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第16話 ライバル

「おーおー!セラ!すっきりした顔してんなぁ!」

「オルカ」


朝から元気に話しかけてくるオルカ。

そんな彼の隣に、女性がいることに気が付いた。


「ん?お前の隣にいるのは……」

「俺の番だ。名前は一ノ瀬遥いちのせはるか

「……よろしくお願いします」


一ノ瀬は静かに挨拶を返してきた。

しかし、オルカにしては珍しいタイプの女を選んだものだ。

こいつのことだから、もっと派手なタイプを選ぶと思っていたが、まさかの大人しめな女を選ぶとはな。


「そういえば、お前の番は?」

「アオか?アオなら、相変わらず図書室で調べ物をしている」

「図書室で調べ物するなんて、真面目な奴だな」

「真面目かどうかは……」


真面目かどうかは疑問だが、アオは魚のことになると徹底的に調べないと気が済まない。


「まぁ、オーシャンバトルになれば顔を合わせるだろうし、その時まで楽しみにしてるぜ。また、例の件について詳しく聞かせてくれよー」


そう言って、オルカと一ノ瀬はその場を後にした。


「さて、俺もそろそろ修行を始めるか」


修行場へ向かい扉を開けると、珍しくセイルがいた。


「セイル。お前が修行場にいるなんて珍しいな」

「ちょっと身体を動かしたくなったんだよ」


セイルは軽やかに身体を伸ばした瞬間、素早く槍を召喚し、俺に切っ先を突き付けた。


「せっかくだから、少し付き合えよ」


セイルの三白眼の真っ黒な瞳が俺を捉えた。


「俺もちょうど身体を動かしたかったところだ」


腕に術式を展開し、構えた。

俺とセイルの間に静かな空気が漂い、互いに深呼吸をしたその時。


「行くぜ、セラァ!」


セイルが素早く俺に仕掛けてきて、槍の切っ先が俺の首に触れる寸前で振り払った。

しかし、セイルはすぐに態勢を整え、連続で攻撃を仕掛けてきた。


「相変わらず速いな」

「お褒めの言葉、感謝するよ!」


セイルが槍を振り回した瞬間、姿が消え、殺気を感じて下を見たら、セイルが俺の顎を狙っていた。


「……っつ!?いつの間に」

「お前が修行している間、俺も鍛えてたんだ」


俺はギリギリで上手くかわしたが、セイルはその隙に俺の顔に蹴りを入れた。


「んぐぅ!」


防御術を破壊された!?今までの組み手で破壊することはできなかったはず。

セイルの蹴りで頭が揺れ、一瞬身体が動かなくなった。


「はは!一本もらったぜ!」


まずい、このままだとセイルに負けてしまう。

こんなところで敗北していたら、師匠に勝つなんて夢のまた夢だ!

動け、俺の身体、そして食らいつけ!

俺は自分の唇を強く噛み、無理やり身体を動かして態勢を変え、セイルの脚を掴んだ。


「それはどうかな!」

「なっ!?まさか!?」


セイルは俺の腕から逃れようと暴れたが、俺はしっかりと掴んでいた。


「くらえぇ!」


魔力を右腕に集中させ、一気にセイルの頬に叩き込んだ。

俺の拳の衝撃波によって、土煙が舞い上がった。


「はぁ…はぁ、俺の勝ちだな」

「なぁにが俺の勝ちだ!お前、さっきの一撃、本気で俺をやろうとしただろ!」


土煙の中から頬に治癒術をかけながら、セイルが一喝する。


「お前のことだ、これだけでは死なないだろ?」

「だからって、限度はあるだろうよ!……たくっ、お前といい、師匠さんといい」

「なんだ?師匠にも同じ技をくらったのか?」


セイルは手に持った槍を収め、呆れた様子で話してくれた。


「昔、お前があの人の弟子になったと聞いて、俺も弟子入りしようと頼んだんだが……」


百十七年前――。


「なんでだよ!どうして、セラは良くて俺は駄目なんだよ!」

「お前には素質がない」

「そんなこと、やってみないと分からないだろ!」


セイルのしつこい申し出に、リヴィアタンは頭を抱え、ため息をついた。


「はぁ、分かった。なら、魔力を出してみろ」

「ちゃんと見ててくれよ!」


セイルはリヴィアタンの目の前で、魔力を放出した。


「どうだ!」


自信満々でリヴィアタンに問いかけるが、リヴィアタンは険しい表情を浮かべた。


「……駄目だ。お前には才能がない」

「はぁ!?ちゃんと見たのかよ!」


リヴィアタンの言葉に納得できない様子のセイル。

認められないことが悔しいのか、セイルはリヴィアタンに挑発的な態度を示した。


「もしかして、俺の強さにビビ……」


セイルがリヴィアタンに言いかけたその瞬間だった。

光のような速さで、セイルの頬に拳が入った。


「がはっ!?」


セイルは何が起きたのか理解できず、そのまま地面に倒れ、気を失った。


現在に戻って――。


「それで、師匠のイッカクさんのところで目が覚めて、そのまま弟子になったわけさ」


セイルからこの話を聞かされたのは初めてだった。

あの師匠のことだから、修行の妨げにならないようにと黙っていたのだろう。

それにしても、子どもにあのパンチを入れるなんて、相変わらず恐ろしい。


そんなことを思っていたら、セイルがあることを聞いてきた。


「お前、アオにあのことは話したか?」

「……」

「その様子だと話していないみたいだな。そろそろ話したらどうだ?お前の番になった以上、避けられない運命なのは分かっているんだろ?」


セイルの言葉は俺の心の痛いところを突いてきた。


「分かっている!……でも」


咄嗟に反論しようとするが、言葉が詰まってしまった。

そんな俺に痺れをきらしたのか、セイルは近づき、俺の胸ぐらを掴んできた。


「逃げるな!お前は、何のために身分を隠し、戦士になったんだよ!一族の復讐のためだろ!忘れていないだろうな?俺とお前の父ちゃんが俺たちを逃がすために……」


剣幕な様子で俺に怒鳴るものの、胸ぐらを掴んでいる手が震えていた。


「忘れるものか!一度も……あの日を忘れるものか……だけど、アオを復讐に巻き込みたくない!」

「だったら尚更…あいつにちゃんと話せ。お前が生きていると知れば、どんな手を使ってでも殺しに来る」

「……分かった」


セイルは俺の胸ぐらから手を離し、ゆっくりとその場から立ち去ろうとした時だった。


「もし、あいつに話して何か起これば、その時は俺がフォローする」


そう言って、セイルは修行場を後にした。

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