頭が割れそうな痛みと吐き気。
「今回の収穫は、ひとり?」
「最近は失敗ばかりだったしな。ひとりでも、成功したならいいだろ」
ひどく耳鳴りのような頭痛の中、誰かの声がするが、全く理解できない。
むしろ、頭痛がひどくなる気がするから、黙ってほしい。
考えることすら億劫だ。
重く伸し掛かってくる瞼に、抵抗する気力はなく、そのまま瞼を閉じた。
「――――」
「――――」
「―― ヘイ」
誰かの声に意識が浮上してくる。
「ヘイ。お目覚めの時間だぜ? 嬢ちゃん」
小刻みに揺れる床と誰かの声。
自分に呼びかけられているような気がして、瞼を開けば、だるさは残るが、割れるような頭痛は無かった。
これなら起き上がれそうだと、体を起こし、顔を上げれば、目の前には檻。
それから、こちらを見下ろす青白く光るスーツの、何か。
「…………」
そいつの頭部は、薄型のディスプレイのようで、少なくとも人間とは思えないのに、体は人の形をしていた。
着ぐるみだとしても、頭部のディスプレイの厚みは、頭が入るほどではない。
”人間”と称するには自信がないが、他に何かと問われると、全くわからなかった。
「グッドモーニング。良い朝だな」
「……はい?」
檻の向こうにいるそれも理解できないが、状況も全く理解できない。
「挨拶だ。それもわからないのか?」
「え、あぁ、はい。おはようございます」
檻は、どうやら私を捕らえるための物で、鍵は向こう側についている。
目の前のそれにつけた方がいいと思うのだが、状況的には、目の前のそれが私を捕らえているということだろうか。
「状況が飲み込めてないみたいだな」
飲み込める要素がないと思う。
ただ、目の前の画面に映された顔文字ような顔のおかげで、辛うじてディスプレイスーツの表情は理解ができた。
今は、”呆れ”。
「端的に言えば、お前は『生まれ変わって早々、売られそうになってる』」
嘲笑と共に語られた言葉は、簡単には理解することはできなかった。
「どういうこと?」
「言葉通りの意味だ。お前は生まれ変わって、絶賛、オークション会場に移動中。オメデトウゴザイマァス!」
どうしよう。何も情報が増えない。
あと普通に、目の前のこいつに腹が立つ。
辛うじて理解できたのは、私が一度死んで、生まれ変わった事。
そして、生まれ変わって、早々オークションに売られるために檻に入れられていること。
それから、赤ん坊というほどではないが、自分の体は記憶にあるよりも、ずっと幼い。
「えーっと……」
整理するにも、整理するほどの情報がないということしかわからない。
そもそも、目の前のディスプレイスーツは何なのだろうか。
この際、人間かどうかは置いといて、立場としては、人身売買の関係者だろうか。
「貴方は、誰? 私を売ろうとしてる人?」
質問を口にしてみれば、脳が少し整理できたのか、フラッシュバックのように思い出される先程の記憶。
頭痛がひどかった時だ。
こことは別の場所で、眠る前に誰かの声を聞いた。
もしかして、その声の主だろうか。
「違う。あんなバカ共と一緒にするんじゃない」
「状況が飲み込めてないって、そっちが言ったんでしょ」
「…………」
少し画面がカラフルに光ると、すぐに映像の乱れは元に戻り、こちらを先程と同じ嘲笑で見下ろす。
「なるほど。確かに言ったな」
随分残念な頭ですね。
とは言わずに、続きを促す。
「…………まぁ、細かいことはどうでもいいだろ」
「細かくないんだけど」
状況もわからない。
話している相手もわからないでは、理解しようにも理解できない。
「…………ちょっとイタズラし過ぎた悪魔だ」
画面に映される、こちらを苛立たせようとしてくるウインクしている顔に、少しイラっとしてしまった。