____時は戦国乱世の時代。
室町時代を作った足利幕府の権力が衰退した影響で、各地で越権した自治やそこから派生した争いや下克上などの裏切り行為が横行していた。
戦国時代初期の天文18(1549)年、細川家から独立した三好家が天下を目指さんと産声を上げた。
「遠からんものは音に聞け! 近くば寄って目にもみよ! 我こそは
その最終決戦の戦いの火蓋は江口にて切って落とされた。
後に江口の戦いと伝わるこの戦は、結果的に三好家の勝利で終わり、当時の有力者だった細川晴元と足利幕府次期将軍だった足利義藤を近江国に追放し政治の実権を得た。
三好政権の完成である。
これが後に「戦国最初の天下人」と呼ばれる要因になったとされている。
しかし、ことは順調には運ばないもので……。
三好政権設立から12年後の永禄4(1561)年、三好家一門にして長慶を長男とする四兄弟の四男の
そこから立て続けに永禄5(1562)年、次男である
ここから三好政権は没落の道に足を踏み入れることとなった。
ーーまるで神のイタズラかのように……。
「
「お気を確かに長慶様。貴方様は存分に頑張ってこられました故、このような窮地に陥りましても天が味方してくださいますことをお祈りいたしましょう」
「何を今更申しておる。これは
「ハッ、長慶様」
気を病み半ば鬱気味となった長慶は、久秀の声掛けを振り払い自室へと向かった。
ある男と話をするために。
「のぉ冬康、
「えぇ、兄上の仰ることでしたら如何様な命でもお聞きいたします故」
「では冬康よ、今ここで切腹を申してもこの命を受けるか? 其方なのだろう? 我が家に振りまく不運の元凶は! 其方なのだろう!? 我が弟達を葬り謀反を企てる愚か者は!」
「いえ兄上! 滅相もございませぬ! 私ほど貴方の為に忠を尽くしたものはおりませぬ! ……ですが、兄上の命なれば、喜んで腹を切りましょう」
こうして、濡れ衣の切腹なのか長慶の手で殺したのか未だ謎が残る形で、長慶に残された最後の弟である
「……すまない、冬康。もし其方でなんだとしても、こうせざるを得なかったのだ。許せ」
長慶がこのことを後悔しているかどうかは定かではないものの、実の弟を手にかけたことに関してはなにか思っているだろう。
自らの子である
そして、それは自らも同じことだった。
「のぉ久秀よ、私はこれで良いと申せるか? 順風と思っておった政権も、世継ぎも、全部崩れてしまった。最後の弟も、私が自ら命じて腹を切らせてしまった。これで、本当によかったのだろうか?」
「えぇ長慶様。貴方様の行いには間違いはございませぬ。隣でずっと見てきました故、私の目は誤魔化せませんからね」
「……そうか。なら久秀よ、これからは主が三好家を守るのだ。私が死した後、遺された者共で守れぬなら、最後に頼れるのは主だけじゃ。頼んだぞ」
「はい。必ずや三好家を存続させてみせましょうぞ」
その言葉を聞いてかおらずか、畳に敷かれた白いベッドの上で横になっていた長慶は永禄7(1564)年、冬康を殺した1ヶ月後に、自らもあとを追う形で黄泉の道へと向かった。
____そんな激動の戦国時代からウン百年後の現代日本。
ここは、かつて三好長慶が居城にしていたとされる大阪の飯盛山城跡がある
なんの因果かここは三好長慶生前最後の城といわれ、没した場所でもある。
そんな場所に突如として現れた謎の人物。
その人物は
現代人が闊歩する中で突然現れたもんだからそりゃあ注目を浴びるわけで……。
「む? ここは
彼は生前、理世安民を謳ったとされるほどの文化人であり、主に内政を注力して強化し商いに力を注いでいたとされている。
他にも、茶道や和歌などにも触れたとされていて、当時の戦国乱世の大名たちと比べて、あまりにも似つかわしくない大名だったと伝わっている。
そんな彼だからか、見慣れない服装に見慣れない街並みをみても、当時の外国を指す言葉である南蛮という言葉を知ってても何ら不思議では無い。
だが、状況があまりにも最悪だった。
「あのー。そこ邪魔なのでどいて貰ってもいいですか?」
今長慶がいるのは、町民が道行くための道路のど真ん中だった。
そりゃ邪魔である。
しかも車道なのだから尚更邪魔である。
車のクラクションが無数に鳴り響く中、長慶は混乱しながらも言葉を紡ぐ。
「貴様! なんと無礼か! 私はかの三好家の当主、三好長慶であるぞ! 此度はこのような場所に気づいたらいたから良いものの、次は切腹を命ずるぞ」
車にのる男性の声掛けに対して激昂する長慶。
そりゃそうである。
大名に対して敬意の籠っていない言葉をかけられれば当時の人間はきっと怒り心頭だろう。
……どっかのうつけを除いて。
「みよ……なんですって? とにかく、どなたでもいいですが早くどいてください」
男性が徐々に怒りを見せる中で、同時に呆れも出していた。
するとどうだろう、見かねた1人の男性が歩道から長慶の元に歩み寄る。
「どちらさんか分からないですがここは車道ですよ? なんでそんな服を着ているのかはしりませんがとりあえずこちらへ」
なんということか、長慶を不審に思った通行人のひとりが地元の警察を呼んでいたのだ!しかもたまたま近くに交番があっただけである。
「主は何者じゃ! どこの国の使者じゃ! どの大名の許可をとって私を連れてゆくというのじゃ! 私は天下を統べる三好長慶であるぞ!」
「……はぁ。天下を統べる……と仰られましても三好長慶なんて名前存じ上げませんが……」
「というか、天下人と言えば織田信長でしょう? 学校で習いませんでしたか?」
「なっ! なぁぁぁあ!! どうしてじゃ! どうしてなんじゃ久秀よ!! どうして私の名が!よりにもよって織田のうつけの吉法師のほうが知られておって 三好家が! 知られておらぬのじゃぁぁぁあ!!! 」
警察の信じられない発言により長慶は絶叫した。
年甲斐もなくめちゃくちゃ声をはりあげた。
いまさっき死んだばかりだと言うのに……。
結局、このまま長慶は気絶してしまい大人しく警察に保護される形となった。
____これは、知名度復興のため奮闘する三好長慶の苦悩と葛藤を描く物語……。
はてさて、彼が報われる時は来るのだろうか……?