無事に手続きを終え馬達も休ませられることになり、私達は用意されたホテルに辿りついた。
船旅と人命救助、そして何より……山を登るための体力回復のため、四日間滞在するらしい。
本当は今すぐにでも行きたいくらい、気持ちは焦っているけれど……。オクト君も同様だったしくて抗議したが、ブリアック卿の『判断を間違うことなかれ』の一言で、冷静になったようだった。
今回は私とリュドヴィックさん、オクト君とブリアック卿、そしてアンドレアスさん一人の部屋割りだった。
思えば、ポーリスではベルちゃんがいたし、ルクバトではオクト君と寮生活だったからなんだかんだでリュドヴィックさんと二人は初めてだな。
……色々あったな。最初は、まさかこんなことになるなんて思ってなくて、ただただはしゃいでたっけ……。
あれからまだどれくらいだろう? 半年くらいかな? なんか、不思議だ。
そんなことを思いながら、私はリュドヴィックさんとともに部屋に荷物を置く。
「イグナート。少し話せるか?」
そうリュドヴィックさんに言われたので、私は返事をした。
「え、あ、はい?」
本当は少し、休みたかったけれど、リュドヴィックさんの目は真剣だった。
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大きめなベッドが二つ、両サイドに置かれた広い部屋で、私達は向かい合うように中央のテーブルを挟んで座る。
しばらくして、リュドヴィックが口を開いた。
「お前のことだが……」
「は、はい……」
なんだろう? あまりの真剣さに思わず背筋が伸びる。
「もとは監視のため、騎士団に入れたんだがな……。正直に言え。お前は今後どうしたい?」
「へ?」
いきなりすぎて思わず間抜けな声が出た。今まで訊かれたことなかったし……。
「その……考えてなかったと言いますか……今後って?」
「お前は確かに『勇者』の素質がある。あの『ギフト』といいな? ただ、オレ個人の意見を言わせてもらえば、お前にはお前の人生がある。だから――」
『どう生きたいのか、考えろ』そう言われて、私は……言葉に詰まってしまった。
だってそれは……。その言葉は……『前世』でお父さんに言われた言葉そのままだったからだ。
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それから。
リュドヴィックさんはしつこく訊かず、自由時間ということで私は部屋で休ませてもらうことにした。騎士団服を脱ぎ、ラフなTシャツに黒いパンツを履き、ベッドに横向きで座る。
そして……両手を交差させて、ため息を吐いた。
「……どう生きたいかか……」
馴染むことに必死で考えてもなかったし、今だって『勇者』の素質があるから、命令だから、アウストラリス山を目指している。
正直に言えば、私のやりたいことじゃない。
流されるまま訓練して、戦って……そして、悲しいことが広がっていて。
こんなこと望んでなんていなかった。私はただ……。
「でも……今はそうじゃないんだ。出会った人達、そして、少しでも私の『力』で悲しみが消えるなら……」
戦おう。
――そう思った。