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第18話 覚悟

「……ラ……セラ!」

「っつ!?」


アオの呼びかけに気づいて、目が覚めた。


「うなされていたけど、大丈夫かい?」


アオが心配そうな様子で俺をのぞき込んできた。


「あ、あぁ……大丈夫だ」


まさか、久しぶりにあの日の夢を見るとは思わなかった。ゆっくりと上体を起こすと、額から汗が垂れ落ちた。


「一先ずお風呂に入ってきなよ。その間にホットミルクでも作っておくから」


アオにそう促され、俺は風呂場に向かった。


「まさか、夢で見るなんてな」


酷い寝汗をお湯で洗い流し、ゆっくりと温泉に浸かった。


「…ふぅ」


脚を伸ばし一息つくが、どうもセイルに言われたことが頭から離れない。


『逃げるな!お前は、何のために身分を隠し、戦士になったんだよ!一族の復讐のためだろ!』


復讐――。

俺とセイルはあの日から、一族の復興とあの男への復讐を胸に秘めていた。

戦士になってもその思いが消えることはなかったが、アオと番になって、彼女を巻き込みたくないと避けてきた。

今は避けたいと思う感情と、話さないといけない感情がひしめき合い、混ざり合っている。

こんな感情のままオーシャンバトルに参加したら、戦いに支障が出てしまう。


だが、そんな感情をかき消すかのように、アオの言葉が頭をよぎった。


「お互いを信じて……か。そうだよな、あいつは俺を信じているんだ。俺もあいつを信じないとな」


俺はアオに自分の事を話すために風呂場を後にした。


「おや?早かったね、気持ちは落ち着いたかい?」

「まぁ、なんとか」


俺は椅子に座ると、アオは優しく聞いてきた。


「そっか、ホットミルク飲むかい?」

「あぁ……」


俺が答えると、アオはマグカップに温めた海牛かいぎゅうのミルクを注いだ。


「ほら、はちみつ入りだから飲みやすいよ」

「ありがとう」


彼女からホットミルクが入ったマグカップを受け取り、やけどしないようにゆっくりと飲んだ。

カップを机に置くと、彼女も椅子に座り、ホットミルクを飲み始めた。


「アオ」

「なに?」

「お前に話さないといけないことがある」

「……」


俺の言葉に、アオは平静な様子になり、そのまま彼女に俺のことを話した。

彼女は真剣に俺の話を聞いてくれたおかげで、なんとかすべてを伝えることができた。


「こんな感じだが……って、アオ!?」


彼女はなぜか涙ぐんだ表情を浮かべ、俺は思わず愕然としてしまった。


「セラァ…ヒック…君は大変な思いをしてきたんだね」

「あっ、えっと、とりあえず涙を拭け」


アオにタオルを渡すと、彼女は受け取って涙をふいた。

まさか、泣かれるとは思わなかった。

俺は彼女が泣き止むまで、黙って待つことにした。


「落ち着いたか?」

「……うん、大丈夫」


アオは少し落ち着きを取り戻したようで、ゆっくりと口を開いた。


「セラの過去に何があったのかは分かったよ。話すのが辛いだろうに、私に話してくれてありがとう」

「……もし、この話を聞いて何か起こったら、その時は逃げろ」


俺の言葉にアオは一瞬固まったが、彼女は深呼吸して話し始めた。


「私は逃げない」

「なっ!?死ぬかもしれないんだぞ!?」

「それでも、逃げない。君はおそらく、私に話すまでに色々悩み苦しんできたはずだ。そんな君が私を信じて話してくれた。だから、置いて逃げるなんてできない」

「アオ……」

「それに、番になった以上、君の苦しみもいつか私が晴らしてみせるよ」


あぁ……彼女はなんて優しいんだろう。普通の人なら、こんな話を聞いたら否定的になるはずなのに、彼女はすべてを受け入れる覚悟を見せている。

その姿は、あの夜の勇ましい彼女と同じで、嬉しさからなのか言葉が出てこなかった。


「あれ?セラ?おーい!大丈夫か?」

「大丈夫だ。ありがとう、アオ。おかげですっきりした」

「よかった!さっきより表情が良くなっているし、歯を磨いて寝ようか」


アオは背伸びをして椅子から立ち上がると、そのまま歯を磨きに行った。俺もカップを片付けて、後を追うように向かった。

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