよ!いや、そうじゃなくて!お前の番、あれはなんだよ!」


現在の智慧の戦士、ソフィア。

普段は図書室の司書をしているが、緊急事態時は軍師として動く。

普段は冷静なソフィアがここまで慌てる様子を見たのは久しぶりだ。


「アオ?まさか、アオになにかあったのか!?」

「とにかく早く図書室に!」


二人で急いで図書室に向かった。


「アオ!なっ!?」


扉を勢いよく開けた先に、驚愕の光景が広がっていた。


「凄い!凄い!去年新種として登録された魚の生態がこんなにも!」


アオの周りは大量の本が積み重ねられ、本の防壁ができている。

彼女は片手でメモを取り、もう片方は物凄いスピードで速読している。


「午後から来てからずっとあんな状態だ。こっちはそろそろ図書室を閉めたいのに、俺の声すら聞こえてないらしい。たく、お前の番は一体何者なんだよ」


俺もこの光景は初めて見たし、ソフィアが呆れるのも無理はないが…。


「あー…。一応、陸ではそれなりに名が知られている海洋生物学者だ」

「どうりで。クレイにしろお前の番にしろ、学者ってのは知ることには全力を出す狂人だからな」


この状態は学者というよりかは、本の虫だな。

しかし、このままだとソフィアを困らせてしまう。

俺はアオの肩に触れ、声をかけた。


「アオ、そろそろ図書室を閉める時間だ」

「っ!?セ、セラ!?あっ、もうこんな時間!?」


アオは俺の呼びかけに反応し、慌てて時計を見れば20時になっていた。


「お前さん、俺の呼びかけすら気づかないなんて、とんだ集中力だな」


ソフィアの呆れた様子にアオは申し訳なさそうな表情をした。


「あはは、ごめん。魚の事になると夢中になって、周りが見えなくなるんだよ」

「はぁ、ほらお二人さん……図書室閉めるからささっと出てくれ」


俺たちはソフィアに図書室から追い出され、時間も夕飯時だった為食堂に向かった。


「しかしセラ。土地探しに行ったのに、何でボロボロなの?」

「良い土地を見つけたが、海獣が住み着いていてな。そいつらと少し戦闘になっただけだ」


俺の返答にアオは少し難しそうな表情を見せた。


「弱肉強食な世界とは聞いたけど……まぁ、無事で帰ってきて良かった」

「怒らないのか?」

「なんで?」


俺の問いに彼女は疑問を持つ様子を見せた。


「いや、ボロボロだから」

「……ぷっ、はは!ボロボロになったから、私が怒る?セラ、君って実に面白いよね」


アオは吹き出し、俺の返答に笑って話を続けた。


「君が私と住むために土地を探しに行ったのに……その様子だと大変だったのがよくわかる。そんな君に私が怒る権利なんてないよ。まぁ、私が怒るとなれば、君が帰ってこなくなることだよ」


切なそうな表情をするアオ。

彼女は大切な者が帰ってこない寂しさを誰よりも知っている。

だからこそ、彼女のその一言は誰よりも重い。

俺もその重さを知っているからこそ……強くならなくては。

どんな戦いでも、必ず彼女の元へ帰れるように。


「アオ、先に食堂へ行ってくれ。もし食べ終わっても、俺が戻ってこなかったら、先に……」

「駄目だ」


アオは真剣な表情で俺の言葉を遮った。


「どうせ、君のことだ。今から修行する!とか思ってるんでしょ?」

「……まぁ、そうだが」

「なら、私も一緒に。本ばかり読んでいたら、身体を動かしたくなってさ」


彼女が背伸びをすると、研究で長時間座っていたせいか、軽く骨が鳴った。


「私が君の番になった以上、君を支えるなら修行をしないとね」

「ア…」


俺が彼女の名前を呼ぼうとしたその時、ぐぅ~と俺の腹の音が鳴ってしまい、気まずい雰囲気になってしまった。


「はは!腹が減っていたら、修行はできない。先にご飯を食べてからにしようか」

「そ、そうだな」


気まずすぎて、歯切れの悪い返事をしてしまった。


しかしアオはそんな俺を気にせず、嬉しそうに笑っている。


「ほら、早く食堂に行こう!」


アオは俺よりも先に食堂へ向かっていった。

彼女の様子を見て、俺も急いでその後を追うように食堂に向かった。



それから俺たちは、毎日修行に励んでいった。

もちろん、午後はアオの研究も並行して行っていたが、修行の疲れのせいか、たまに寝落ちしていることもあった。

そんな最初の一か月、魔力のコントロールに苦労していたアオは、修行のおかげでついにその技術を習得できるようになった。


「一か月ちょいで魔力のコントロールができるとは……流石、師匠の娘でもあるね」


「お父さんの魔力もあるだろうけど……この修行では、お父さんは関係ないよ。セラ、君のおかげだよ」


アオは笑顔で俺を評価してくれたが、実際のところは彼女の凄まじい集中力と、内に秘めた師匠の魔力のおかげだ。


俺はこの一か月、アオには魔力のコントロールについてのアドバイスしかしていない。


それなのに、この短期間でここまでできたのは大きな成果だ。


この調子なら、第二段階に入れる。


「魔力をコントロールできた。なら、次は俺とお前の番としての性質を見よう」


「番としての性質?」


番の性質。


オーシャンバトルにおいて、番は共に戦わなければならないが、番と共に戦う方法は三つある。


一つ目は合体型、二つ目は指示型、三つ目はサポート型。


番になればこの方法のどれかに当てはまるのだが、それを確かめるには性質を見なければならない。


「確かめるってどうやって?」


「これを使う」


俺は腰の鞄から小さな魔石を二つ取り出し、一つをアオに渡した。


「魔石?」

「それは黒海石こっかいせきといって、魔力の性質検査によく使われる魔石だ。こうやって、石に魔力を流し込めば」


アオの目の前で魔石に魔力を流し込んだ瞬間、魔石が俺の魔力に反応し、深い藍色に光った。


「石が反応している……」

「魔力の性質によって、この魔石の反応が変わる」


赤は攻撃の魔力、青は魔術の魔力、緑は回復の魔力、そして藍色は一番珍しい防御の魔力。

しかし、今回は魔力の性質ではなく、番の性質。

俺も番の性質を見るのは初めてで、成功するかは分からない。


「とりあえずアオ。俺の手を握って、もう片方は魔石を掌に置いて」

「え?あ、うん」


アオは俺の指示通り、俺の手を握り、魔石を掌に置いた。


「俺がアオに合わせるから、ゆっくりと魔石に魔力を流し込んでくれ」

「分かった」


彼女はゆっくりと深呼吸し、魔石に魔力を流し始めた。

俺も彼女に合わせながら、彼女の魔力を伝い魔石へ流し込んだ。

すると、魔石は俺とアオの魔力に反応し、光り始めた。

光は少しずつ赤と青の二色を放った。


「こ、これは……」

「何が分かったの?」


赤と青の光、どうやら俺とアオの番の性質は合体型のようだ。


「どうやら、俺とお前の番の性質は合体型だ」

「合体型?」

「俺とお前が合体して、戦う型だ。俺もまだ詳しくは分からないが……性質が分かった以上、明日から性質について調べないとな」


俺は番の性質を調べるのと並行に、アオの修行メニューを考えないと。

しかし、二段階目の修行は実践も入れないといけないが、いかんせんアオは人間。

人間の実践はどうやって考えればいいものなのか……。

今は無理に考えても仕方ない、調べるだけ調べてみよう。


俺は性質について調べるべく、一番詳しいであろうあの女に、聞くことにした。


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