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第2話 始まりの予感

「特に算数問題が難しかったよね。僕も二問間違えて百点逃しちゃったよ」


「ああ……、やっぱそうよね。この学年にもなると難易度が一気に上がったってと思うのよ。私も何時までもうかうかしてられないわ」


「なんだなんだお前ら。そんなんで一々暗くなっちゃって。俺なんてな――」


「あんたは聞かなくても結果は分かってるから。そういう点じゃ一緒にされたくも無いのよ」


「点だけにって?」


「うるさいわね、そんなのにばっか反応しないの。どうせテストの事でおば様に怒られたんでしょ?」


「お、お前……! もしかして俺のプライベートを監視してるのかよ!?」


「んなわけないでしょうが。このやり取りをもう何回してると思ってるのよ?」


「何回でも変わらない驚き。そういう安心感と新鮮さって人生における大事な要素だと思うぜ俺は」


「ああはいはい」


 なんだよなんだよ。冷てぇなあ。こっちだってつーんだぜ、もう。


「テストって言えば、隣のクラスの高橋君。中学受験も考えてらしくて、もう難しい計算や公式を覚えてるらしいよ」


「ああ、あの子。うん、その話だったら私も聞いてるわ。早い子はもうこの時期に力入れてるのよね。そう思うとなんだか遠く感じるわ」


「そのくらいで遠く感じるなんて冷たいぜ。ちょっと算数が出来るからってなんだよ、そんな事いったら俺なんて八歳の頃にはもう掛け算を覚えてたぜ?」


「いや、それはみんなそうだよカツくん」


「え? お前もなの!?」


「……それどういう意味? ねえ、なんでそこ驚くの? その驚きはどういう事? なんで今僕は驚かれてしまったのかな? ねえちょっとねえ!」


「落ち着きないエミ。身が持たなくなるわよ」


 そんな風に楽しく下校している、いつもの三人なわけだ。


 今日もこのまま自分達の家に帰って、それからランドセルを置いてまた公園にでも集まるもんだと思ってたんだけれどもも……。



 ご町内のあの街角を曲がった先の事、ゴミステーションの前で立ち尽くす変なマント姿の長い髪の誰かが居た。


「な、何あれ? 何してるのかな?」


「しっ、変な人に関わらない方がいいわよ。日の出てる内からほんと変なもん見ちゃったわ」


「ん? んん?」


「何かしげてんのよサダ。どうせ変な事考えてんでしょうけど、とっとと行くわよ。関わんないの」


 まったく。人が真剣に考えてる時にちゃちゃっと茶々入れてくるのはやめてよね。

 でも、こんな感じ光景を俺はどっかで聞いたような……、あっ!


「ほらアレだ! 口裂け女だよ。俺は間違いないと思うね!」


「は? 何言ってるのよ、ただの不審者でしょ。そんな口裂けだか花さかだか知らないけどさ、そんなものはとっくの昔に過去の遺物になった都市伝説よ。いまどきそんなもので子供を驚かせるなんてナンセンスが過ぎるし、今本当に現れたとしたら白髪まみれの腰の曲がったおばあさんでしょ。いくら相手が不審者だからって失礼でしょ、比べたら。何十年もいい年どころの騒ぎじゃない程になってまでみっともなく人を襲おうなんて、そんなの根性が腐りきってもはやゾンビだわ。だから居るわけないのよ、そんな腐った死体じみた都市伝説の成れの果てなんて。お分かり? じゃ、行くわよ」


「ああ、そっかぁ」


 なるほど、言われてみればそうだ。

 じゃあアレは口裂け女の出来損ないのコスプレか、ただの不審者だな。な~んだ。


「ぼ、僕は流石にそれ言いすぎだと思うんだけど……。でも確かに不審者には違いないよ、遠回りで帰ろうか」


 と言う、何故か引きつった顔のエミの提案に乗ってその場を去って行こうとした時だ――。


「――ッ! ムッシュ何奴?!」


「俺? サダカツ」


 突然振り返って、誰か聞かれちゃった。

 いざって時に自己紹介が出来る俺って偉いよな。


 その謎マントの振り返った顔は綺麗な顔の外国のお姉さんだった。

 マスクはしてなくて口元はそのまま。当然裂けてなかったぜ。ちぇっ。


「丁寧な返事には誠意をもって応えさせて貰おう。私の事がさぞ気になっている事だろうからここは素直にその正体とを語って上げようじゃないか!」


 そういうとそのお姉さんはマントをひるがえして、カッコつけてた。

 カッコイイ、かも。


「別に気になってないし興味も無いんだけど、私」


「私の名は――」


「え? 続けるの? これもう帰らない二人共。不審者よ、だって。関わって得無しじゃない」


「そ、それは分かるけどせめて名乗りぐらいはさせてあげようよ。その上で考えればいいと思うんだ」


「――だ! これを機に是非覚えておくときっとどこかで感謝する日もやってくる事も無きにあらずだ」


「おお……!」


「あ、結局聞き逃しちゃった」


 なんだなんだ二人共。

 どうやら真面目に聞いていたのは俺だけらしい。人情ってのは無いよな。

 だって名乗りだぜ? 黙って聞く。それが”人”もんじゃん。


「じゃあ俺が教えてやるからよく聞いておけよ。この変なお姉さんは”駄菓子屋食える人”だって」


「は? 駄菓子屋? 駄菓子売って食ってる人って事? ……子供の人気商売を不審者がやってるなんて世も末ね」


「いや、そんな訳ないと思うよ。どう考えても人の名前じゃないじゃないか」


「ふっふっふ。どうやらそこの男の子はちょっとお茶目でおっちょこちょいらしいな。私の名前を聞き間違えるとは。よろしい! ではそんなチャーミングさに敬意を表して、再度名乗ろう!」


「へっへ。俺褒められちゃったぜ」


「いや、だから別に知りたい訳じゃないんだけど。それにどこに敬うポイントがあったのよ」


 あっ何かにつけて文句言ってさ。いっけないんだそんな。

 その点俺っていい子だよな。


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