あの日、俺はセイルと一緒に狩りを終え、いつものように帰路についた。
「今日は獲物がたくさんだな!」
「とと様とかか様、喜んでくれるかな?」
「これだけ獲れたら、きっと大喜びだろうよ!」
俺たちはいつも通りの会話を交わしながら、里へと向かった。
しかし、里に近づくにつれて、何か異様な雰囲気を感じ始めた。
「おい、なんか里がやけに静かじゃねーか?」
その静けさから、胸に嫌な予感が広がった。
「まさか……とと様!かか様!」
「お、おい待て!セラ!」
セイルの呼び止めも耳に入らず、俺は急いで向かった。
息を切らしながら里の入り口にたどり着くと、目に飛び込んできたのは悲惨な光景だった。
「はぁ、はぁ、なんで……みんな」
「お、おいセラ……っつ!?」
後から来たセイルも、その光景を目の当たりにして言葉を失った。
「とと様、かか様……」
俺は目の前の状況に恐怖で身体が硬直し、最悪の事態を考えてしまった。
そんな俺を見たセイルは、無理やり俺の腕を掴んできた。
「とにかく、今は屋敷に向かうぞ!」
「う、うん」
セイルの言葉で我に返り、二人で屋敷へと向かった。
屋敷の方から煙が立ち上っており、それを見た俺とセイルは急いで向かった。屋敷の門をくぐった瞬間、目の前には無残に破壊された屋敷が広がっていた。
「とと様!かか様!」
「止まれ、セラ!」
「っつ!?」
破壊された屋敷の中に入ろうとしたその瞬間、セイルの呼び止めと同時に、俺の前に一人の男が現れた。サメ族特有のエラと鰭を持ち、今でもその視線はまるで殺すかのように鋭かった。
「あっ……」
男の放つ殺意に、俺とセイルは恐怖で手と足が震え、動くことができなかった。
「なんだ?まだ生き残りがいるのか」
男は俺たちに気付き、ゆっくりと手を伸ばしてきた、その時だった。
「セラ!」
「セイル!」
父の声が響き、気が付くと俺たちの目の前に父が現れていた。
「とと様!」
「セラ、無事か?」
「うん」
「セイルも無事のようだな」
「うん」
二人は、俺とセイルが無事であることを確認すると、すぐに目の前の男に視線を戻した。
男は俺たちから視線を外し、今度は父親に目を向けた。
「四億年前から続く紺碧の一族。悲しいことに、お前たちの一族は神によって滅ぼされなければならない」
「なんだと!?」
男の言葉に、セイルの父親は反論し、即座に武器を構えた。
「お前たちはこの世界の真実を知ってしまった。俺は神の処刑人だ。お前たちの一族を、一人残らず殺す!」
「そんなことをさせるか!」
「父ちゃん!」
男はセイルの父親に一瞬で近づき、手刀で切りつけようとした。
「死ね」
しかし、セイルの父親はそれをギリギリで避けた。
「はあっ!」
男からの攻撃をかわした後も、セイルの父親は攻撃の手を緩めず、男の隙をついて反撃を繰り出した。
しかし、男はセイルの父親の攻撃を難なくかわし、簡単に片手で受け止めた。
「ぐっ!?」
その瞬間、男は再び手刀を振りかざした。
手刀がセイルの父親に当たる直前、セイルの父親は男の腹部を蹴り飛ばした。
「父ちゃん!俺も戦う!」
「来るな!」
その様子を見たセイルは、父親に駆け寄ろうとしたが、一喝された。
「セイル、お前は絶対にセラ様を守れ。お前は賢い子だ。お前なら父ちゃんよりも強くなれる」
「なんでだよ!父ちゃん!離せ!今、父ちゃんを助けないと!父ちゃんが!」
「お前たちが加勢したところで、邪魔になるだけだ!」
「で、でも!とと様は…」
俺の問いに、父は優しく俺とセイルの頭を撫でた。
「お前たち、よく聞け。これからお前たちを私の友人の場所へ飛ばす。その者に、これを渡せ」
父は首にぶら下げていた長の証を俺に渡した。
その時、父親の顔はとても穏やかで、これから起きることを悟っているようだった。
俺はその手をぎゅっと握りしめたが、父親が握り返してくることはなかった。
「セラ、愛している」
父に言われた瞬間、転移術が展開された。
「とと様!」
「父ちゃん!」
必死に術式から出ようとするが術式に結界が張られ、出ることが出来なかった。
自分が非力さ故に、自分の父親を助けることは出来ず、男にやられる二人の後ろ姿が俺たちの目に焼き付いた。