目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第28話

どうにかここから逃げ出す方法を考えていたその時だった。


「ん?何だ!」

「どうしたの?」


見張っていた他の鰭人たちが騒ぎ始め、上を見ろと叫んだ瞬間、突如としてザバァ!と大きな波と共に何かが現れた。


「なっ…!?」


それは、普通のクジラよりも一回り大きく、鋭い歯を持つクジラだった。突然現れたそのクジラは、次々と鰭人たちに襲い掛かっていく。


「クジラ…」


襲いかかるクジラを見て呆然とした私を、クジラは一瞬見つめた。初めて見るクジラなのに……そのコバルトブルーの瞳、私は知っている……。彼だ、彼が来てくれた!


「リヴィアタン!」

「なっ!?この女、動くな!」


抑え込まれ、何とか抜け出そうともがき、鰭人に頭突きをして、その手が離れた隙をついて彼の元へ向かった。


安心感と彼への思いで、私の脚はどんどん速くなっていく。


「リヴィアタン、今い……」


あと少しで彼の元に辿り着ける、そう思ったその時だった。


ドン!


「……へ?」


私の胸に白い光が貫通した。ゆっくりと胸を見下ろすと、そこには風穴が開いており、気が付けば吐血して膝から崩れ落ちていた。


「あれ……?私……死ぬの?」


意識が朦朧とする中、クジラだったリヴィアタンが元の姿に戻ったのが目に入った。


「ホタル!」


一瞬の出来事だった。彼女の胸を、弓矢のようなもので貫かれた。


「原罪の矢。やはり、海を捨てた人間にはこれが一番いい」


ホタルが倒れた背後で、男は冷静に大きな弓を構えていた。私は素早く男に詰め寄り、彼女から男を引き離すように攻撃を仕掛けた。


「ぐっ!」


男は間一髪、弓でガードしたが、反撃する余裕はないようで、少しずつ後ろへ押されていた。私はその隙をついてホタルの元へ戻り、彼女を抱えて一旦退くことにした。


「死ぬな、死ぬな……」


私は彼女の出血を止めるために治癒術をかけたが、あの弓矢の特性なのか、術で出血を止めることができなかった。


「だめだ、だめだ……」


このままだとホタルが死んでしまう。彼女を救う最後の方法は……。


「無理やりだけど」


私は穴が開いた彼女の胸に手を置き、彼女の唇に優しく重ねて詠唱した。


「古の海よ、波のさざめきよ、血と肉を纏いて、我が願いを受け入れ、永遠の契約を結ぶ時、己の名リヴィアタンを刻み、番の契約をここに結べ」


詠唱が終わると同時に、ホタルの胸から血が勢いよく飛び散り、その血が俺を包み込むように広がった。その血に混ざるように、俺とホタルの意識と身体が重なり、彼女の感情や記憶がすべて俺の中に流れ込んできた。そして、俺とホタルは一つになった。


「ホタル、少し痛いかもしれないが、我慢してくれ……」


彼女が意識を取り戻す前に、すべてを終わらせる。俺はホタルと一つになった姿で、再び奴らの元へ向かった。


「隊長、どうします?」

「しばらくここにいる。なんせあの男のことだ、ここに……」

「そうだな」

「つ!?」


俺は奴らの背後を突いて素早く奇襲をかけた。


「その姿…お前、あの女と契約したな!リヴィアタン」

「あぁ。本来俺は契約をしなくても強い。しかし、お前たちがホタルを傷つけた以上、俺はお前たちの肉を残さず叩き潰してやる」

「ちっ!なんとしても奴を捕らえよ!」


兵士たちが俺に向かって攻撃を仕掛けてきたが、俺はそれを避けながら次々と奴らの首を斬っていった。顔に返り血を浴び、俺が通ったところは赤く染まっていく。

あぁ、怒り狂った獣のような姿を彼女には見せたくない。

内心、自分の弱さと目の前の現状に失望し、彼女に対する罪悪感が増していく。


「隊長!このままでは!」


奴らの攻撃が徐々に弱まっていく。

俺はそんな奴らを容赦なく切り刻んでいった。

そして、最後の一人になった時、男は弓を構え俺に話しかけてきた。


「……リヴィアタンよ。何故お前はそこまでして強いのに、人間側に着く?今お前が戻ってきたら、ポセイドン様は許すと言っている。戻ってくる気はないのか?」

「ない。俺がホタルの番になった以上、俺はホタルを命と双璧の名をかけて護る」


男の問いに俺は答えた。


「……残念だ。死ね!」


男が矢を放とうとした瞬間、俺は素早く踏み込み男の首を斬り落とした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?