寮に戻ると、オクト君が慌てた様子で声をかけてきた。
「やっべ、ちょっとトイレ行ってくるわ! 先戻っていてくれ!」
一階にあるトイレへと向かって行ってしまった。
置いて行かれた私は、とりあえず部屋に戻ろうとした……時だった。
「おや、おかえりなさい。イグナート卿」
声をかけられた方へ向くと、そこにはランベールさんがニコニコと優しい笑顔で立っていた。
「ランベールさん! ただいま戻りました!」
そう言って挨拶をする私に、ランベールさんが再度微笑む。
「ふふふ、ええ。そのご様子では楽しまれたようですね?」
「はい、楽しかったです!」
「それは……素敵な事です」
「素敵でした! ルクバトって良い街ですね!」
「それは何よりです。ふふふ」
そんなやり取りをしていると、オクト君が帰ってきた。
「先に部屋戻っていていいっつったのに」
「いえ、ボクが引き止めてしまったのですよ、オクタヴィアン卿。責めないで差し上げて下さい」
「ん〜? 話が見えねぇけど……わかりました。おい、イグナート行こうぜ?」
「うん! じゃあランベールさん失礼します!」
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部屋に戻ってすぐに、疲れが襲ってきた。
不意にテーブルの上にお水の入ったコップが置かれた。顔だけ上げると、オクト君が優しい笑顔で返す。
「お疲れさん。これ飲めよ!」
「ありがとう! 頂きます!」
そう断りをいれて、私はお水を口に含む。動いたからか、やっぱり美味しい!
「なぁ、イグナート」
突然声をかけられて、視線を向ければオクト君が少し言いにくそうに口を開いた。
「今日の激、楽しかったか?」
「う、うん。オクト君は違う?」
訊き返せば、オクト君は深く息を吐いた。
え? どうしたの?
困惑していると、オクト君が静かに語り始めた。
「あの劇団さ……俺の身内がやってんだよ。まぁ俺は性に合わなくて、騎士団にはいったんだけどよ? それから……きまずくて、さ?」
なるほど。なんとなく理解した私は、オクト君に向かって再度声をかけた。
「オクト君。家族って難しいものだ……と思うんだけどね? でも、だからこそ。大切にしあえたりするんじゃないかな?」
『前世の私』なら言えなかった言葉。でも、今のイグナートだからこそ言える言葉を伝えると、オクト君はぎこちなく微笑んだ。
「そうだな……。うし、出歩いた事だし、湯浴みするか!」
「そ、そうだね……」
まだまだ慣れない『男』としての日々だけど……悪くない。
うん、悪くないね。
二度目の人生って奴も――