第15話☆カタツムリ
「あっ。カタツムリだぁ」
長い雨の日が続き、どこからかカタツムリが姿を現した。
屋根の上でぼくはカタツムリに手を伸ばそうとした。
「あっ、ダメ!素手でさわったらだめよ!」
お隣さんが見とがめて言った。言ったというより叫んだ。
「なぜ?」
「寄生虫とか病原菌とかいるかもしれないのよ!ちょっとそのまま待ってて」
透明なプラスチックの虫かごとキャベツの葉を数枚持って、お隣さんが戻ってきた。
キャベツの葉を差し出すと、カタツムリがゆっくり上ってきた。
「観察するんだったらこれに入れて貸したげる」
「うん。ありがとう」
一式もらって、自分の部屋に戻る。と、お隣さんも当然のようについてきた。
「これ、口はどうなってるのかなぁ?」
キャベツの端から見えない口がキャベツを食べる。
「カタツムリの口には歯舌(しぜつ)という器官があって、コンクリートでも砕いちゃうくらいすごいのよ」
「こえー」
「カタツムリは雌雄同体で、恋矢という器官を相手に刺して交尾します」
「あー!やけにくわしいと思ったら、あんちょこ持ってる」
お隣さんはべえ、と舌をだしながらカタツムリ図鑑を背後から取り出した。
「あなた、カタツムリは奥が深いのよ。研究するつもりなら、こういう手引書が必要よ」
「うーん」
そこまで興味はないかも。ぼくはカタツムリにキャベツのおいしいところを食べるだけ食べさせると、屋根に逃がしてやった。
「ニンゲンも雌雄同体だったらよかったのにね」
「なんで?」
「同性でも魅力的な人とかいるじゃない」
「そうかなぁ?ぼくは同性には性欲はわかないよ」
「じゃあ、私のことはどう思う?」
「……君は」
「君は?」
「お隣さん」
彼女は精神的にずっこけて、ぷりぷり怒りながら虫かごを持って帰っていった。
あとにカタツムリ図鑑を残していった。
ぼくはページをめくって、
「怖いよー怖いよー」
と言い続けた。