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第14話 番

番は、一般的に動物のペアやカップルを指し、特定の相手と結びついている関係を強調する言葉。

しかし、この世界での番は一心同体を示す言葉だ。


鰭人同士の番は互いの魔力を供給するだけだが、鰭人と人間の番は互いの力を解放し、魂までも一心同体となる。


暗い洞窟の中、リヴィアタンとメガロドンがいた。


「本当にいいのか?リヴィアタン」

「…あぁ。俺の番はあいつだけだ。俺の体にあいつの魂を常時合体させる…できるのはお前と俺だけ。それに、お前も番を呼び出したいだろ?」

「……そうだな。この計画は何としても成功しなければならない。たとえそれが世界を敵に回すことになってもな」


リヴィアタンとメガロドンは地面に術式を展開した。


「この魂の呼び寄せには代償が伴う。もし、お前が無事だったら、計画を実行しろ」

「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」


魂の呼び寄せ。代償を払い、生死問わず魂を呼び寄せることができる。

しかし、魂を呼ぶには相応の魔力が必要となり、代償の大きさや必要な魔力量から考えて、魂の呼び寄せは禁術とされている。


メガロドンとリヴィアタンは魔力を術式に流し込むと、術式は魔力に反応した。

反応した術式から、魔力の渦が現れ、リヴィアタンとメガロドンを呑み込んだ瞬間、魔力の渦と共に赤い血が吹き出した。


「つっ…はぁはぁ…禁術と言われている以上、代償は大きい…」

「はぁはぁ……その代償は呼び寄せる魂との関わりがあるものだ…」


魔力の渦が収まり、再び2人の姿が現れたが、2人は身体の一部を失っていた。

リヴィアタンは左目、メガロドンは右腕を失った。


「止血を……つ!?」


2人は止血をするため、自力で治癒術をかけようとするが、先ほどの術のせいで魔力がほとんど残っていなかった。


「……魔力が残っていないだと」


このまま止血できなければ、最悪死んでしまう。

2人は最悪な考えが過ぎったとき、1人の男が姿を現した。


「これだから肉体系は…。カヲルちゃんから話を聞いて来てみれば、なんなのよこの有様は」

「リィゲリア!?なんでここに……」

「そんなことはどうでもいいから!ほら、メガロドン、腕を見せなさい。今止血してあげるから。そのあとにリヴィアタンね」


リィゲリアはメガロドンの腕に優しく触れ、術式を展開すると、無数の医療器具が現れ、メガロドンの腕の傷口を瞬時に治していった。

続けて、リヴィアタンの傷を治しながら話し始めた。


「本当に私たち鰭人は番を持つと厄介になるわね。番は一心同体。それに、人間の番を持てばなおさら…自分を犠牲にしてまで番と一緒に居ようとする」

「……」


リヴィアタンは静かに瞳を閉じ、再び開くと、失われたはずの左目に赤い瞳が現れた。


「どうやら、術は成功したみたいね」


2人の様子を見て、リィゲリアは少し安心した表情を浮かべた。


「さてと…私はそろそろ行くわ。……あ、そうそう!神殿にいる私の教え子からの情報だけど、オーシャンバトルの対戦相手が分かったみたい。一回戦……リヴィアタン。相手はあの坊とアオちゃんよ」


リィゲリアの言葉にリヴィアタンは温かい表情をした。


「……そうか」

「あの2人頑張っているみたいだから、アンタも手加減しないようにしないと」


リヴィアタンは一呼吸して、先ほどの表情から鋭い表情に変えた。


「当然だ。たとえ弟子だとしても手加減はしない」

「ふふ、相変わらずね。じゃぁ、試合の時は幼なじみとして観に行ってあげるから」


そう言ってリィゲリアは洞窟を後にした。


その頃、修行場ではセラとアオが修行に励んでいた。


「右、左!」

「っ、ちょっと早い!」


あの後、クレイに性質について教わった後、俺はアオに合わせた修行メニューを考案した。

合体型は番において、最も一心同体と称される型だ。

互いの肉体と精神を融合させるため、二人の身体と心を鍛えることにした。


「っつ……きつい……」

「……」


アオはその集中力のおかげで修行を難なくこなし、その結果、魔力量が増加している。

それに伴い、肉体も成長しているのだが……どうしても視線が下に行ってしまう。

頑張っている彼女に対して不謹慎だと自覚しているが、彼女の姿が愛らしく、目のやり場に困ってしまう。


「ん?大丈夫?」

「ん、あぁ。だ、大丈夫だ」

「ならいいけど……」


心配そうに見つめる彼女の表情は、汗で濡れた肌のせいで俺の心を揺さぶる。

冷静になろうと自分に言い聞かせるが、どうやらその気持ちは収まりそうにない。


アオと番になってから暫く経つが、あの夜以降交尾はしていない。

それにオーシャンバトルも近い。クレイが言っていた同調率を上げないといけないのだが……。

アイツが言うには、手っ取り早く上げるには交尾が一番いいらしいのだが、俺自身彼女にそれを持ち掛けるのが恥ずかしくて言えない。


「はぁ……」

「おっ、珍しく溜息をついているじゃねーの」

「ん?任務から帰ってきたのか、オルカ」

「まぁな。今さっき帰ってきたんだが、腹が減ってな。食堂に来たら、お前が恋する乙女みたいな状態だもんだから……なにかあったのか?」


興味ありげに聞いてくるこの男は、精進の戦士オルカ。

シャチ族をまとめている族長でありながら、七戦士としてアトランティスの国境を守っている。


「何かあったというか…。どうやって相手に交尾を持ち掛けようか分からなくてな」

「あははは!なんだよ、凄い悩んでいる表情していたから何かと思えば、そういうことかよ!真面目なお前から、そんな悩みが出るなんてな」


愉快そうに笑うオルカだが、俺の悩みに対して答えてくれた。


「そういう時は、寝る前とかに誘えばいいんだよ。後ろから抱きしめて、甘い言葉を囁けばいちころだ」

「相変わらずお前ってやつは…」


番ができてからはやらなくなったらしいが、この男はかなりの女好きだ。それもあって、女が喜びそうなことを軽く言えるのがちょっと残念な部分なのだが……。この際だ、オルカの提案に乗っても良いのかもしれない。


「お前の案、試しにやってみるか」

「おっ、やれ!やれ!報告待っているぞ~」


俺はアオと交尾をするために、準備することにした。

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